問題提起
夫の父(義父)と同居し、10年近く、食事や入浴の介助、通院の付き添いなどの介護をしてきた。夫は義父より先に亡くなり、義父の相続人は夫の兄と妹の2人である。自分は義父の相続人ではないので、遺産を受け取れないと言われた。介護をしてきたことは、何も考慮されないのか。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
夫の父(義父)と同居し、10年近く、食事や入浴の介助、通院の付き添いなどの介護をしてきた。夫は義父より先に亡くなり、義父の相続人は夫の兄と妹の2人である。自分は義父の相続人ではないので、遺産を受け取れないと言われた。介護をしてきたことは、何も考慮されないのか。
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。民法1050条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 被相続人の親族であること。 親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族である(民法725条)。義父から見た長男の妻(1親等の姻族。夫が先に亡くなっても姻族関係は当然には終わらないが、妻が姻族関係を終了させる意思表示をしていた場合〔民法728条2項〕は親族でなくなる)、被相続人の兄弟姉妹の子(甥・姪。相続人でない場合)、孫(相続人でない場合)などが当たりうる。
② 相続人でないこと。 相続人は、この制度ではなく、遺産分割の中で寄与分(民法904条の2)を主張する。相続放棄をした人、相続欠格に当たる人、廃除された人も、この制度で請求することはできない(民法1050条1項)。
③ 内縁の配偶者・友人などは対象外。 親族ではないので、特別寄与料を請求できない。被相続人に相続人がいない場合には、特別縁故者として財産の分与を求める道がある(「特別縁故者|財産の分与を求められる人」のスレッドを参照)。
① 無償であること。 介護の対価として相当な金銭を受け取っていた場合は、その労務については無償とはいえない。実費の精算や少額の謝礼を受け取っていた場合、一部の期間だけ報酬を受けていた場合などは、事情によって判断が分かれる。
② 療養看護その他の労務の提供であること。 介護・看護のほか、被相続人の家業を手伝うなどの労務も含まれる。条文は「労務の提供」に限っているので、お金を出しただけ(財産上の給付)の場合は含まれないと解されている。
③ 財産の維持または増加についての特別の寄与であること。 たとえば、介護をしたことで介護サービスや施設の費用を払わずに済み、財産の減少を防いだといえる場合である。「特別の」とは、通常期待される程度を超える貢献であることをいい、ときどき見舞いに行った程度では足りないとされる。
1. 相続の開始と相続人を確かめる。 いつ被相続人が亡くなったことと誰が相続人かを知ったかを記録しておく。ここから6か月の期間が始まる。
2. 介護の記録をそろえる。 介護の期間・内容が分かる資料(要介護認定の資料、介護日誌、通院の記録、介護サービスの利用状況、家計の記録など)を集める。
3. 相続人と話し合う。 相続人に対し、特別寄与料の支払を求める。相続人が数人いるときは、各相続人は、特別寄与料の額に自分の相続分を掛けた額を負担する(民法1050条5項)ので、相続人の一人だけに全額を請求できるわけではない。請求したことの証拠を残すため、書面で求めるのがよい。ただし、書面で請求しても、家庭裁判所への請求の期間を守ったことにはならない。
4. 家庭裁判所に申し立てる。 話合いがまとまらないときや、話合いができないときは、家庭裁判所に、特別の寄与に関する処分の審判または調停を申し立てる。審判は相続が開始した地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法216条の2)、調停は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所(同法245条1項)に申し立てる。相続の開始と相続人を知った時から6か月以内、かつ相続開始から1年以内にしなければならない(民法1050条2項ただし書)。相続人が数人いる場合、一人に対して申し立てても、ほかの相続人に対する請求の期間が守られるとは限らないので、請求したい相続人全員を相手にする。
5. 審判。 家庭裁判所は、寄与の時期、方法と程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して額を定め(民法1050条3項)、相続人に支払を命ずることができる(家事事件手続法216条の3)。特別寄与料の審判に対しては申立人と相手方が、申立てを却下する審判に対しては申立人が、即時抗告をすることができる(同法216条の4)。即時抗告は、原則として審判の告知を受けた日から2週間の不変期間内にしなければならない(同法86条)。
実務の視点 特別寄与料は、介護をしたことを示す資料がなければ認められにくい。介護をしている間から、日付と内容を書いた介護日誌をつけ、介護保険の利用状況、通院の記録、被相続人のために払った費用の領収書を残しておく。相続人との話合いは長引きがちだが、家庭裁判所への請求の期間(6か月・1年)は止まらないので、話合いと並行して申立ての準備をする。生前にできることとして、被相続人に、介護をしてくれた人に財産を遺贈する遺言を作ってもらう方法もある。
① 家庭裁判所が、寄与の時期・方法・程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める(民法1050条3項)。実務では、介護をした日数に、介護サービスを利用した場合の費用の目安を掛け、一定の割合を掛けて調整する方法が参考にされることがあるとされるが、事案によって異なる。
② 特別寄与料の額は、相続開始の時の財産の価額から遺贈の価額を差し引いた残額を超えることができない(民法1050条4項)。
③ 特別寄与料の額が確定すると、その額は被相続人から遺贈によって取得したものとみなされ、相続税の対象になる(相続税法4条2項)。被相続人の配偶者・1親等の血族以外の人(長男の妻など)は相続税額が2割加算されるなどの扱いもある(相続税法18条)。基礎控除などで申告が不要な場合もある。申告の要否と期限(入金の時ではなく額の確定に関係する)は税理士に確認する。特別寄与料を支払う相続人の側も、相続税の計算に影響することがある。
|寄与分(民法904条の2)|特別寄与料(民法1050条)
主張できる人|相続人|相続人でない親族
方法|遺産分割の中で取り分を増やす|相続人に金銭を請求する
家庭裁判所への請求の期間|遺産分割の手続の中で主張する(相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割では、10年を過ぎる前に家庭裁判所に遺産分割を請求したときなどの例外を除き、法律上の取り分の計算に反映されない=民法904条の3。2023年4月1日より前に始まった相続には経過措置がある)|相続の開始と相続人を知った時から6か月・相続開始から1年
① 長男の妻の介護と長男の寄与分。 長男の妻の介護を、長男(相続人)の寄与分の中で考慮する扱いは、改正後もありうる。ただ、長男が先に亡くなっている場合など、その方法では評価しにくい場面があり、今は長男の妻自身が特別寄与料を請求する方法もある。同じ介護を二重に評価することはできないので、どの方法で主張するかを考える。新しい制度でも、請求が当然に認められるわけではない。
② 2019年7月1日より前に始まった相続には使えない。 それより前の相続では、この制度は適用されない。
③ 6か月は短い。 相続人との話合いや四十九日などを待っているうちに期間が過ぎることがある。
・「特別の寄与」に当たるか。 介護の期間・頻度・内容、被相続人の要介護度、ほかの家族の関わりなどによって判断が分かれる。
・額の算定。 介護サービスの費用を基準にする方法がとられることがあるが、どの程度の割合で調整するかは事案ごとに異なる。
・6か月の起算点。 「相続人を知った時」がいつかは、相続人の範囲を知った時期によって問題になることがある。
これらは一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・相続人ではない親族として、長い間、無償で介護や家業の手伝いをしてきた
・相続人から、介護の苦労は考慮しないと言われている
・被相続人が亡くなってから、6か月が近い
・介護の記録が少なく、どのように証明すればよいか分からない
・被相続人の生前に、遺言などで介護に報いてもらう方法を考えたい
被相続人が亡くなり、相続人が誰かを知った時点ですぐに相談するのがよい。家庭裁判所への請求の期間が6か月と短いので、相続人との話合いと並行して申立ての準備を進める。被相続人の生前であれば、介護の記録を残し、遺言の作成を検討する段階で相談するとよい。
相続人でない親族が無償で介護などをして被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、相続人に特別寄与料を請求できる。家庭裁判所に請求できるのは、相続の開始と相続人を知った時から6か月以内、かつ相続開始から1年以内である。2019年7月1日より前に始まった相続には使えず、内縁の配偶者は対象外である。
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
出典
民法725条・728条2項・891条・900条〜902条・904条の2・904条の3・1050条/民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)附則2条/家事事件手続法86条・216条の2〜216条の4・245条1項/相続税法4条2項・18条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-21)