問題提起
遺言書を自分で書いたが、自宅に置いておくと、なくしたり、見つけてもらえなかったり、書き換えられたりしないか心配だ。公正証書遺言ほど費用はかけたくない。こうしたときに使えるのが、法務局に遺言書を預ける自筆証書遺言書保管制度である。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
遺言書を自分で書いたが、自宅に置いておくと、なくしたり、見つけてもらえなかったり、書き換えられたりしないか心配だ。公正証書遺言ほど費用はかけたくない。こうしたときに使えるのが、法務局に遺言書を預ける自筆証書遺言書保管制度である。
遺言者は、遺言書保管官に対し、遺言書の保管の申請をすることができる。
2 前項の遺言書は、法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければならない。
3 第一項の申請は、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所(遺言者の作成した他の遺言書が現に遺言書保管所に保管されている場合にあっては、当該他の遺言書が保管されている遺言書保管所)の遺言書保管官に対してしなければならない。
(略)
6 遺言者が第一項の申請をするときは、遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならない。遺言書保管法4条・一部省略(e-Gov法令検索で原文確認)
民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。遺言書保管法11条(e-Gov法令検索で原文確認)
ここでいう遺言書は、民法968条の自筆証書遺言に係る遺言書である(遺言書保管法1条)。
① 預けられる遺言書。 自筆証書遺言で、法務省令で定める様式に従い、封をしていないもの(遺言書保管法4条2項)。自筆証書遺言は、遺言の本文・日付・氏名を自分で書き、押印する(民法968条1項)。本文に添付する財産目録は自分で書かなくてもよいが、その毎葉(自書でない記載が両面にあるときは両面)に署名・押印が要る(同条2項)。この財産目録の扱いは2019年1月13日以後に作った遺言についてのもので、それより前に作った遺言は作成当時の方式で確かめる。書き損じの訂正・追加にも決まった方式がある(同条3項)。夫婦などが1通の証書で一緒に遺言することはできない(民法975条)。用紙の大きさや余白など保管制度の様式は、法務省の案内で確かめる。
② 申請先。 遺言者の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所(法務大臣が指定した法務局)。すでに別の遺言書を預けているときは、その遺言書保管所(遺言書保管法4条3項)。
③ 本人が出頭する。 申請は遺言者が自ら出頭してしなければならず(遺言書保管法4条6項)、代理人や郵送ではできない。弁護士に頼んでも、本人の出頭の代わりにはならない。遺言書保管官が本人確認をする(同法5条)ので、顔写真付きの本人確認書類を持参する。
④ 申請書・添付書類と手数料。 申請書には、遺言書の作成の年月日、遺言者の氏名・出生の年月日・住所・本籍(外国人は国籍)、相続人以外の受遺者や遺言執行者の氏名(法人は名称)・住所など、法令で定める事項を記載する(遺言書保管法4条4項)。住民票の写しなどの添付書類も要り、その記載事項や取得時期などの条件は国籍・住所などで異なるので、法務省の案内で確かめる。手数料は収入印紙で納め(同法12条2項)、保管の申請は1件につき3,900円(同法関係手数料令1条)。
実務の視点 法務局での申請は予約制として案内されている。申請書の書式、遺言書の様式(用紙・余白など)、必要書類は法務省の「自筆証書遺言書保管制度」のページで確かめる。様式に合わない遺言書は預かってもらえないので、書く前に様式を確認しておくとよい。申請のときに受け取る保管証(保管番号の書かれた書面)は、家族に存在を伝えるときに役立つ。
1. 様式に従って自筆証書遺言を書く(封はしない)。
2. 申請先の遺言書保管所を決め、予約する。
3. 遺言者本人が出頭し、遺言書・申請書・添付書類・本人確認書類・手数料(収入印紙)を出す。
4. 保管された後、遺言者は、預けた遺言書保管所で閲覧を請求できる(遺言書保管法6条2項。本人の出頭が必要=同条4項)。住所などが変わったときは届け出る。
5. 預けるのをやめるときは、いつでも保管の申請を撤回でき、遺言書が返還される(遺言書保管法8条)。撤回も本人の出頭が必要(同条3項)。
6. 遺言者が亡くなった後、相続人・受遺者・遺言執行者など(関係相続人等)は、遺言書の内容を証明する遺言書情報証明書の交付や、遺言書の閲覧を請求できる(遺言書保管法9条)。請求には、遺言者が亡くなったことや請求する人の資格を示す戸籍などが要る。相続人に遺言書の原本が返されるわけではなく、相続手続には遺言書情報証明書を使う。
7. 遺言者が亡くなった後は、誰でも、自分が関係相続人等に当たる遺言書が保管されているかどうかを証明する遺言書保管事実証明書の交付を請求できる(遺言書保管法10条)。この証明書では遺言の内容は分からない。また、「保管されていない」という結果でも、自宅にある遺言や公正証書遺言がないことまで示すものではない。
8. 遺言書情報証明書を交付したり、遺言書を閲覧させたりしたときは、遺言書保管官が、他の相続人・受遺者・遺言執行者などに、遺言書を保管していることを通知する(遺言書保管法9条5項)。
9. 検認は不要(遺言書保管法11条)。遺言書情報証明書を使って、相続登記などの手続を進める。
① 「法務局に預けた=有効な遺言」ではない。 遺言書保管官が確認するのは方式などの外形で、遺言の内容が有効か、遺言者の真意に基づくかまで判断するものではない。遺言は満15歳以上ででき(民法961条)、作るときに遺言をする能力が要る(民法963条)。内容があいまいだったり、作成時の判断能力が争われたりすれば、後で効力が争われることはある。
② 保管の撤回と遺言の撤回は別。 保管の申請を撤回すると遺言書は返されるが、それだけで遺言そのものが撤回されるわけではない。遺言は遺言の方式で撤回できる(民法1022条)ほか、後の遺言や遺言後の財産の処分が前の遺言と食い違うとき、遺言者がわざと遺言書を破ったときなどは、その部分を撤回したものとみなされる(民法1023条・1024条)。内容を変えたいとき、複数の遺言があるときは、どの遺言がどこまで効力を持つかを先に専門家に確かめる。返された遺言書を自宅で保管していると、亡くなった後に検認が必要になる。
③ 手数料。 保管の申請1件3,900円のほか、遺言書の閲覧(原本)1回1,700円、遺言書情報証明書1通1,400円、遺言書保管事実証明書1通800円などが政令で定められている(遺言書保管法関係手数料令1条・2条)。
④ 亡くなったことは自動では伝わらない場合がある。 9条5項の通知は、遺言書情報証明書の交付や閲覧が行われたことがきっかけになる。これとは別に、遺言者が希望すれば、遺言者の死亡が確認された後に、あらかじめ指定した人へ遺言書を保管していることを知らせる仕組みも法務省が案内している。内容や条件は法務省の案内で確かめる。いずれにしても、遺言書を預けていることは、家族や遺言執行者に伝えておくとよい。
⑤ 改正の予定。 令和8年法律第45号(2026年6月24日公布)により、民法に「保管証書遺言」という新しい方式が設けられ(改正後の民法968条の2)、遺言書保管法も大きく改められる。2026年10月18日時点で、これらの規定は施行されていない(施行日は同法附則1条で、規定ごとに、公布の日から一定の期間を超えない範囲内で政令で定める日などとされている)。すでに預けている遺言の扱いを含め、施行後の取扱いは改めて確かめる。本記事は2026年10月18日時点の現行法による。
・遺言の内容(誰に何を残すか)を決めかねている、相続人どうしの争いが心配
・財産の書き方(不動産・預貯金の特定)に自信がない
・遺言者の判断能力に不安がある、成年後見を受けている(成年被後見人の遺言には医師の立会いなど特別の方式がある=民法973条)
・昔の相続で登記をしていない不動産がある、相続放棄を考えているのに遺産を処分するよう求められている
・病気などで法務局に出向けない(公証人に出張してもらう公正証書遺言などを検討できる場合がある。その場合も遺言をする能力は要る)
・以前に別の自筆証書遺言や公正証書遺言を作っている、保管後に内容を変えたい
・事業や不動産が多い、遺留分を侵害しそうな内容にしたい
・相続が始まり、預けられた遺言書の内容に疑問がある、遺言執行者に指定されたが何をすればよいか分からない
・遺産分割や権利の放棄に関する書面への署名を求められている
自筆証書遺言は書き方を誤ると無効になったり、意図どおりに解釈されなかったりする。法務局は内容の相談には応じないので、内容は弁護士に相談して決め、保管は法務局に頼む、という使い分けができる。
遺言書を書く前(内容と財産の特定を決める段階)が望ましい。相続が始まった後は、遺言があるかどうかにかかわらず、相続放棄(家庭裁判所への申述が必要=民法915条1項・938条)、遺留分の請求(民法1048条)、相続登記(不動産登記法76条の2)など、期限のある手続がある。これらの期限は、手続ごとに起算点が違い、遺言書情報証明書を取った日や保管の通知が届いた日から当然に数えるものではない(遺留分のように、遺言の内容を知った時が起算点にかかわる手続もある)。延ばせるかどうかも手続ごとに違う。借金があるかもしれない、取り分に納得できないといったときは、証明書の取得を待たずに早めに相談してほしい。
自筆証書遺言は、様式に従い封をせずに、本人が法務局に出向いて預けることができる。預けた遺言書は検認が要らず、相続人は証明書で内容を確かめられる。ただし、法務局は内容の有効性を保証せず、保管の撤回は遺言の撤回ではない。内容は専門家と相談して決めたい。制度は令和8年に公布された法律で改められる予定である。
出典
民法915条1項・938条・961条・963条・968条・975条・1004条1項・1022条〜1024条・1048条/不動産登記法76条の2/法務局における遺言書の保管等に関する法律1条・4条・5条・6条・8条・9条・10条・11条・12条/同法関係手数料令(令和2年政令第55号)1条・2条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-18)/令和8年法律第45号附則1条・同法による改正後の民法968条の2・遺言書保管法(e-Gov 法令API v2 の未施行の版)