問題提起
弁護士を探していると、弁護士が何十人もいる事務所と、弁護士が1人の事務所の両方が見つかる。「大きな事務所の方が安心なのか」「個人の事務所の方が親身なのか」と迷う人は多い。しかし、事務所の規模で弁護士の能力や対応が決まるわけではない。法律が定める事務所の形の違いと、それによって依頼者が確かめておきたい点を知っておくと、規模の印象に左右されずに選びやすくなる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
弁護士を探していると、弁護士が何十人もいる事務所と、弁護士が1人の事務所の両方が見つかる。「大きな事務所の方が安心なのか」「個人の事務所の方が親身なのか」と迷う人は多い。しかし、事務所の規模で弁護士の能力や対応が決まるわけではない。法律が定める事務所の形の違いと、それによって依頼者が確かめておきたい点を知っておくと、規模の印象に左右されずに選びやすくなる。
弁護士の事務所は、法律事務所と称する。
2 法律事務所は、その弁護士の所属弁護士会の地域内に設けなければならない。
3 弁護士は、いかなる名義をもつてしても、二箇以上の法律事務所を設けることができない。但し、他の弁護士の法律事務所において執務することを妨げない。弁護士法20条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、この章の定めるところにより、第三条に規定する業務を行うことを目的とする法人(以下「弁護士法人」という。)を設立することができる。弁護士法30条の2第1項(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士法人は、特定の事件について、業務を担当する社員を指定することができる。弁護士法30条の14第1項(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士職務基本規程は、国会が定めた法律ではなく、日本弁護士連合会が定めた会規で、弁護士はこれに従って職務を行う。同規程は、複数の弁護士が法律事務所(弁護士法人や弁護士・外国法事務弁護士共同法人の法律事務所である場合を除く)を共にする場合のその事務所を「共同事務所」と呼び(55条)、次のように定めている。
所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務を行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。弁護士職務基本規程57条(e-Gov法令検索で原文確認)
所属弁護士は、他の所属弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は利用してはならない。その共同事務所の所属弁護士でなくなった後も、同様とする。弁護士職務基本規程56条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士法人については、同規程64条・65条などに、社員や使用人である弁護士の間で職務を行い得ない事件の範囲が広がる定めがある。さらに、弁護士法自体が、弁護士法人が相手方の協議を受けて賛助した事件や、社員・使用人である弁護士が相手方から受任している事件などについて、弁護士法人がその業務を行ってはならないと定め(弁護士法30条の18)、弁護士法人の社員・使用人である弁護士が、その法人が相手方から受任している事件などで職務を行うことを禁じている(同法25条8号など)。
① 弁護士が1人の事務所。 相談を受ける弁護士と事件を担当する弁護士が同じであることが多い。弁護士が1人で事件を担当するので、その弁護士が不在のときの連絡方法を確かめておくとよい。
② 共同事務所。 複数の弁護士が1つの法律事務所を共にする。事務所の中で、事件ごとに担当する弁護士が決まる。同じ事務所の他の弁護士が、相手方の協議を受けて賛助していたり、相手方から依頼を受けていたりするなど、利益相反の決まり(同規程27条・28条)で扱えない事件は、原則として同じ事務所の弁護士も扱えない(同規程57条)。
③ 弁護士法人。 弁護士が設立する法人で、弁護士法人に依頼すると、委任契約の相手は法人になる。ただし、法人の社員である弁護士が、他の社員の承諾を得て個人として事件を受けることもある(弁護士法30条の19第2項)ので、所属先の名前だけで判断せず、委任契約書で契約の相手を確かめる。ここでいう「社員」は法人の構成員である弁護士のことで、従業員の意味ではない(雇われている弁護士は「使用人」と呼ばれる)。弁護士法人は、複数の法律事務所を設けることがあり、その場合も利益相反は法人全体で問題になる。弁護士法人は、特定の事件について業務を担当する社員を指定することができ(弁護士法30条の14第1項)、指定したときは、依頼者にその旨を書面で通知しなければならない(同条4項)。社員が1人の弁護士法人が事件の依頼を受けたときは、その社員を指定したものとみなされる(同条7項。社員が1人でも、使用人である弁護士がいれば、所属する弁護士が1人とは限らない)。指定社員は、その事件について業務を執行し法人を代表する法律上の地位で、実際に相談や連絡に当たる弁護士と同じとは限らない。裁判所での手続の代理(刑事事件を除く)などについては、弁護士法人は、依頼者に、その法人の社員または使用人である弁護士のうちから代理人を選任させなければならない(同法30条の6第1項)。
④ どの形でも変わらないこと。 事件を扱うのは、日本弁護士連合会の弁護士名簿に登録された弁護士であり、弁護士職務基本規程の説明義務(29条)や秘密の保持(23条)は、事務所の規模にかかわらず適用される。
1. 相談の予約の際に、相談者が、相手方の名前(会社名を含む)を伝え、事務所が利益相反の確認をできるようにする。
2. 相談の場で、相談者が、実際に事件を担当する弁護士は誰か、相談を受けた弁護士が担当するのかを尋ねる。
3. 相談者が、連絡の窓口(担当弁護士・事務職員)と連絡の方法を確かめる。
4. 弁護士法人に依頼する場合は、相談者が、担当する弁護士(指定社員を含む)がどのように決まるのかを尋ねる。
5. 依頼する場合は、相談者が、委任契約書で依頼の相手(弁護士個人か、弁護士法人か)と担当者の記載を確かめる。
実務の視点 事務所は、相手方や関係者の名前をもとに、現在・過去の依頼関係や、所属する弁護士(以前所属していた弁護士を含む)の関わりなどを確かめる。確かめ方は事務所によって異なるが、相談者が相手方や関係者の名前を予約の段階など早めに伝えることが大切である。確認の結果、事務所の内部の事情で依頼を受けられないと言われることがある。その場合、事務所は理由の詳細を説明できないことも多い(他の依頼者の秘密に関わるため)。
① 規模で能力が決まるわけではない。 大きな事務所には多くの弁護士がいるが、実際に事件を担当するのは、その中の特定の弁護士である。弁護士が1人の事務所でも、事件の内容によっては、他の事務所の弁護士と共同で受任することがある。規模よりも、担当する弁護士の説明や対応を見て判断する。
② 規模にかかわらず、依頼を受けられない場合がある。 所属する弁護士が多い事務所では、確かめる関係の範囲も広がることがある。ただし、実際に依頼を受けられるかどうかは、人数だけでなく、取扱分野、依頼者との関係、過去の関わりなどによって異なる。
③ 「同じ事務所」の範囲は、看板だけでは分からないこともある。 同じ住所で執務していても、共同事務所かどうかは事務所の実態によって判断される。相談者は、利益相反の確認をしたかどうかを、直接尋ねるとよい。
④ 秘密の保持は事務所の他の弁護士にも及ぶ。 共同事務所の所属弁護士は、他の所属弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を、正当な理由なく漏らしたり利用したりしてはならない(同規程56条)。
議論のある点 共同事務所では、他の所属弁護士が扱えない事件でも、「職務の公正を保ち得る事由」があるときは例外とされている(同規程57条ただし書)。どのような場合にこの例外に当たるか、どの範囲の事務所が「共同事務所」に当たるかは、事務所の実態などによって判断が分かれ、情報を分けて管理しているというだけで当然に認められるものではない。なお、弁護士法人については、弁護士法が直接定める業務・職務の制限(弁護士法25条・30条の18)があり、会規の例外によってこれを外すことはできない。同じ事務所に相手方の代理人がいると分かったときは、一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・相談した事務所の別の弁護士が、相手方の代理人になっていると分かった
・依頼したのに、実際に担当している弁護士が誰か分からない
・事務所の内部の事情で依頼を断られ、急いで別の依頼先を探さなければならない
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
担当者と利益相反の確認は、依頼する前に済ませる。相談をしただけでは、時効や裁判の期限は止まらない。期限が迫っている事件では、事務所の規模の比較に時間をかけすぎず、早めに相談先を決める。利益相反を理由に依頼を断られた場合に備えて、他の相談先も考えておく。
法律事務所には、弁護士が1人の事務所、共同事務所、弁護士法人などの形があるが、規模で優劣は決まらない。共同事務所や弁護士法人では、利益相反の決まりが事務所の他の弁護士にも及ぶので、依頼を受けられない場合がある。どの形の事務所でも、実際に担当する弁護士、連絡の窓口、利益相反の確認の有無を、依頼する前に確かめる。
出典
弁護士法20条・25条・30条の2・30条の6・30条の14・30条の18・30条の19(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-21)
弁護士職務基本規程23条・27条・28条・29条・55条〜57条・64条・65条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)