問題提起
相談した弁護士から「十分勝てます」「すぐに解決します」と言われると、安心して依頼したくなる。しかし、裁判や交渉の結果は、証拠、相手方の反論、裁判所の判断によって変わる。良いことばかり言われたときに、その見通しをどう受け止めればよいのか、弁護士にはどのような決まりがあるのかを知っておくと、依頼の判断を落ち着いてできる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
相談した弁護士から「十分勝てます」「すぐに解決します」と言われると、安心して依頼したくなる。しかし、裁判や交渉の結果は、証拠、相手方の反論、裁判所の判断によって変わる。良いことばかり言われたときに、その見通しをどう受け止めればよいのか、弁護士にはどのような決まりがあるのかを知っておくと、依頼の判断を落ち着いてできる。
弁護士職務基本規程は、国会が定めた法律ではなく、日本弁護士連合会が定めた会規で、弁護士はこれに従って職務を行う。規程に反したことが、それだけで依頼者に対する損害賠償責任になるわけではない。
弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければならない。
2 弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け合い、又は保証してはならない。
3 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにもかかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはならない。弁護士職務基本規程29条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、広告又は宣伝をするときは、虚偽又は誤導にわたる情報を提供してはならない。弁護士職務基本規程9条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、不当な目的のため、又は品位を損なう方法により、事件の依頼を勧誘し、又は事件を誘発してはならない。弁護士職務基本規程10条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 根拠が示されているか。 弁護士の見通しは、依頼者から得た情報に基づく(弁護士職務基本規程29条1項)。どの事実とどの証拠から、その見通しになるのかを確かめる。
② 結果の保証になっていないか。 弁護士は、有利な結果を請け合ったり保証したりしてはならない(同条2項)。「必ず」「確実に」と言い切る説明は、根拠を確かめる。
③ 見込みがないのにあるように装っていないか。 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないのに、見込みがあるように装って受任してはならない(同条3項)。
④ 見通しの幅が説明されているか。 一番良い場合と一番悪い場合、その間にどのような結果がありうるか、かかる時間と費用、費用倒れの可能性があるかを確かめる。
1. 相談の場で、相談者が、有利な事情だけでなく不利な事情や手元にない証拠も伝える。
2. 弁護士から有利な見通しを示されたら、相談者が「その見通しの根拠は何ですか」「相手方はどのような反論をしそうですか」と尋ねる。
3. 相談者が「うまくいかない場合はどうなりますか」「費用をかけても回収できない可能性はありますか」と尋ねる。
4. 説明に納得できない点が残るとき、または依頼を急かされたときは、相談者がその場で決めず、必要に応じて別の弁護士の意見を聞く。
5. 依頼する場合は、相談者が、依頼する業務の範囲と報酬・費用について、説明と委任契約書の記載が一致しているかを確かめてから署名する。見通しは委任契約書に書かれないことが多いので、重要な説明はメモに残しておく。
実務の視点 見通しを尋ねるときは、「勝てますか」と聞くより、「どの点が争いになりますか」「どの証拠があれば有利になりますか」「一番悪い場合はどうなりますか」と具体的に尋ねると、見通しの根拠と幅を引き出しやすい。説明の内容はメモに残しておき、別の弁護士に意見を求めるときにも使う。
① 有利な見通しを示すこと自体は禁止されていない。 根拠のある有利な見通しの説明は、相談者が判断するための材料である。禁止されているのは、結果を請け合ったり保証したりすることや、見込みがないのにあるように装って受任することである(弁護士職務基本規程29条2項・3項)。ただし、これらに当たらなくても、弁護士は、受任に当たり、そのとき得られている情報に照らして見通しを適切に説明しなければならない(同条1項)。重要なリスクや不確かな点の説明が欠けていれば、この説明の問題になりうる。
② 厳しい見通しを示す弁護士が頼りないわけではない。 不利な点を率直に説明することも、相談者が判断するための大切な材料である。
③ 広告の表示と相談での説明は別物。 広告に良い結果ばかりが書かれていても、相談者の事件で同じ結果になるとは限らない。弁護士は、広告で虚偽または誤導にわたる情報を提供してはならないとされている(同規程9条1項)。
④ 見通しは途中で変わることがある。 相手方の反論や新しい証拠で見通しが変わることがある。依頼した後も、節目ごとに見通しの説明を求める(同規程36条)。
⑤ セカンドオピニオンの注意。 別の弁護士に意見を聞くときは、最初の相談で伝えた事情と同じ事情を、資料とともに伝える。伝える事情が違うと、見通しも違ってくる。
議論のある点 どのような説明が「有利な結果を請け合い、又は保証」したことに当たるか、見込みを「装って」受任したといえるかは、説明の言葉だけでなく、説明の前後の文脈、示された根拠、依頼者が伝えた情報によって判断が分かれる。結果が期待どおりでなかったことだけで、見通しの説明に問題があったことになるわけではない。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・「必ず勝てる」「確実に取り戻せる」と言われ、すぐに依頼と支払を求められた
・説明された見通しの根拠が分からず、別の弁護士の意見を聞きたい
・依頼した後、聞いていた見通しと実際の進み方が大きく違っている
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
見通しの根拠は、依頼する前の相談で確かめる。相談をしただけでは、時効や裁判の期限は止まらず、弁護士が期限の管理を引き受けたことにもならない。期限が迫っている事件では、別の弁護士の意見を聞く時間があるかどうかを、最初の相談の場で確かめておく。
弁護士は、有利な結果を請け合ったり保証したりしてはならず、見込みがないのにあるように装って受任してはならないとされている。良いことばかり言われたときは、見通しの根拠、相手方の反論、うまくいかない場合の結果と費用を尋ね、納得できなければその場で決めずに別の弁護士の意見を聞くことも考える。
出典
弁護士職務基本規程9条1項・10条・29条・36条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)