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民事保全|判決前に財産を押さえる意味

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この記事の要点

  • 民事保全は、訴訟で勝っても相手方の財産がなくなっていて回収できない、係争物の状態が変わってしまう、といった事態を防ぐため、判決の前に裁判所の命令で財産や権利関係を暫定的に押さえる手続である。仮差押え、係争物に関する仮処分、仮の地位を定める仮処分の3種類がある(民事保全法1条・20条・23条)。
  • 申立てでは、保全すべき権利(被保全権利)と保全の必要性を明らかにし、疎明(一応確からしいと裁判所に思わせる程度の立証)をしなければならない(民事保全法13条)。保全命令は、担保を立てさせて、または担保を立てさせないで発せられる(民事保全法14条1項)。実際には担保を求められることが多い。
  • 保全命令は暫定的なもので、債務者は保全異議を申し立てたり、本案の訴えを起こすよう債権者に命じることを求めたりできる(民事保全法26条・37条)。保全命令が、被保全権利がないとして異議や上訴の手続で取り消されたり、本案で債権者の敗訴が確定したりした場合は、特段の事情がない限り債権者に過失があったと推認され、債権者は債務者の損害を賠償する責任を負うことがある(最判昭和43年12月24日・民集22巻13号3428頁)。

期限に注意

保全命令が出ても、債権者に命令が送達された日から2週間を過ぎると、保全執行(実際に差し押さえるなどの手続)をすることができなくなる(民事保全法43条2項)。債務者への送達の日や命令の発令の日から数えるのではない。この期間は裁判所の判断で延ばせるものではない。動産の仮差押えや占有移転禁止の仮処分のように執行官が執行するものは、発令後に執行官に執行を申し立てる必要があるので、発令前から執行の段取りを確かめておく。担保を立てることが条件とされた場合は、裁判所が定めた期間内に立てる必要がある(民事保全法14条1項)。債務者の申立てにより裁判所が本案の訴えの提起を命じたときは、裁判所が定める期間(2週間以上)内に、訴えを起こしたことを証する書面(すでに訴えを起こしているときは係属を証する書面)を出さないと、債務者の申立てにより保全命令が取り消される(民事保全法37条1項〜3項)。保全異議や保全取消しの申立てについての裁判に不服があるときの保全抗告は、その裁判の送達を受けた日から2週間の不変期間内にしなければならない(民事保全法41条1項)。保全命令の申立てを却下された債権者の即時抗告は、告知を受けた日から2週間の不変期間内にする(民事保全法19条1項)。期限を過ぎると権利を失ったり手続ができなくなったりすることがあり、いつから数えるか・延ばせるかは事情で変わるので、思い当たる方はできるだけ早く弁護士に確認してほしい。

問題提起

貸したお金を返さない相手が、財産を処分しようとしている。売買代金を払ってもらえないうちに、相手が不動産を第三者に売ってしまいそうだ――訴訟には時間がかかるため、判決が出るまでの間に財産がなくなってしまうおそれがある。そのような場合に使うのが民事保全である。この記事は、2026年10月21日現在の民事保全法で説明している。

法律の文言(民事保全法20条1項・23条)

仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。民事保全法20条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。民事保全法23条1項・2項(e-Gov法令検索で原文確認)

要件・仕組み

① 仮差押え。 金銭の支払を目的とする債権(貸金、売買代金、損害賠償など)について、強制執行ができなくなるおそれや著しい困難を生ずるおそれがあるときに、債務者の不動産、預金などの債権、動産などを仮に差し押さえる(民事保全法20条1項)。仮差押命令は、動産の場合を除き、特定の物について発しなければならない(民事保全法21条)。債務者が命令で定められた金額(仮差押解放金)を供託すれば、執行の停止や取消しを受けられる(民事保全法22条1項)。

② 係争物に関する仮処分。 物の引渡しや登記などを求める権利について、その物の現状が変わると権利を実行できなくなるおそれがあるときに、処分の禁止や占有の移転の禁止などを命じる(民事保全法23条1項)。

③ 仮の地位を定める仮処分。 争いのある権利関係について、債権者に生ずる著しい損害や急迫の危険を避けるため必要なときに、暫定的な地位を定める(民事保全法23条2項)。例えば、賃金の仮払いや、地位の保全などがある。原則として口頭弁論または債務者が立ち会うことのできる審尋の期日を経なければ発せられず、その期日を経ることで申立ての目的を達することができない事情があるときに限り例外がある(同条4項)。

④ 疎明。 被保全権利と保全の必要性は、証明ではなく疎明で足りる(民事保全法13条2項)が、裁判所が判断できるだけの資料(契約書、請求書、やり取りの記録、相手方の財産の状況を示す資料など)が必要である。

⑤ 担保。 保全命令は、担保を立てさせて、または一定の期間内に担保を立てることを執行の条件として、あるいは担保なしで発せられる(民事保全法14条1項)。担保は、供託所に金銭や裁判所が相当と認める有価証券を供託するなどの方法で立てる(民事保全法4条1項)。額は、債務者が受けるおそれのある損害などを考えて裁判所が決める。

⑥ 管轄と手数料。 保全命令の申立ては、本案の管轄裁判所、または仮に差し押さえるべき物や係争物の所在地を管轄する地方裁判所にする(民事保全法12条1項)。申立ての手数料は2,000円である(民事訴訟費用等に関する法律別表第一の10の項ロ)。

申立てから執行・本案までの流れ

1. 被保全権利と保全の必要性を整理し、疎明資料と、押さえる財産の情報を集める。
2. 申立書を裁判所に出す。仮差押えや係争物に関する仮処分では、事前に相手方に知られると財産を処分されるおそれがあるため、通常は債務者を呼ばずに審理される。相手方に知られていないことが申立ての要件というわけではない。
3. 担保を求められた場合は、裁判所が決めた額の担保を立てる。
4. 保全命令が発せられ、保全執行がされる(不動産なら仮差押えの登記、預金なら銀行への弁済禁止の命令の送達など)。保全執行は、命令が債務者に送達される前でもできる(民事保全法43条3項)。
5. 本案の訴訟で権利を確定させる。判決の確定や仮執行宣言などで強制執行ができる状態になったら、別に申し立てて本執行に進む。

実務の視点 民事保全は、相手方の財産を早く押さえられる強い手段である一方、担保の用意が必要で、取り消されたときの損害賠償の危険もある。仮差押えをしただけで債権を回収できるわけではなく、ほかの債権者に優先して弁済を受けられる権利が生じるわけでもない。押さえる財産の特定(不動産の所在、預金の金融機関と支店など)と、本案の訴訟の見通しを、申立ての前に固めておくことが重要である。

確認点・よくある誤解

① 債務者の不服申立て。 債務者は、保全命令を発した裁判所に保全異議を申し立てられる(民事保全法26条)。保全異議の審理では、口頭弁論または当事者双方が立ち会える審尋の期日が開かれる(民事保全法29条)。保全異議を申し立てただけでは保全執行は止まらず、止めるには、取消しの原因となることが明らかな事情と償うことのできない損害を生ずるおそれを疎明して、別に執行停止の裁判を求める必要がある(民事保全法27条1項)。事情の変更(被保全権利の消滅など)があるときは保全取消しを申し立てられる(民事保全法38条1項)。保全異議・保全取消しの申立てについての裁判には、送達から2週間の不変期間内に保全抗告ができる(民事保全法41条1項)。

② 起訴命令。 債務者の申立てにより、裁判所は債権者に、一定の期間(2週間以上)内に本案の訴えを起こしてその書面を出すよう(すでに起こしているときは係属を証する書面を出すよう)命じる(民事保全法37条1項・2項)。出さなければ、債務者の申立てで保全命令が取り消される(同条3項)。書面を出した後に本案の訴えが取り下げられたり却下されたりしたときも、書面を出さなかったものとみなされる(同条4項)。本案が家事調停の対象となる事件の場合の調停の申立てや、仲裁合意がある場合の仲裁手続の開始なども、本案の訴えの提起とみなされる(同条5項)。

③ 取り消された場合の責任。 保全命令が、被保全権利がないために当初から不当であったとして取り消された場合、債権者に故意または過失があれば、債務者が執行で受けた損害を賠償しなければならない。保全命令が異議や上訴の手続で取り消された場合や、本案で債権者の敗訴の判決が確定した場合は、特段の事情がない限り債権者に過失があったと推認されるが、申立てをすることに相当な事由があった場合は、取消しの一事で直ちに過失があるとはいえない(最判昭和43年12月24日・民集22巻13号3428頁。仮処分の事案)。発令後の弁済などの事情の変更や、手続上の理由で取り消された場合まで、取消しの事実だけで申立ての時の過失が推認されるわけではない。

④ 時効。 仮差押えや仮処分があると、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間、時効は完成しない(民法149条)。仮差押えなどを時効の利益を受ける者(債務者など)に対してしないときは、その者に通知した後でなければ、この効力は生じない(民法154条)。仮差押えなどだけでは時効は更新されず、本案の訴訟で確定判決などによって権利が確定すると時効が新たに進行を始める(民法147条2項)。2020年4月1日より前に時効の中断の事由が生じていた場合は、改正前の民法による扱いが残る(平成29年法律第44号附則10条2項)。

議論のある点

議論のある点 保全の必要性がどの程度あれば認められるか、担保の額がどのくらいになるか(請求額や押さえる財産の種類、疎明の程度によって異なる)、仮の地位を定める仮処分がどのような場面で認められるかは、事件ごとの判断による。担保の額の目安として割合が語られることはあるが、一律の基準はなく、裁判所が個別に決める。事情の変更などで後から取り消された場合の損害賠償の責任も、取り消された理由によって判断が異なる。

法改正の予定

民事保全法には、2026年10月21日現在、施行前の改正がある(e-Gov 法令検索で未施行の版として掲載。施行日は改正法の附則と政令で定められるので、手続をする時点で確認が必要)。申立ての方法などが変わることがあるので、申立ての時点の規定を確認してほしい。

特に相談した方がよい場面

・相手方が財産を処分したり隠したりしそうだ
・訴訟を起こす前に財産を押さえたい
・保全命令を受けた、または預金などを仮差押えされた
・担保をどの程度用意すればよいか分からない
・保全命令が取り消され、損害賠償を求められている
・時効が近く、保全の手続で足りるか分からない
・保全命令の申立てを却下された

具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。

相談のタイミング

相手方が財産を処分するおそれに気づいた時点で、すぐに相談するのがよい。民事保全は時間との勝負であり、相手方に財産を移される前に申し立てる必要がある。保全命令を受けた側は、保全異議や執行停止、仮差押解放金の供託などを検討するため、命令を受け取ったらすぐに相談する。

まとめ

民事保全は、判決前に相手方の財産や係争物の現状を暫定的に押さえる手続で、仮差押え、係争物に関する仮処分、仮の地位を定める仮処分がある。被保全権利と保全の必要性の疎明が必要で、通常は担保を求められる。保全執行は、債権者に命令が送達された日から2週間以内にする。保全異議を出しただけでは執行は止まらず、取り消されると債権者が損害賠償の責任を負うことがある。

出典

民事保全法1条・4条・12条・13条・14条・20条〜23条・26条・27条・29条・37条・38条・41条・43条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-21)

民法147条・149条・154条

民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条

民事訴訟費用等に関する法律別表第一の10の項

最判昭和43年12月24日・民集22巻13号3428頁

最終確認日
2026年10月21日
法令の基準時
2026年10月時点の法令による
出典(外部サイト)
e-Gov 法令検索(デジタル庁)〔外部サイト〕/裁判所ウェブサイト〔外部サイト〕
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