問題提起
相談しようとした弁護士から「この件はお引き受けできません」と言われた。理由を尋ねても詳しくは教えてもらえない。実は、相手方がすでにその弁護士に相談していたのかもしれない。弁護士には、相手方から先に相談や依頼を受けていた場合など、その事件で職務を行ってはならない場合を定めた決まりがある。どのような場合に頼めないのかを知っておくと、弁護士探しで戸惑わずに済む。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
相談しようとした弁護士から「この件はお引き受けできません」と言われた。理由を尋ねても詳しくは教えてもらえない。実は、相手方がすでにその弁護士に相談していたのかもしれない。弁護士には、相手方から先に相談や依頼を受けていた場合など、その事件で職務を行ってはならない場合を定めた決まりがある。どのような場合に頼めないのかを知っておくと、弁護士探しで戸惑わずに済む。
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
四 公務員として職務上取り扱つた事件
五 仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件弁護士法25条1号〜5号。6号〜9号は弁護士法人などに所属する弁護士についての定め(e-Gov法令検索で原文確認)
日本弁護士連合会の会規である弁護士職務基本規程は、27条で弁護士法25条1号〜4号と同じ内容に加えて「仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件」を定め、28条で、相手方が配偶者・直系血族・兄弟姉妹・同居の親族である事件や、依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件などについても、原則として職務を行ってはならないとしている(依頼者などの同意がある場合の例外がある)。
所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務を行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。弁護士職務基本規程57条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 相手方の協議を受けたこと。 「協議」は、相手方から具体的な事件について相談を受けることである。
② 1号:賛助し、または依頼を承諾したこと。 相談を受けて、相手方の立場に立って具体的な助言をした場合や、依頼を引き受けた場合である。
③ 2号:協議の程度と方法が信頼関係に基づくと認められること。 助言に至らなくても、相手方が秘密を打ち明けるなど、信頼関係に基づく相談だった場合である。
④ 同じ事件であること。 相手方からの相談の対象と、依頼しようとする事件が同じであることが前提になる。どこまでが同じ事件かは、事情によって判断が分かれることがある。
1. 相談したい人が、相談の申込みのときに相手方の氏名・名称を伝える。
2. 弁護士または事務所が、相手方から相談や依頼を受けていないかを確かめる(利益相反の確認)。
3. 職務を行えない事情がある場合、弁護士は相談や依頼を断る。理由は「事情によりお引き受けできません」などと簡単に伝えるにとどめることが多い。
4. 断られた人は、別の弁護士・法律事務所に相談する。
実務の視点 相手方の名前を正確に伝えることは、自分の秘密を守ることにもつながる。相手方の名前を伝えずに詳しく相談した後で、その弁護士が相手方の依頼をすでに受けていたと分かると、互いに困った事態になる。相談の申込みの段階で相手方の名前を伝えておくとよい。
① 先に相談すれば相手方の依頼を「封じられる」わけではない。 2号は、協議の程度と方法が信頼関係に基づくと認められる場合に限られる。一般的な問い合わせをしただけでは、当たらないことがある。
② 違反した弁護士の訴訟行為は当然に無効になるわけではない。 最高裁は、弁護士法25条1号に違反する訴訟行為について、相手方の当事者は異議を述べて裁判所にその行為の排除を求めることができるが、相手方が違反を知り、または知り得たのに異議を述べずに訴訟手続を進め、第二審の口頭弁論が終結したときは、その訴訟行為は完全に効力を生じ、無効を主張できないとした(最大判昭和38年10月30日・民集17巻9号1266頁)。
③ 同じ事務所の弁護士の場合は扱いが違う。 最高裁は、弁護士職務基本規程57条に違反する訴訟行為について、相手方の当事者は、同条違反を理由として異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることはできないとした(最決令和3年4月14日・民集75巻4号1001頁)。ただし、57条に違反した弁護士が懲戒の対象になりうることは別の問題である。
④ 家族どうしの事件も制限がある。 弁護士の配偶者や親子などが相手方となる事件は、弁護士職務基本規程28条1号により、依頼者の同意がない限り、その弁護士は職務を行えない。
議論のある点 相手方からの相談が「信頼関係に基づく」程度に至っていたか、どこまでが「同じ事件」か、同じ事務所の中で「職務の公正を保ち得る事由」(情報の遮断の措置など)があるかは、相談の内容・時期・事務所の体制など個別の事情で判断が分かれる。相手方の代理人について利益相反が疑われる場合に、異議を述べるかどうか、いつ述べるかも、訴訟の進み方に影響する。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・相手方の代理人の弁護士が、以前に自分が相談した弁護士(または同じ事務所の弁護士)だった
・依頼している弁護士から、利益相反を理由に辞任すると言われた
・家族や会社の関係者どうしの紛争で、同じ弁護士に複数の当事者が相談している
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
相手方の代理人に利益相反の疑いがあると気づいたら、訴訟の手続が進む前に、早めに自分の弁護士に相談する。異議を述べずに手続を進めると、後から無効を主張できなくなることがある。
弁護士は、相手方の相談を受けて助言した事件や、信頼関係に基づく相談を受けた事件などについて職務を行えない(弁護士法25条)。同じ事務所の弁護士にも制限がある(弁護士職務基本規程57条)。断られた理由が詳しく説明されないのは秘密を守るためで、その場合は別の弁護士を探す。相手方の代理人に利益相反が疑われるときは、早めに弁護士に相談する。
出典
弁護士法25条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
弁護士職務基本規程27条・28条・57条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)
最大判昭和38年10月30日・民集17巻9号1266頁
最決令和3年4月14日・民集75巻4号1001頁