問題提起
法律相談で丁寧に話を聞いてくれた弁護士に依頼したつもりが、実際に書面を作ったり裁判所に出向いたりしているのは別の弁護士だった、ということがある。複数の弁護士がいる事務所では、事件ごとに担当が決まることが多いからである。誰が実際に事件を扱うのかを依頼の前に確かめておくと、後で戸惑わずに済む。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
法律相談で丁寧に話を聞いてくれた弁護士に依頼したつもりが、実際に書面を作ったり裁判所に出向いたりしているのは別の弁護士だった、ということがある。複数の弁護士がいる事務所では、事件ごとに担当が決まることが多いからである。誰が実際に事件を扱うのかを依頼の前に確かめておくと、後で戸惑わずに済む。
弁護士法人は、特定の事件について、業務を担当する社員を指定することができる。
2 前項の規定による指定がされた事件(以下「指定事件」という。)については、指定を受けた社員(以下「指定社員」という。)のみが業務を執行する権利を有し、義務を負う。
(中略)
4 弁護士法人は、第一項の規定による指定をしたときは、指定事件の依頼者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。
5 依頼者は、その依頼に係る事件について、弁護士法人に対して、相当の期間を定め、その期間内に第一項の規定による指定をするかどうかを明らかにすることを求めることができる。(後略)弁護士法30条の14(e-Gov法令検索で原文確認)
訴訟代理人が数人あるときは、各自当事者を代理する。民事訴訟法56条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。民法104条(e-Gov法令検索で原文確認)
民事訴訟法55条2項は、訴訟代理人が特別の委任を受けなければならない事項として、「代理人の選任」を挙げている(同項5号)。
弁護士職務基本規程は、国会が定めた法律ではなく、日本弁護士連合会が定めた会規で、弁護士はこれに従って職務を行う。
弁護士は、事務職員、司法修習生その他の自らの職務に関与させた者が、その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に及び、又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし、若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければならない。弁護士職務基本規程19条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 弁護士個人に依頼する場合。 委任契約の相手は、その弁護士である。共同事務所だからといって、所属する弁護士全員が受任者になるわけではない。委任契約書の受任者の欄などで、契約の相手が誰かを確かめる(担当者の欄や所属弁護士の一覧とは区別する)。複数の弁護士が一緒に受任することもある。
② 弁護士法人に依頼する場合。 委任契約の相手は弁護士法人である。弁護士法人は、特定の事件について業務を担当する社員を指定することができ、指定したときは、依頼者に書面で通知しなければならない(弁護士法30条の14第1項・4項)。依頼者は、弁護士法人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に指定をするかどうかを明らかにするよう求めることができ、弁護士法人がその期間内に指定の通知をしないときは、その後は、依頼者の同意を得る場合を除き、指定をすることができない(同条5項)。指定事件について指定社員が欠けたときは、弁護士法人は新たに指定しなければならず、指定がされなかったときは全社員を指定したものとみなされる(同条6項)。ここでいう「社員」は法人の構成員である弁護士のことで、従業員の意味ではない。指定社員は、その事件について業務を執行し法人を代表する法律上の地位で、実際に連絡や打合せに当たる弁護士と同じとは限らない。指定は、法人が依頼者に負う債務について社員個人が負う責任の範囲にも関係する(同法30条の15)が、法人自体の責任がなくなるわけではない。社員が1人の弁護士法人が事件の依頼を受けたときは、その社員を指定したものとみなされる(同条7項)。また、裁判所での手続の代理(刑事事件を除く)などについては、弁護士法人は、依頼者に、その法人の社員または使用人である弁護士のうちから代理人を選任させなければならない(弁護士法30条の6第1項)。訴訟では、法令で定める場合などを除き、弁護士でなければ訴訟代理人になれない(民事訴訟法54条1項)。このため、裁判の委任状には、代理人となる弁護士個人の名前が書かれる。
③ 訴訟代理人が数人いる場合。 訴訟代理人が数人いるときは、各自が当事者を代理する(民事訴訟法56条1項)。当事者がこれと異なる定めをしても効力を生じない(同条2項)。
④ 別の弁護士に任せる場合(復代理人・復受任者)。 一般の委任による代理人が復代理人を選任するには、本人の許諾を得たときか、やむを得ない事由があるときでなければならない(民法104条)。受任者が復受任者を選任する場合も同じである(民法644条の2第1項)。これに対し、民事訴訟の訴訟代理人が代理人を選任するには、特別の委任が必要であり(民事訴訟法55条2項5号)、「やむを得ない事由」があるというだけでは足りない。訴訟委任状に、代理人の選任の権限があらかじめ書かれていることもある。
⑤ 事務職員の関わり。 書類の受付や連絡などに事務職員が関わることがある。弁護士は、事務職員が違法・不当な行為をしたり秘密を漏らしたりしないよう、指導・監督しなければならない(弁護士職務基本規程19条)。弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関して法律事務を取り扱うことなどを業とすることは、法律に別段の定めがある場合を除き禁止されている(弁護士法72条)。
1. 相談の場で、相談者が、「依頼した場合、実際に担当するのはどなたですか」と尋ねる。
2. 担当が複数の弁護士になる場合、相談者が、主に担当する弁護士と、それぞれの役割を尋ねる。
3. 相談者が、連絡の窓口(担当弁護士・事務職員)を確かめる。
4. 依頼する場合、相談者が、委任契約書で受任者(弁護士個人か弁護士法人か)と担当者の記載を確かめる。弁護士法人の場合は、担当社員の指定の通知の有無も確かめる。
5. 依頼した後に担当が替わるときは、相談者が、替わる理由と引継ぎの方法に加え、委任契約の相手が変わるのか、委任状の出し直しや裁判所への届出が必要か、進行中の期限を誰が管理するのかの説明を求める。同じ受任者のもとでの分担の変更と、受任者そのものの交代は別である。委任契約上の地位を別の弁護士や弁護士法人に移すには、依頼者の承諾が必要である(民法539条の2)。
実務の視点 委任契約書では受任者の欄(弁護士個人か弁護士法人か)を、訴訟委任状では代理人となる弁護士の名前を確かめる。署名する前に、そこに書かれた名前が相談のときに説明された担当者と一致しているかを確かめる。裁判になった場合は、裁判所に提出される委任状にも、代理人となる弁護士の名前が書かれる。
① 相談した弁護士が必ず担当するとは限らない。 共同事務所や弁護士法人では、相談を受けた弁護士と担当する弁護士が違うことがある。それ自体が問題というわけではないが、依頼の前に確かめておく。
② 複数の弁護士が担当することには利点もある。 弁護士が不在のときに他の弁護士が対応できる、意見を出し合えるなどの面がある。誰が主に担当し、誰が判断するのかを確かめておく。
③ 事務職員は弁護士の代わりに法律判断をする立場ではない。 事件の方針や見通しのような判断は、弁護士から説明を受ける。
④ 別の弁護士が関わる形はいくつかある。 共同受任、復代理人や復受任者の選任、弁護士法人の中での分担、補助的な関わりなどは、それぞれ法律上の扱いが違う。すでに委任を受けている弁護士の間で分担を変えることが、常に新たな復代理人の選任になるわけではない。どの形で関わっているのかは、委任契約書と委任状の記載を見て、担当の弁護士に確かめる。
議論のある点 委任契約書に名前のない弁護士が事件に関わっている場合に、その関わりが共同受任・復代理・補助のどれに当たるのか、依頼者の許諾や特別の委任が必要だったのかは、依頼者との合意、委任状の記載、実際の関わりの内容によって判断が分かれる。事務職員については、弁護士の補助の範囲にとどまっているかが実態から問題になる。依頼者が許諾しても、弁護士でない者による法律事務の取扱いの禁止(弁護士法72条)や、訴訟代理人の資格の制限(民事訴訟法54条1項)が外れるわけではない。担当者について説明と実際が違うと感じたときは、一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・依頼した後、説明なく担当の弁護士が替わった
・誰が事件を担当しているのか分からず、方針の相談ができない
・委任状に書かれた弁護士と、実際に対応している人が違う
・弁護士との面談や連絡を求めても、事務職員の対応だけが続き、誰が判断しているのか確かめられない
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
担当者は、依頼する前の相談で確かめ、委任契約書に署名する前に記載を確かめる。相談、委任契約の締結、担当者の決定だけで、時効や裁判の期限への対策が済むわけではない。期限が迫っている事件では、期限の日付、必要な手続、誰がいつまでに行うかを確かめる。担当者の交代や引継ぎの間も、期限は延びない。
相談を受けた弁護士と、実際に事件を担当する弁護士は同じとは限らない。弁護士法人は担当社員を指定でき、指定したときは書面で通知しなければならず、復代理人の選任には原則として本人の許諾が要る。依頼する前に、委任契約の相手、主に担当する弁護士、連絡の窓口を確かめ、委任契約書と委任状の記載と見比べる。
出典
民法104条・539条の2・644条の2(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-21)
民事訴訟法55条2項・56条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-21)
民事訴訟法54条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-21)
弁護士法30条の6・30条の14・30条の15・72条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-21)
弁護士職務基本規程19条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)