問題提起
亡くなった親に借金があるが、自宅や預金もある。どちらが多いのか分からない。相続放棄をすると、親の自宅を相続で取得することもできなくなるし、場合によっては次の順位の親族に相続が移る。かといって、全部を引き継いで借金の方が多かったら困る。こうした場面の選択肢が限定承認である。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
亡くなった親に借金があるが、自宅や預金もある。どちらが多いのか分からない。相続放棄をすると、親の自宅を相続で取得することもできなくなるし、場合によっては次の順位の親族に相続が移る。かといって、全部を引き継いで借金の方が多かったら困る。こうした場面の選択肢が限定承認である。
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。民法922条(e-Gov法令検索で原文確認)
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。民法923条(e-Gov法令検索で原文確認)
相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。民法924条(e-Gov法令検索で原文確認)
「第九百十五条第一項の期間」とは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間で、期間内に家庭裁判所に請求して延ばしてもらうこともできる(民法915条1項)。
限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。民法927条1項・2項。公告は官報に掲載する=同条4項。知れている相続債権者・受遺者には各別に催告する=同条3項(e-Gov法令検索で原文確認)
① 相続人全員でする。 相続人が複数いれば、全員が共同して申述する(民法923条)。一人でも加わらなければできない。相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされる(民法939条)ので、放棄した人を除いた相続人全員で申述する。
② 熟慮期間内に申述する。 熟慮期間は相続人ごとに進むので、各人の期限を確かめる(いつから数えるかは「熟慮期間の伸長を求める手続」のスレッド参照)。申述先は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法201条1項)。申述書には、当事者・法定代理人と、限定承認をする旨を書く(同条5項)。
③ 財産目録を出す。 プラスの財産とマイナスの財産(借金など)をできるだけ正確に書いた目録を添える(民法924条)。限定承認をした後に、相続財産を隠したり、ほしいままに使ったり、悪意で目録に記載しなかったりすると、単純承認をしたものとみなされることがある(民法921条3号)。単なる書き間違いとは区別されるが、どれに当たるかは個別の判断になる。
④ 単純承認とみなされる事情がないこと。 申述の前に相続財産を処分していると、単純承認をしたものとみなされることがある(民法921条1号。保存行為と民法602条の期間を超えない賃貸は除かれる)。熟慮期間が過ぎた場合も同じ(同条2号)。相続人の一部にこうした事情がある場合の扱いは、下の「議論のある点」を参照。
実務の視点 限定承認は、申述の後に公告・催告・換価・配当という清算の作業が続き、終わるまでに時間がかかる。相続人全員の協力と財産目録を作る時間が必要なので、調査や相続人の調整が間に合いそうにないときは、期間内に熟慮期間の伸長を申し立てることを検討する(伸長も相続人ごとに判断される)。申述書・添付書類(亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、申述人全員の戸籍など)は、裁判所ウェブサイトの「相続の限定承認の申述」の案内で確かめる。
1. 財産と借金の調査・相続人全員の合意(各人の熟慮期間内。足りなければ期間内に伸長を申し立てる)
2. 申述:相続人全員で、財産目録を添えて家庭裁判所に申述する(民法924条)。
3. 清算人の選任(相続人が複数のとき):家庭裁判所が相続人の中から相続財産の清算人を選び、その人が相続人に代わって財産の管理と債務の支払に必要な一切の行為をする(民法936条1項・2項、家事事件手続法201条3項)。
4. 公告と催告:限定承認をした後5日以内(清算人がいるときは清算人の選任の後10日以内)に、官報で、債権者・受遺者に2か月以上の期間を定めて請求の申出をするよう公告する。期間内に申出をしないと弁済から除斥される旨も書く(民法927条1項・2項・4項、936条3項)。知れている債権者・受遺者には個別に催告する(民法927条3項)。
5. 申出期間中:期間が満了するまでは、債権者・受遺者への支払を拒める(民法928条)。
6. 換価:支払のために財産を売る必要があるときは、競売が原則(民法932条本文)。
7. 配当:申出期間が満了した後、申し出た債権者と知れている債権者に、債権額の割合に応じて支払う(民法929条。優先権のある債権者の権利は害せない)。弁済期が来ていない債権も支払の対象になり、条件付きの債権などは家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価に従う(民法930条)。債権者への支払の後でなければ受遺者に支払えない(民法931条)。
8. 残り:支払い終えて残った財産は、相続人が取得する(相続人が複数なら、必要に応じて遺産分割をする)。申出をせず、知れてもいなかった債権者・受遺者は、原則として残った財産についてだけ権利を行使できるが、相続財産に抵当権などの特別担保を持つ人はこの限りでない(民法935条)。
① 自宅などを残したいとき(先買権)。 清算のための競売に付す代わりに、家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価に従って価額を支払えば、競売を止めることができる(民法932条ただし書。一般に「先買権」と呼ばれる)。ただし、止められるのはこの清算のための競売で、抵当権などの担保権が消えるわけではない。相続人が複数なら、最終的に誰がその財産を取得するかも別に決める必要がある。
② 決まりを守らずに払うと責任を負う。 公告や催告を怠ったり、申出期間中に支払ったことで他の債権者・受遺者に払えなくなったりしたときは、損害を賠償する責任を負う。期間満了後でも、割合に応じた支払や受遺者への支払の順序などの決まり(民法929条〜931条)に反して払ったときも同じ(民法934条1項)。手続の途中で債権者から支払を求められても、すぐに払わない。
③ 受理されたら終わり、ではない。 家庭裁判所が申述を受理しても、限定承認が有効かどうかが債権者との関係で最終的に確定するわけではない。熟慮期間の経過や財産の処分などを理由に、後の訴訟で効力が争われることがある。限定承認をした共同相続人の一部に財産の処分(民法921条1号)や隠匿・消費(同条3号)の事情があるときは、相続財産から払いきれなかった分について、債権者はその人に相続分に応じて請求できる(民法937条)。
④ 自分の借金・保証は別。 限定承認で限られるのは、亡くなった人の借金を相続したことによる責任である。相続人自身がもともと保証人・連帯債務者になっている借金は、限定承認をしても免れない。
⑤ 税金(みなし譲渡)と申告の期限。 限定承認による相続では、土地・建物・株式など、譲渡所得の基因となる資産(と山林)について、亡くなった人が相続の時の価額で譲渡したものとみなされ、亡くなった人の所得の計算に入る(所得税法59条1項1号)。現金・預金を含むすべての財産が対象になるわけではない。亡くなった人の所得税の申告(準確定申告)が必要な場合、その期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日まで(所得税法125条1項)で、熟慮期間の伸長を受けても延びない。限定承認を検討する段階から、税理士にも相談したい。
⑥ 相続放棄との違い。 相続放棄は一人ずつでき、初めから相続人でなかったことになる(民法939条)。同じ順位の相続人が全員放棄するなどした場合には、次の順位の人(子の次は親などの直系尊属、その次は兄弟姉妹)が相続人になることがある。限定承認は全員でする必要があり、相続人として清算の手続を担う。財産より借金が明らかに多いなら相続放棄、どちらが多いか分からない・残したい財産があるなら限定承認、というのが選び方の出発点になる。
次の点は、条文だけでは結論が出ず、解釈や事情によって扱いが分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
① 申述の前から、相続人の一部に単純承認とみなされる事情がある場合。 限定承認は全員でしかできないため、一部の相続人について、熟慮期間がすでに過ぎている(民法921条2号)、相続財産を処分した(同条1号)といった事情がある場合に、なお全員で限定承認ができるか、できるとしてその人がどこまで責任を負うかには、解釈上の争いがある。民法937条が定めているのは1号・3号の事由で、2号(期間の経過)は挙げられていない。事由の種類と、それがいつ生じたかによって検討が変わるので、例外を当てにして期限を過ぎさせたり、財産を処分したりしないこと。家族にこうした事情がありそうなら、申述の前に必ず相談したい。
② 清算の途中の個別の判断。 どの債権者が「知れている」債権者に当たるか、どの財産をどう換価するか、優先権のある債権者をどう扱うかなどは、事実関係と清算の計画によって判断が必要になる。手続の途中で迷ったら、自己判断で支払や売却をしないこと。
・借金と財産のどちらが多いか分からない、自宅や事業を残したい
・自宅などに抵当権が付いている
・自分が亡くなった人の借金の保証人・連帯債務者になっている
・相続人が多い、連絡のつかない相続人や反対している相続人がいる
・相続人に未成年者・成年被後見人がいる、相続人が承認・放棄をしないうちに亡くなった
・相続人の誰かが、すでに亡くなった人の預金を使ったり財産を処分したりした
・不動産・株式など値上がりした財産がある(税金の問題)
・受理された後、公告・催告・換価の進め方が分からない、債権者から自分の財産に請求や訴訟を受けた
亡くなったことや自分が相続人になったことを知ってから、できるだけ早く。 限定承認は相続人全員の合意と財産目録の作成が必要で、熟慮期間の伸長も期間が満了する前でなければ申し立てられない。受理された後も、5日以内(清算人の場合は選任後10日以内)の公告など短い期限が続き、準確定申告の期限(知った日の翌日から4か月)も別に進む。
限定承認は、相続財産の範囲でだけ借金を払う相続の仕方で、借金の額が分からないときや残したい財産があるときの選択肢になる。ただし、相続放棄をした人を除く相続人全員で熟慮期間内に申述しなければならず、受理後の公告・換価・配当の清算は手間がかかり、税金の申告の期限もある。自分自身の保証債務や担保権は別問題になる。選ぶかどうかは、早い段階で専門家と一緒に検討したい。
出典
民法602条・915条1項・921条・922条〜937条・939条/家事事件手続法201条1項・3項・5項・別表第一92の項・94の項/所得税法59条1項1号・125条1項(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-18)