問題提起
配偶者から暴力を受け、家を出ても追いかけてこられる、何度も電話やメッセージが来る、子どもの学校に現れる――そうしたときに、裁判所の命令で相手の行動を禁じるのが保護命令である。どんな場合に、どんな命令を、どこに求められるのかを整理する。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
配偶者から暴力を受け、家を出ても追いかけてこられる、何度も電話やメッセージが来る、子どもの学校に現れる――そうしたときに、裁判所の命令で相手の行動を禁じるのが保護命令である。どんな場合に、どんな命令を、どこに求められるのかを整理する。
被害者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知してする脅迫(以下この章において「身体に対する暴力等」という。)を受けた者に限る。(中略))が、配偶者(中略)からの更なる身体に対する暴力等により、その生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日から起算して一年間、被害者の住居(中略)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律10条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
対象となる相手。 法律上の配偶者のほか、事実婚の相手(同法1条3項)、婚姻中(事実婚中)に暴力等を受け、その後に離婚・婚姻の取消し・事実婚の解消をした元配偶者(10条1項。離婚後に新たな被害が起きていることは要件ではなく、更なる暴力等で重大な危害を受けるおそれが大きいかが問われる)、婚姻関係のような共同生活を営み、生活の本拠を共にする交際相手(解消後を含む=28条の2)も対象になる。同居していない交際相手などは、ストーカー規制法などによる対応を別に考える。
① 接近禁止命令(10条1項)。 身体への暴力か、生命・身体・自由・名誉・財産に害を加える旨の脅迫を受けた人が、更なる暴力等で生命または心身に重大な危害を受けるおそれが大きいとき。期間は効力が生じた日から1年間。相手と一緒に生活の本拠としている住居は、つきまといを禁じる「住居」から除かれている。同居中の家から相手を出ていかせるのは、⑤の退去等命令の役割である。
② 電話等禁止命令(10条2項)。 接近禁止命令と同時か、その後に申し立てる。面会の要求、監視していると思わせる言動、著しく粗野・乱暴な言動、無言電話、緊急やむを得ない場合を除く連続した電話・文書の送付・ファクス・メールや SNS のメッセージ、緊急やむを得ない場合を除く夜10時から朝6時までの電話・ファクス・メールなど、汚物などの送付、名誉や性的羞恥心を害する事項の告知・送付、承諾なく GPS 機器などで位置情報を取得する行為、紛失防止タグのような装置で位置を特定する行為、それらの機器を取り付ける行為などを禁止する(位置特定の装置の部分は令和7年の改正で追加)。期間は接近禁止命令の効力が生じた日から1年を経過する日まで。
③ 子への接近禁止命令(10条3項)。 被害者と同居する未成年の子を相手が連れ戻すおそれがあるなどの事情から、被害者がその子に関して相手と会わざるを得なくなるのを防ぐ必要があるとき。子へのつきまといなどのほか、子への電話・メールなどの一定の行為も禁止できる。子が15歳以上なら、子の同意が必要。
④ 親族等への接近禁止命令(10条4項・5項)。 相手が被害者の親族その他社会生活上密接な関係のある人の家に押しかけて乱暴な言動をするなどの事情から、被害者がその人に関して相手と会わざるを得なくなるのを防ぐ必要があるとき。その人の同意が必要(15歳未満や成年被後見人の場合は法定代理人の同意)。被害者と同居する子や、相手と同居する人は除かれる。
③・④は、被害者本人への接近禁止命令と同時か、その後に申し立てるもので、期間は本人への接近禁止命令の効力が生じた日から1年を経過する日までである(後から出ても、そこから1年になるわけではない)。
⑤ 退去等命令(10条の2)。 身体への暴力か、生命・身体に害を加える旨の脅迫を受けた人が、更なる身体への暴力で生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき、一緒に住む家から相手を出ていかせ、付近のはいかいを禁止する。期間は効力が生じた日から2か月間。住居の所有者または賃借人が被害者だけの場合は、申立てにより6か月間。申立ての時に、被害者と相手が生活の本拠を共にしていることが条件で、一時的に避難している場合でも、その家がなお二人の生活の本拠といえれば申し立てられることがある。
実務の視点 申立書には、いつ・どこで・どんな暴力や脅迫を受けたかを、できるだけ具体的に書く。日時などの記憶が不確かな部分は、その旨を書いて事実と推測を分ける。診断書、けがの写真、脅迫のメッセージ、録音などが重要な資料になる。申立書や証拠は相手が見ることがあるので、避難先・学校・勤務先・医療機関名などが書かれていないか、出す前に裁判所や弁護士に確かめる。
1. 身の危険があれば、まず避難し、警察(110番)や配偶者暴力相談支援センターに相談する。
2. 申立先の地方裁判所を決める。相手の住所地のほか、申立人の住所・居所の所在地や、暴力等が行われた地を管轄する地方裁判所にも申し立てられる(同法11条)。
3. 申立書を作る(書面で=12条)。配偶者暴力相談支援センターや警察に、申立ての理由となる暴力等について相談したり援助を求めたりした事実があれば、その名称・日時・内容などを申立書に書く(記録の写しを自分で添付するという意味ではなく、裁判所がその機関から書面を取り寄せる=14条2項)。相談していない場合は、暴力の状況などを書いた申立人の供述書面について、公証人の面前で内容が真実であると宣誓して認証を受け(公証人法53条1項の宣誓認証)、添付する(12条3項)。
4. 裁判所の審理。原則として、口頭弁論か、相手が立ち会える審尋の期日が開かれる(14条1項)。その期日を経ると申立ての目的を達することができない事情があるときは、例外がある。
5. 命令は、相手への決定書の送達か、相手が出頭した期日での言渡しで効力を生じる(15条2項)。裁判所から警察などに通知される(15条3項・4項)。
6. 命令に違反があれば、警察に連絡する。違反は犯罪になる(29条)。
① 命令に「執行力」はない。 保護命令は、強制執行で実現する命令ではなく(15条5項)、違反に刑罰を科すことで守らせる仕組みである。
② 不服申立てがある。 命令を受けた相手だけでなく、申立てを却下された申立人も即時抗告ができる(16条1項)。即時抗告は、裁判の告知を受けた日から1週間以内にしなければならない(21条で準用する民事訴訟法332条)。相手が即時抗告をしても、命令の効力は原則として止まらない(16条2項)。
③ 期間が終わる前に相談を。 危険が続く場合は、期間が終わる前から余裕をもって再度の申立てを相談する。申し立てただけで今の命令の期間が延びることはない。同じ事実を理由とする退去等命令の再度の申立ては、被害者の責めによらない事情で期間内に転居を終えられないなど、再度の命令が必要と認められる場合に限られ、相手の生活に特に著しい支障が生じるときは出されないことがある(18条1項)。
④ 離婚の手続とは別。 保護命令だけで、離婚・親権・婚姻費用・親子の交流が決まるわけではない。これらは別に検討し、必要に応じて家庭裁判所の手続を使う。DV がある場合は、相手と直接話し合わず、安全な進め方を相談する。裁判所に出せば住所が自動的に伏せられるわけではないので、住所を知られない工夫は「DVからの避難|住所を知られないための閲覧制限」も参照。
⑤ 申立書にうそを書くと過料。 法律が書くよう求める事項について虚偽を書いた申立書で申し立てると、10万円以下の過料(31条)。
⑥ 改正前の申立て。 2024年4月1日より前にされた申立ては、改正前の規定による(令和5年法律第30号附則2条)。
議論のある点 「重大な危害を受けるおそれが大きい」かどうかは、暴力等の内容・頻度、最近の状況、相手の言動などから個別に判断され、身体への暴力がない脅迫だけの場合や、暴力から時間がたっている場合は判断が分かれうる。心身への重大な危害も対象になったが、いわゆる精神的 DV のすべてについて当然に命令が出るわけではない(特定の病名が付いていることが一律の要件というわけでもない)。また、子や親族への命令の必要性も事情により判断される。安全確保の方法は一人ひとり違うので、一般論だけで判断せず、警察・配偶者暴力相談支援センター・弁護士に相談してほしい。
・暴力や脅迫を受け、避難したが相手が追ってくる
・何度も電話・メッセージが来る、位置を知られている気がする
・子どもの学校や実家に相手が現れる
・一緒に住む家から相手に出ていってほしい
・保護命令の期間が終わるが、危険が続いている
今すぐ危険がある場合は110番。そうでなくても、暴力や脅迫を受けたら、記録が新しいうちに配偶者暴力相談支援センターや警察、弁護士に相談する。保護命令の申立てでは、相談した事実自体が手続で使われる。
保護命令は、地方裁判所が相手に接近・連絡・居住を禁じる命令で、違反には刑罰がある。2024年4月の改正で、自由・名誉・財産に対する脅迫を受けた人も接近禁止命令の対象になり、その期間は1年間に延びた。申立書には、暴力等の具体的な状況と、警察や支援センターに相談した事実(相談していない場合は、公証人の宣誓認証を受けた供述書面の添付)が必要になる。
出典
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律1条・10条・10条の2・11条・12条・14条・15条・16条・17条・18条・28条の2・29条・31条、令和5年法律第30号附則1条・2条、令和7年法律第84号/公証人法53条1項/民事訴訟法332条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)