問題提起
弁護士費用の説明では、「着手金」と「報酬金」という言葉がよく出てくる。着手金を払ったのに負けたら返ってこないのか、報酬金はどうやって計算されるのか。言葉の意味を知っておくと、委任契約書の費用の欄を読みやすくなる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
弁護士費用の説明では、「着手金」と「報酬金」という言葉がよく出てくる。着手金を払ったのに負けたら返ってこないのか、報酬金はどうやって計算されるのか。言葉の意味を知っておくと、委任契約書の費用の欄を読みやすくなる。
受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。
3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき。民法648条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士等の報酬は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力その他の事情に照らして適正かつ妥当なものでなければならない。弁護士の報酬に関する規程2条(e-Gov法令検索で原文確認)
委任契約書には、受任する法律事務の表示及び範囲、弁護士等の報酬の種類、金額、算定方法及び支払時期、委任事務の終了に至るまで委任契約の解除ができる旨並びに委任契約が中途で終了した場合の清算方法を記載しなければならないとされている(弁護士の報酬に関する規程5条4項)。
① 報酬の支払義務は委任契約で決まる。 委任では、特約がなければ受任者は報酬を請求できない(民法648条1項)。弁護士に依頼する場合は、委任契約書で報酬を定めるのが通常である。
② 着手金は受任のときに支払うことが多い。 着手金は、事件の処理に取りかかる対価として、受任のときに支払うと定められることが多い。結果が依頼者の望むものにならなくても、それだけを理由に返されるものではないとされることが多い。
③ 報酬金は結果に応じて支払うことが多い。 報酬金は、事件が終わったときに、依頼者が得た経済的利益(回収できた額、支払を免れた額など)を基準に計算されることが多い。何を経済的利益とするかは、委任契約書の定めによる。
④ 報酬は適正かつ妥当でなければならない。 弁護士は、経済的利益・事案の難易・時間と労力その他の事情に照らして、適正かつ妥当な報酬を提示しなければならない(弁護士職務基本規程24条、弁護士の報酬に関する規程2条)。
⑤ 他の報酬や実費は別である。 着手金・報酬金のほか、手数料(書面の作成などの一回的な事務の対価)、日当、実費などがかかることがある。
1. 受任のとき、弁護士が着手金・報酬金の額と計算方法を説明し、委任契約書に書く。
2. 依頼者が、委任契約書に定めた時期に着手金を支払う。
3. 弁護士が事件を処理する。
4. 事件が終わったら、弁護士が結果と報酬金の計算を説明し、依頼者が報酬金を支払う。相手方から受け取ったお金から差し引いて精算することもある。差し引く根拠には、委任契約の定めによる場合と、民法の相殺(民法505条)による場合とがある。差し引いた根拠・金額・収支の内訳を確かめる。弁護士は、清算のうえ、返すべき残りを遅滞なく返さなければならない(弁護士職務基本規程45条)。
実務の視点 報酬金の計算は、「請求額」「判決や和解で認められた額」「実際に回収できた額」のどれを基準にするかで大きく変わる。依頼のときに、具体的な金額の例を挙げて「この場合はいくらになるか」を弁護士に計算してもらうと、後の行き違いを防げる。
① 着手金は「負けたら返る」お金ではないとされることが多い。 着手金は結果にかかわらず支払うものとして定められることが多い。
② 報酬金は「勝ったときだけ」とは限らない。 一部だけ認められた場合や、相手方の請求を減らせた場合にも、得られた経済的利益に応じて報酬金がかかることがある。
③ 見積書を求めることができる。 弁護士・弁護士法人は、依頼しようとする者から申出があったときは、報酬見積書の作成と交付に努めるとされている(弁護士の報酬に関する規程4条)。
④ 途中で終わった場合は清算の定めを見る。 解任や辞任で途中で終わったときは、委任契約書の清算方法の定めと、民法648条3項(履行の割合に応じた報酬)・648条の2(成果に対する報酬)を踏まえて清算される。2020年4月1日より前に結ばれた委任契約には、改正前の民法が適用される(平成29年法律第44号附則34条1項)。成果に対する報酬は、可分な成果によって依頼者が利益を受けるときに、その割合に応じて請求できるとされている(民法648条の2第2項が準用する634条)。報酬の清算とは別に、不利な時期の解除などによる損害賠償が問題になる場合もある(民法651条2項)。
⑤ 相場を一律に示すことはできない。 弁護士報酬は自由化されており、事務所ごとの報酬基準と事案によって異なる。比べるときは、着手金・報酬金だけでなく、計算方法や他の費用も含めて比べる。
⑥ 費用の立替えの制度もある。 収入と資産が一定の基準以下の人などは、法テラスの民事法律扶助で、弁護士費用の立替えを受けられる場合がある(総合法律支援法30条1項2号)。立替えを受けた費用は、原則として分割で返す。
議論のある点 委任契約が途中で終了したときに、着手金をどれだけ返すべきか、報酬金の一部を請求できるかは、委任契約書の定め、終了の理由(依頼者の都合か、弁護士側の事情か)、事務の進み具合によって判断が分かれる。報酬金の計算の基準となる経済的利益をどう捉えるかも、事件の内容によって争いになることがある。依頼者が消費者である場合、途中で解除したときに返さないとする条項について、消費者契約法9条1項1号(解除に伴う損害賠償の予定・違約金の条項のうち平均的な損害の額を超える部分の無効)や10条との関係が問題になることもある。ただし、着手金を返さないとする条項がすべて当然に同号の対象になるわけではない。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・報酬金の請求額が、依頼のときの説明と大きく違う
・途中で依頼をやめたが、着手金の清算について説明がない
・委任契約書に報酬金の計算方法が書かれていない
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。弁護士との間で報酬をめぐって紛争になったときは、弁護士会の紛議調停の制度を使える場合もあります。
着手金と報酬金の計算方法は、委任契約書に署名する前に確かめる。報酬金の請求を受けて疑問があるときは、支払う前に弁護士に計算の根拠を説明してもらう。
着手金は事件に取りかかるときに結果にかかわらず支払うもの、報酬金は結果に応じて支払うものとされることが多いが、実際の性質と額は委任契約書で決まる。弁護士は報酬基準を備え置き、委任契約書に報酬の種類・金額・算定方法・支払時期を書かなければならない(弁護士の報酬に関する規程3条・5条4項)。途中で終わったときは、報酬の性質と有効な契約条項、履行の状況・成果に応じて清算される(民法648条3項・648条の2)。常に作業の進み具合の割合で着手金が返されるわけではない。
出典
民法505条・634条・648条・648条の2・651条、消費者契約法9条・10条、総合法律支援法30条1項2号、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則34条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
弁護士職務基本規程24条・45条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)
弁護士の報酬に関する規程2条〜5条(平成16年日本弁護士連合会会規第68号)