問題提起
20年以上一緒に暮らしてきた内縁の夫が亡くなった。籍は入れていなかった。夫には子がなく、両親も祖父母もすでに亡くなり、兄弟姉妹もその子(甥・姪)もいないので、相続人はいないようだ。夫名義の自宅と預金がある。自分は相続人ではないので何も受け取れないのか。夫の最期まで介護をしてきたが、それは考慮されないのか。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
20年以上一緒に暮らしてきた内縁の夫が亡くなった。籍は入れていなかった。夫には子がなく、両親も祖父母もすでに亡くなり、兄弟姉妹もその子(甥・姪)もいないので、相続人はいないようだ。夫名義の自宅と預金がある。自分は相続人ではないので何も受け取れないのか。夫の最期まで介護をしてきたが、それは考慮されないのか。
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。民法958条の2(e-Gov法令検索で原文確認)
前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。民法952条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 被相続人と生計を同じくしていた人。 内縁の配偶者、事実上の養子(養子縁組の届出をしていない養子)、同居していた親族などが挙げられる。
② 被相続人の療養看護に努めた人。 長い間、通院の付き添いや身の回りの世話、介護をしてきた人が挙げられる。仕事として報酬を受けて看護・介護をしていた人は、報酬以上の献身的な世話をしたなどの事情がなければ、当たりにくいとされる。
③ その他特別の縁故があった人。 ①②と同じ程度に密接な関係があった人である。親族であることや、ときどき会っていたというだけでは足りないとされる。個人のほか、被相続人が長く暮らした老人ホームなどの法人が認められた例もあるとされる。
いずれも、相続人として権利を主張する人がいないことが前提である。相続人がいる場合は、原則としてこの制度は使えない。ただし、実際には相続人がいても、清算人の公告の期間内に権利を主張しなかったときは、相続人は権利を行使できなくなり(民法958条)、分与の対象になりうる。相続放棄をした人自身が特別縁故者になることもある。祖父母や甥・姪が相続人になることもあるので、「相続人がいない」かどうかは戸籍で確かめる。相続人の所在が分からない、連絡が取れないというだけでは、この制度は使えない。
① 特別縁故者への分与は、相続人がいないときに、相続財産を清算した後に残った財産を対象とする制度である。そのため、まず家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、清算の手続が進んでいる必要がある。
② 清算人は、利害関係人または検察官の請求によって選任される(民法952条1項)。特別縁故者として分与を受けようとする人も、利害関係人として選任を申し立てることができる。申立ては、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所にする(家事事件手続法203条1号)。
③ 清算人の選任の申立てには、清算人の報酬や管理の費用に充てる予納金を求められることがある。額は財産の内容などで家庭裁判所が決める。
清算の全体の流れ(債権者への支払、国庫への帰属など)は「相続人不存在|相続人全員が放棄した後の財産」のスレッドを参照。
1. 相続人がいないことを確かめる。 戸籍で相続人を調べる。相続人が全員相続放棄をしているときは、家庭裁判所での放棄の受理を確かめる。
2. 清算人の選任を申し立てる(選任されていなければ)。 利害関係人として、家庭裁判所に申し立てる。
3. 公告の期間を確かめる。 家庭裁判所が、清算人の選任と、相続人がいれば6か月以上の期間内に権利を主張すべきことを公告する(民法952条2項)。この期間の満了日を、清算人や家庭裁判所に確かめておく。
4. 分与の申立てをする。 相続人の権利主張の期間の満了後3か月以内に、家庭裁判所に特別縁故者に対する相続財産の分与の審判を申し立てる(民法958条の2第2項)。申立ては、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所にする(家事事件手続法203条3号)。
5. 審判。 家庭裁判所は、清算人の意見を聴いたうえで(家事事件手続法205条)、分与するかどうかと分与する財産を判断する。分与の申立てについての審判は、3か月の申立ての期間が過ぎた後にされる(同法204条1項)。分与の審判に対しては申立人と相続財産の清算人が、却下の審判に対しては申立人が、即時抗告をすることができる(同法206条1項)。即時抗告は、原則として審判の告知を受けた日から2週間の不変期間内にしなければならない(同法86条)。
6. 財産の引渡しを受ける。 分与の審判が確定すると、清算人から財産の引渡しを受ける。分与されずに残った財産は、原則として国庫に帰属する(民法959条)。
実務の視点 特別縁故者であることは、申立てをする人が資料で示す必要がある。同居していたことが分かる住民票、生活費を一緒に負担していた記録、介護や通院の付き添いの記録、医療・介護の領収書、手紙や写真、周囲の人の陳述書などを、早めにそろえておく。清算人の選任を自分で申し立てる場合は、予納金の負担と、分与を受けられる見込みとを比べて考える。予納金を負担しても、分与が認められるとは限らない。
① 「内縁の配偶者は当然に相続できる」わけではない。 内縁の配偶者は相続人ではない。相続人がいない場合に、特別縁故者として家庭裁判所に分与を求めることができるにとどまる。相続人がいる場合は、この制度は使えない。
② 申立ての期間は待ってくれない。 清算人の手続が進んでいても、分与の申立てをしなければ分与は受けられない。清算人に希望を伝えるだけでは足りない。
③ 共有の財産。 被相続人がほかの人と共有していた財産の持分も、特別縁故者への分与の対象になり、分与されなかったときに、ほかの共有者のものになる(民法255条。最高裁平成元年11月24日判決・民集43巻10号1220頁)。
④ 相続税がかかることがある。 個人が分与を受けた財産は、分与された時の時価で、被相続人から遺贈によって取得したものとみなされる(相続税法4条1項)。被相続人の配偶者・1親等の血族以外の人は相続税額が2割加算されるなどの扱いもある(相続税法18条)。税務上「分与された時」がいつになるか、申告の要否と期限は税理士に確認する。法人が分与を受けた場合は、法人税などの別の扱いになる。
⑤ 遺言があれば別。 被相続人が遺言で財産を残していれば、その遺言に従う。ただし、遺言が一部の財産しか扱っていない場合など、清算後に残った財産があれば、分与の対象になりうる。
⑥ 改正前に選任された事件。 2023年4月1日より前に改正前の民法で相続財産管理人が選任された事件では、公告の手続や特別縁故者の請求期間などに改正前の規定が適用される(民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則4条)。官報の公告の種類を確かめる。
⑦ ほかの請求とは別。 被相続人に貸したお金、立て替えた費用、未払いの報酬などがある場合は、特別縁故者としての分与とは別に、債権として清算人に請求の申出をする。債権の申出の期間(2か月以上・民法957条1項)は、分与の申立ての期間とは別で、清算人に知られていない債権者は、相続人の権利主張の期間が満了すると権利を行使できなくなる(民法958条)。もともと自分の物である財産は、返還を求める。特別縁故者の申立ては、これらの代わりにならない。
・特別縁故者に当たるか。 縁故の内容・程度、期間、被相続人の意思などから家庭裁判所が判断し、事案によって分かれる。
・どれだけ分与されるか。 財産の全部が分与されることもあれば、一部にとどまることもある。縁故の程度や財産の内容で判断が分かれる。
これらは一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・内縁の配偶者や事実上の養子として長く一緒に暮らしてきた人が亡くなり、相続人がいない
・相続人のいない親族・知人を長い間介護してきた
・相続人全員が相続放棄をしたが、財産が残っている
・官報で相続財産清算人の選任の公告を見つけた
・清算人の選任の申立てと予納金について知りたい
被相続人が亡くなり、相続人がいないと分かった時点で相談するのがよい。清算人がすでに選任されている場合は、相続人の権利主張の期間の満了日を確かめ、その後3か月以内に申し立てる必要があるので、すぐに相談する。
相続人がいない場合、被相続人と生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人、その他特別の縁故があった人は、家庭裁判所に財産の分与を求めることができる。前提として相続財産清算人の選任が必要で、申立ては相続人の権利主張の期間の満了後3か月以内に限られる。分与するかどうかとその範囲は家庭裁判所が判断する。
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
出典
民法255条・951条・952条・957条1項・958条・958条の2・959条/家事事件手続法86条・203条・204条1項・205条・206条1項/相続税法4条1項・18条/民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則4条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-21)/最高裁平成元年11月24日判決(民集43巻10号1220頁)