問題提起
弁護士に相談して「大丈夫、勝てますよ」と言われると安心する。しかし、裁判や交渉の結果は、証拠や相手方の反論、裁判所の判断によって変わる。依頼した後で「こんなに不利だとは聞いていなかった」とならないためには、有利な点だけでなく、不利な点やリスクの説明を受けておくことが大切である。弁護士がどのような説明をすべきとされているのかを知っておくと、相談の場で何を尋ねればよいかが分かる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
弁護士に相談して「大丈夫、勝てますよ」と言われると安心する。しかし、裁判や交渉の結果は、証拠や相手方の反論、裁判所の判断によって変わる。依頼した後で「こんなに不利だとは聞いていなかった」とならないためには、有利な点だけでなく、不利な点やリスクの説明を受けておくことが大切である。弁護士がどのような説明をすべきとされているのかを知っておくと、相談の場で何を尋ねればよいかが分かる。
弁護士職務基本規程は、国会が定めた法律ではなく、日本弁護士連合会が定めた会規で、弁護士はこれに従って職務を行う。規程に反したことが、それだけで依頼者に対する損害賠償責任になるわけではない。
弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければならない。
2 弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け合い、又は保証してはならない。
3 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにもかかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはならない。弁護士職務基本規程29条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士職務基本規程は、このほか、同じ事件で複数の依頼者がいて利害が対立するおそれがあるときに、辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれを説明すること(32条)、事案に応じて法律扶助制度や訴訟救助制度などを説明するよう努めること(33条)、受任後に必要に応じて事件の経過や結果に影響する事項を報告し、依頼者と協議しながら事件を進めること(36条)を定めている。
① 依頼者から得た情報に基づく説明であること。 弁護士の説明は、依頼者が伝えた事実と資料に基づく。弁護士が資料から確認したり質問したりすることもあるが、依頼者が伝えていない事実は説明に反映されないことがある。不利な事実も含めて伝えておくと、見通しの説明が正確になる。
② 見通し・処理の方法・報酬と費用の説明であること。 弁護士は、受任に当たり、これらについて適切な説明をしなければならない(弁護士職務基本規程29条1項)。
③ 結果の保証をしないこと。 弁護士は、有利な結果となることを請け合ったり保証したりしてはならない(同条2項)。
④ 見込みがないのにあるように装わないこと。 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないのに、見込みがあるように装って受任してはならない(同条3項)。
⑤ 受任後の報告と協議。 受任した後も、弁護士は必要に応じて、事件の経過や結果に影響する事項を報告し、依頼者と協議しながら進めなければならない(同規程36条)。
1. 相談の前に、相談者が、事実の経過を時系列でまとめ、有利な資料と不利な資料の両方を用意する。
2. 相談の場で、相談者が、不利な事実(自分の落ち度、証拠がないことなど)も含めて正直に伝える。
3. 弁護士が、見通し(認められそうな点・難しい点)、取りうる手段、それぞれの費用と時間を説明する。
4. 相談者が、負けた場合や一部しか認められなかった場合の結果、費用倒れになる可能性を尋ねる。
5. 説明に納得してから、委任契約を結ぶかどうかを決める。
実務の視点 相談の場では、「勝てますか」と尋ねるより、「どの点が争いになりそうですか」「どの証拠があれば有利になりますか」「一番悪い場合はどうなりますか」「費用をかけても回収できない可能性はありますか」と具体的に尋ねると、リスクの説明を引き出しやすい。説明を受けた内容はメモに残しておく。
① 「必ず勝てる」という説明には注意する。 弁護士は有利な結果を請け合ったり保証したりしてはならないとされている。根拠とともに有利な見通しを説明すること自体は禁止されていないが、断定的な説明だけで依頼を急かされたときは、他の弁護士の意見を聞くことも考える。
② 厳しい見通しを示す弁護士が頼りないわけではない。 不利な点を率直に説明することは、依頼者が判断するための大切な材料である。
③ 費用倒れの可能性も見通しの一部である。 勝っても相手方に支払能力がなければ回収できないことがある。回収の見込みと費用の関係を確かめる。
④ 方針に伴う不利益やリスクの説明。 最高裁は、債務整理を受任した弁護士が、特定の債権者の債権について消滅時効の完成を待つ方針をとった事案で、その方針には最終的な解決が遅れる不利益や、提訴されれば高い利率の遅延損害金を含めて敗訴するリスクがあり、他に現実的な選択肢もあったなどの事情のもとでは、弁護士は、委任契約に基づく善管注意義務の一環として、その方針に伴う不利益やリスクと、他の選択肢があることを依頼者に説明すべき義務を負うとした(最判平成25年4月16日・民集67巻4号1049頁)。
⑤ 見通しは途中で変わることがある。 相手方の反論や新しい証拠で見通しが変わることがある。受任後も、節目ごとに見通しの説明を求める。
議論のある点 弁護士の見通しの説明がどこまで具体的であるべきか、説明が不十分だった場合に弁護士がどのような責任を負うか(委任契約上の説明義務の違反といえるか、損害との関係はどうか)は、事件の内容、依頼者が伝えた情報、説明のやり取りの記録によって判断が分かれる。結果が依頼者の期待どおりでなかったことだけで、説明が不十分だったことになるわけではない。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・「必ず勝てる」「確実に回収できる」と言われ、すぐに依頼を求められた
・依頼した後で、聞いていなかった不利な事情を知らされた
・説明された見通しと結果が大きく違い、説明が十分だったか疑問がある
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
見通しとリスクの説明は、事件を依頼する前(口頭やメールで依頼と承諾をする場合も含む)に受ける。契約書への署名の前でも、口頭やメールのやり取りで依頼と承諾がそろえば委任契約が成立することがある(民法522条2項・643条)。相談をしただけでは、期限は延びず、弁護士が期限の管理を引き受けたことにもならない。期限が迫っている事件では、その手続の内容・主なリスク・費用の説明を受け、弁護士が引き受けたこと、依頼の範囲、どの期限を誰が管理するかを確かめたうえで、まず期限に間に合わせるための手続だけを依頼し、その後の見通しとリスクの検討を続けるという方法もある。
弁護士は、受任に当たって見通し・処理の方法・報酬と費用を適切に説明しなければならず、有利な結果を保証したり、見込みがないのにあるように装って受任したりしてはならない(弁護士職務基本規程29条)。依頼者も不利な事実を隠さず伝え、負ける可能性・費用倒れ・時間を具体的に尋ねることで、リスクの説明を受けやすくなる。
出典
民法522条・643条・644条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
弁護士職務基本規程29条・32条・33条・36条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)
最判平成25年4月16日・民集67巻4号1049頁