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相続放棄|生命保険金や遺族年金は受け取れるか

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この記事の要点

  • 相続放棄をすると、亡くなった人の財産(相続財産)は受け取れない。しかし、受取人や受給者が自分の権利として受け取るものは相続財産ではないので、放棄しても受け取れるとされている。死亡保険金で受取人が相続人に指定されているもの、遺族年金、未支給年金などが典型である。
  • ただし、死亡保険金の受取人が亡くなった本人になっている場合や、亡くなった人が生前に受け取るはずだったお金(入院給付金・還付金など)は、相続財産になることがある。受け取ると、遺産の処分として単純承認とみなされるおそれがある。
  • 亡くなった人が保険料を負担していた死亡保険金や、死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金などは、相続税では「相続や遺贈で取得したもの」とみなされる。相続放棄をした人が受け取った分には、相続人に認められる非課税の枠(500万円×法定相続人の数)は使えない(相続税全体の基礎控除は別に判定する)。受け取る前に、受取人・契約内容・規程を確かめる。
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問題提起

夫が亡くなり、借金が多いので相続放棄を考えている。ただ、夫は妻の私を受取人にした生命保険に入っていたし、遺族年金も受け取りたい。夫が受け取るはずだった年金や入院給付金もある。相続放棄をしたら、これらは受け取れなくなるのか。

法律の文言(民法896条・939条、保険法42条、国民年金法19条、相続税法3条・12条)

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。民法896条(e-Gov法令検索で原文確認)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。民法939条(e-Gov法令検索で原文確認)
保険金受取人が生命保険契約の当事者以外の者であるときは、当該保険金受取人は、当然に当該生命保険契約の利益を享受する。保険法42条(e-Gov法令検索で原文確認)
年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。国民年金法19条1項(e-Gov法令検索で原文確認)

見分け方の基本

「だれの権利として支払われるか」で考える。

・受取人・受給者が、契約や法律・規程に基づいて自分の権利として受け取るもの → 相続財産ではない → 相続放棄をしても受け取れるとされる
・亡くなった人が持っていた権利で、法律や契約が亡くなった時に別の人に固有の請求権を認めていないもの → 相続財産 → 相続放棄をすると受け取れず、放棄前に受け取ると単純承認の問題になる(公的年金の未支給年金のように、法律が遺族に固有の請求権を認めているものは別)

項目ごとの扱い

① 死亡保険金(受取人が相続人などに指定されている場合)。 受取人に指定された人が、保険契約に基づいて自分の権利として取得する(受取人が契約の当事者以外の場合について保険法42条)。相続財産ではないので、相続放棄をしても受け取れるとされている。受取人を「相続人」とだけ指定していた場合も、特段の事情がない限り、亡くなった時の相続人となるべき人の固有の財産になり、亡くなった人の遺産から離れているとした判例がある(最高裁昭和40年2月2日判決・民集19巻1号1頁)。

② 死亡保険金(受取人が亡くなった本人の場合)。 契約者・被保険者・受取人がすべて亡くなった本人という場合など、保険金請求権が亡くなった本人の財産として扱われるときは、相続財産になると説明されている。受取人の指定がない場合の扱いは約款による。相続放棄をすると受け取れず、放棄前に請求して受け取ると単純承認とみなされるおそれがある。

③ 遺族年金。 国民年金法・厚生年金保険法などに基づく公的な遺族年金は、法律が定める遺族に、その遺族の権利として支給されるもので、相続財産ではない。相続放棄をしても、受給の要件を満たせば受け取れる。企業年金や個人年金の死亡時の給付は、規約・契約ごとに確かめる。

④ 未支給年金。 亡くなった人に支給されるはずだった年金のうち、まだ支給されていないもの(未支給年金)は、一定の遺族が「自己の名で」請求できる(国民年金法19条1項。厚生年金にも同様の定めがある)。相続とは別に遺族に認められたもので、相続放棄をしても請求できると説明されている。請求できる遺族は、亡くなった当時に生計を同じくしていた配偶者・子・父母などに限られ、順位も法令で決まっている。なお、生前に支払われて口座に残っていた年金は、預金として相続財産になる。亡くなった後に振り込まれた年金には返さなければならない過払い分が含まれることもあるので、引き出す前に年金事務所などに確かめる。

⑤ 死亡退職金・弔慰金。 勤務先の退職金規程などで受け取る人(遺族の範囲と順位)が定められている場合は、受け取る人の固有の権利で、相続財産ではないとされることが多い。規程がない場合や、規程の内容によっては相続財産とされることもある。勤務先の規程を確かめる。

⑥ 入院給付金・高額療養費の払戻し・税金の還付金など。 亡くなった人が生前に受け取るはずだったお金は、亡くなった人の権利として相続財産になると考えられる。受取人の指定の仕方や制度によって扱いが違うので、受け取る前に確かめる。家族が保険の「指定代理請求人」として請求できる場合でも、請求の手続ができることと、その家族自身のお金になることは別である。

⑦ 葬祭費・埋葬料。 健康保険などから、葬儀をした人などに支給されるものは、制度上、支給を受ける人の給付とされている。相続放棄をしても受けられると説明されているが、制度ごとの要件を確かめる。

受け取るときの注意

① 放棄の前に受け取ってよいか。 相続財産でないもの(受取人固有の保険金・遺族年金など)を受け取っても、遺産の処分には当たらず、単純承認とはみなされないとされている。ただし、受け取るお金が相続財産かどうかの判断を誤ると、放棄できなくなるおそれがある。相続財産か判断できないお金は、請求・受け取り・使用の前に相談する。使わずに分けて保管すれば必ず単純承認を避けられる、とは限らない。すでに振り込まれた場合は、使ったり移したりせず、振込みの経緯と根拠を確かめて相談する。相続放棄の申述が受理された後も、相続財産を自分のものとして使ってよいわけではない(民法921条3号)。

② 受け取ったお金で借金を払わない。 受取人固有の保険金で払っても、それだけで相続財産の処分になるわけではないが、払ったお金は取り戻せないことが多く、支払の際の約束や書面によっては自分で債務を引き受けたことになるおそれもある。放棄を考えているなら、借金の支払は相談してから決める。なお、自分が保証人・連帯債務者になっていた借金の責任は、相続放棄をしても残る。

③ 保険会社・年金事務所での手続。 保険金の請求では、受取人であることや戸籍の関係を示す書類を求められる。相続放棄の予定を伝えても、受取人固有の保険金であれば請求できる。年金の請求の窓口・必要書類は、年金事務所などで確かめる。

実務の視点 保険証券や保険会社からの通知で、契約者・被保険者・受取人がだれになっているかを最初に確かめる。勤務先には、死亡退職金・弔慰金の規程(受取人の定め)の写しを求める。お金ごとに「受取人」「根拠(契約・法律・規程)」「受け取った日・額」を一覧にしておくと、相続財産かどうかの確認と、相続税の申告の準備に役立つ。

相続税の扱い

① みなし相続財産。 死亡保険金や死亡退職金は、民法上は受取人の固有の財産でも、相続税では、死亡保険金のうち亡くなった人が実際に保険料を負担していた部分や、死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金などが「相続又は遺贈により取得したもの」とみなされる(相続税法3条1項1号・2号)。相続放棄をした人が受け取った場合は、遺贈により取得したものとみなされる。保険料をだれが負担したかなどによっては、所得税や贈与税の対象になる。

② 非課税の枠は使えない。 死亡保険金・死亡退職金には、相続人が受け取る場合に、それぞれ「500万円×法定相続人の数」までの非課税の枠がある(相続税法12条1項6号・7号)。しかし、ここでいう相続人には相続放棄をした人を含まない(同法3条1項)ので、相続放棄をした人が受け取った分には、この枠は使えない。なお、枠の計算に使う「法定相続人の数」は、相続放棄がなかったものとして数える(同法15条2項。養子の数には、実子がいれば1人、いなければ2人までという制限と例外がある)。また、相続税全体の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数。同法15条1項)は別に判定するので、放棄した人が受け取ったからといって必ず相続税がかかるわけではない。

③ 遺族年金・未支給年金。 公的な遺族年金には相続税・所得税がかからないとされ、未支給年金は受け取った遺族の一時所得とされている。税金の扱いは税理士・税務署に確かめる。相続税の申告が必要な場合は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告する(相続税法27条1項)。

手続の流れ

1. 亡くなった人の保険・年金・勤務先の情報を集め、受取人・受給者と根拠を確かめる。
2. 借金を調べ、相続放棄をするか決める。原則として自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に申述する。調査が間に合わないときは、期間内に伸長を申し立てる。3か月を過ぎた場合も、事情によっては放棄できることがあるので、あきらめずに相談する(「相続放棄|期限を過ぎた後に借金が分かった場合」のスレッドを参照)。
3. 受取人固有のもの(死亡保険金・遺族年金など)は、相続放棄と関係なく請求できる。迷うものは受け取る前に相談する。
4. 相続放棄の申述をする(亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所)。
5. 相続税の申告が必要か確かめる(みなし相続財産を含めて判断する)。

確認点・よくある誤解

① 「保険金を受け取ると相続放棄できない」は誤解。 受取人固有の保険金なら、受け取っても相続放棄はできるとされている。逆に、受取人が亡くなった本人の保険金は、受け取ると単純承認になるおそれがある。

② 受取人が先に亡くなっていた場合。 保険金受取人が保険事故の前に亡くなり、その後に受取人の変更もされていなかった場合は、約款に別の定めがない限り、その受取人の相続人全員が受取人になる(保険法46条)。2010年4月1日の保険法の施行より前に結ばれた古い契約では、経過措置で扱いが異なることがあるので、加入日・約款を含めて保険会社に確かめる。保険金の請求権は、保険法が適用される契約では原則として請求できる時から3年で時効により消える(保険法95条1項)。施行前の古い契約では2年とされる場合もあり、約款で扱いが違うこともあるので、相続放棄の結論を待って長く放置しない。

③ 相続放棄をしない場合の調整。 相続放棄をしないで遺産分割をする場合には、多額の死亡保険金が、特段の事情があるときに特別受益に準じて相続分の計算で考慮されることがある(「生命保険金|受取人固有の財産と言われる意味」のスレッドを参照)。有効に相続放棄をした人は相続人ではないので、この調整の対象にはならない。

議論のある点

・相続財産か固有の財産かの線引き。 死亡退職金・弔慰金・各種の給付金は、規程や制度の定め方によって扱いが変わり、判断が分かれることがある。
・放棄の前に受け取ったお金の評価。 相続財産に当たるものを受け取った場合に、それが「処分」として単純承認になるか(受け取っただけで使っていない場合など)は、行為の内容で判断が分かれる。
・保険金の受取人の指定が曖昧な場合。 受取人の書き方、約款の定め、指定の変更の有無によって、だれの財産になるかが変わる。

これらは一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。

特に相談した方がよい場面

・相続放棄を考えているが、保険金・年金・退職金を受け取りたい
・保険の受取人がだれになっているか分からない、または亡くなった本人になっている
・すでに入院給付金や還付金などを受け取ってしまった
・勤務先から死亡退職金の支払の連絡があった
・相続放棄の3か月が近い
・相続税の申告が必要かどうか分からない
・亡くなった後に年金や給付金が口座に振り込まれた
・死亡から3か月以上たって借金が分かった

相談のタイミング

お金を受け取る前、相続放棄の申述の前に相談するのがよい。相続放棄には3か月の期限があるので、受け取れるものの確認と並行して、早めに準備を始める。

まとめ

相続放棄をしても、受取人・受給者が自分の権利として受け取る死亡保険金や遺族年金などは受け取れるとされる。一方、亡くなった本人の権利だったお金は相続財産で、受け取ると放棄できなくなるおそれがある。相続税の非課税の枠は放棄した人には使えない。受け取る前に確かめたい。

出典

民法896条・915条1項・921条・939条/保険法42条・46条・95条1項/国民年金法19条/相続税法3条1項・12条1項6号・7号・15条・27条1項(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/最高裁昭和40年2月2日判決(民集19巻1号1頁)

最終確認日
2026年10月19日
法令の基準時
2026年10月時点の法令による
出典(外部サイト)
e-Gov 法令検索(デジタル庁)〔外部サイト〕/裁判所ウェブサイト〔外部サイト〕
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