問題提起
法律相談で弁護士から話を聞き、「これで弁護士に動いてもらえる」と思っていたら、実は依頼したことになっていなかった、ということがある。反対に、相談のつもりで話していたのに、いつの間にか依頼が決まっていたと感じることもある。相談から受任までにどのような段取りがあるのかを知っておくと、行き違いを防げる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
法律相談で弁護士から話を聞き、「これで弁護士に動いてもらえる」と思っていたら、実は依頼したことになっていなかった、ということがある。反対に、相談のつもりで話していたのに、いつの間にか依頼が決まっていたと感じることもある。相談から受任までにどのような段取りがあるのかを知っておくと、行き違いを防げる。
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。民法643条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、事件の依頼を承諾しないときは、依頼者に、すみやかに、その旨を通知しなければならない。弁護士法29条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければならない。弁護士職務基本規程29条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない。ただし、委任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由がやんだ後、これを作成する。弁護士職務基本規程30条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
委任契約は、書面がなくても、依頼の申込みと弁護士の承諾があれば成立しうる(民法643条、契約の方式について民法522条2項)。以下の②〜⑤は、弁護士が法律や会規に従って行うことで、そろわなければ契約が成立しないという意味ではない。
① 依頼の申込みと弁護士の承諾があること。 委任契約は、依頼する人が事件の処理を委託し、弁護士がこれを承諾することで成立する(民法643条。法律行為でない事務の委託は準委任で、委任の規定が準用される〔民法656条〕)。
② 職務を行えない事件ではないこと。 弁護士は、相手方から先に相談を受けて助言していた事件などについて職務を行ってはならない(弁護士法25条)。そのため、弁護士は相談の申込みや受任の前に、相手方の氏名などを確かめる(利益相反の確認)。
③ 見通し・処理の方法・報酬と費用の説明があること。 弁護士は、依頼者から得た情報に基づいてこれらを説明しなければならない(弁護士職務基本規程29条1項)。弁護士は、依頼者に有利な結果となることを請け合ったり保証したりしてはならない(同条2項)。
④ 委任契約書を作ること。 弁護士は、原則として、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作らなければならない(同規程30条1項)。法律相談、簡易な書面の作成、顧問契約などの継続的な契約に基づく事件など合理的な理由があるときは、作らなくてよいとされている(同条2項)。
⑤ 受任するかどうかの通知があること。 弁護士は、事件の依頼があったときは、速やかに、引き受けるかどうかを依頼者に通知しなければならない(同規程34条。引き受けないときの通知について弁護士法29条)。
1. 相談したい人が、相談の申込みのときに、相手方の氏名・名称と相談の概要を伝える。弁護士側は利益相反がないかを確かめる。
2. 法律相談で、相談者が事実関係と資料を説明し、弁護士が法律上の考え方や取りうる手段を説明する。
3. 相談者が依頼を希望する場合、弁護士は、見通し、処理の方法、弁護士報酬と費用を説明する。依頼の内容によっては、日本弁護士連合会の規程に基づいて本人確認書類の提示を求められる。対象になる場面と、対象にならない場面(裁判所の手続での和解金の受領、報酬・費用の前受けなど)は規程で決まっており、依頼の内容によって異なる。
4. 弁護士が引き受けることを決めたら、依頼者と弁護士が委任契約書を取り交わす。委任状(訴訟や交渉で代理権を示す書面)も作ることが多い。
5. 依頼者が、委任契約書の定めに従って着手金や実費を支払う。
6. 弁護士が事件に着手する(相手方への通知、資料の収集、申立ての準備など)。
実務の視点 相談の場で依頼を即決しなくてもよい。見積りや委任契約書の案をもらって持ち帰り、家族と相談してから決めることもできる。逆に、期限が迫っている場合は、いつまでに何をする必要があるかを相談の場で確かめ、依頼するかどうかの返事の期限も弁護士と決めておくとよい。
① 相談しただけでは依頼したことにならない。 相談の後に、弁護士が相手方への連絡や申立てをしてくれると思い込まない。依頼したかどうかは、委任契約書を取り交わしたか、弁護士が引き受けると明確に伝えたかで確かめる。あわせて、何を(相談・調査だけか、交渉か、訴訟までか)引き受けてもらったのかも確かめる。
② 相談料と依頼の費用は別である。 相談料は相談の対価であり、事件を依頼した場合には、着手金・報酬金・実費などが別にかかるのが一般的である。受任する事務の範囲、報酬の種類・金額・算定方法・支払時期、実費の負担に加え、委任契約が途中で終了した場合の清算方法も、委任契約書で確かめる(弁護士の報酬に関する規程5条4項)。
③ 断られた理由が詳しく説明されないことがある。 利益相反を理由に断る場合、理由を説明すると相手方の秘密を明かすことになりかねないため、弁護士が詳しい理由を述べないことがある。
④ すべての弁護士が同じ方針を示すとは限らない。 見通しや方針は弁護士によって異なることがある。納得できなければ、別の弁護士に相談することもできる。
議論のある点 委任契約は書面がなくても成立しうるため、委任契約書を取り交わす前に弁護士が一部の作業を始めた場合や、口頭のやり取りだけで依頼が進んだ場合に、いつ委任契約が成立したか、どこまでを依頼していたかは、やり取りの内容によって判断が分かれる。報酬の支払義務や、弁護士が期限を管理すべきだったかが争いになることもある。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・相談の後、弁護士が動いてくれていると思っていたが、受任の連絡がない
・委任契約書を作らないまま、着手金を求められた
・依頼を断られたが、期限が迫っていて次の相談先が見つからない
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
時効・控訴期限・相続放棄の期間など、期限のある問題を抱えているときは、相談の段階でそのことを伝え、依頼するかどうかの判断を急ぐ。相談の予約や法律相談をしただけでは、時効や裁判の期限は止まらない。依頼の返事の期限を弁護士と決めても、裁判所の手続の期限や時効が延びるわけではない。受任してもらえるかどうかがはっきりしないまま期限が近づいたら、すぐに弁護士に確かめ、引き受けてもらえない場合は別の窓口に相談する。
法律相談と事件の依頼は別で、依頼する人の申込みと弁護士の承諾によって委任契約が成立する。受任に当たって、弁護士は見通し・処理の方法・報酬と費用を説明し、原則として委任契約書を作る。依頼したつもりで期限を迎えないよう、受任されたかどうかを書面で確かめる。
出典
民法522条・643条・656条、弁護士法25条・29条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
弁護士職務基本規程29条・30条・34条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)