問題提起
自分の死後に子どもたちが争わないよう、公正証書遺言を作りたい。公証役場に相談したところ、「証人を2人連れてきてください」と言われた。長男に頼もうと思ったが、長男は証人になれないと聞いた。誰に頼めばよいのか。頼める人がいない場合はどうすればよいのか。当日はどのような流れで進むのか。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
自分の死後に子どもたちが争わないよう、公正証書遺言を作りたい。公証役場に相談したところ、「証人を2人連れてきてください」と言われた。長男に頼もうと思ったが、長男は証人になれないと聞いた。誰に頼めばよいのか。頼める人がいない場合はどうすればよいのか。当日はどのような流れで進むのか。
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
2 前項の公正証書は、公証人法(明治四十一年法律第五十三号)の定めるところにより作成するものとする。
3 第一項第一号の証人については、公証人法第三十条に規定する証人とみなして、同法の規定(同法第三十五条第三項の規定を除く。)を適用する。民法969条(e-Gov法令検索で原文確認)
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人民法974条・2026年10月21日現在(e-Gov法令検索で原文確認)
前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。民法1004条2項。1項は遺言書の保管者・発見者の検認の請求の義務(e-Gov法令検索で原文確認)
① 未成年者。
② 推定相続人。 遺言をする時点で相続が開始したと仮定した場合に相続人となる人である(相続欠格や廃除で相続権を失った人は除かれ、子が欠格・廃除で相続権を失ったときは、その子が代襲する)。配偶者は常に当たり、それとは別に、子(子が先に亡くなっていれば孫などの代襲相続人)、子などがいなければ直系尊属(父母、いなければ祖父母など親等の近い人)、それもいなければ兄弟姉妹(先に亡くなっていればその子である甥・姪)が当たる。
③ 受遺者。 遺言で財産を受け取る人である。
④ 推定相続人と受遺者の配偶者と直系血族。 たとえば、長男の妻、長男の子(孫)、財産をもらう人の親や子も証人になれない。
⑤ 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記と使用人。 公証役場の職員がこれに当たる。
公正証書遺言では、公証人法35条3項(一般の公正証書の証人の欠格事由)は適用されず(民法969条3項)、証人になれるかどうかは民法974条で判断する。
① 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号。2026年6月24日公布)により、民法974条は次のように改められる(未成年者が証人になれないことは変わらない)。
・未成年者
・推定相続人ならびにその配偶者および直系血族
・受遺者(推定相続人である者を除く)ならびにその配偶者、直系血族および被用者(受遺者が法人である場合は、その被用者と役員)
・公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および被用者
② この改正は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日から施行される(同法附則1条2号)。施行の日より前にされた遺言については、従前の例による(同法附則5条1項)。たとえば、財産を受け取る会社の従業員や役員を証人にすることは、施行後の遺言ではできなくなる。なお、施行前でも、財産を受け取る法人の代表者を証人にすることは、受遺者本人と同じに扱うべきだとして問題とされることがあるので避ける。施行の日は、遺言を作る時点で法務省・公証役場の案内で確かめる。
① 知人・友人に頼む。 欠格事由に当たらない成人であれば、知人・友人でもよい。ただし、証人は、遺言者が本人であることや口授・読み聞かせを確かめ、証書が正確であることを承認する役割を果たす必要がある。また、遺言の内容を知ることになるので、秘密を守ってくれる人を選ぶ。
② 公証役場に紹介してもらう。 頼める人がいない場合、公証役場に証人の手配を相談できることが多い。謝礼などの費用がかかるので、事前に確かめる。
③ 遺言の作成を依頼した弁護士などに頼む。 遺言の内容の相談や文案の作成を弁護士などに依頼した場合、その弁護士や事務所の職員が証人になることもある。
④ 欠格者が同席した場合。 資格のある証人2人が立ち会ったうえで、証人になれない人が、証人としてではなく作成の場に同席していたとしても、その人によって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自分の真意で遺言をすることを妨げられたりするなどの特段の事情がない限り、遺言は無効にならないとした最高裁判決がある(最高裁平成13年3月27日判決・判時1745号92頁)。これは、必要な証人2人のうち1人が証人になれない人だった場合まで有効とするものではない。後で遺言の効力が争われる原因になりやすいので、推定相続人などは同席しない方がよい。
1. 遺言の内容を決める。 誰に何を渡すか、遺言執行者を誰にするかなどを決め、財産の一覧を作る。
2. 公証役場に相談する。 どの公証役場でも相談できる。遺言の内容を伝え、必要な書類(本人確認書類、戸籍謄本、受け取る人の住民票、不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書、預金の資料など)を確かめる。
3. 証人2人を決める。 証人の氏名・住所・生年月日などを公証役場に伝える。
4. 公証人が文案を作る。 文案を確認し、修正が必要なら伝える。手数料の額もこの段階で確かめる(手数料は公証人手数料令で定められ、財産の額や受け取る人の数などで変わる)。
5. 作成の当日。 遺言者と証人2人が公証人の前に集まり(ウェブ会議の場合は画面越し)、遺言者が遺言の趣旨を公証人に伝える。公証人は作成した公正証書を読み聞かせるか閲覧させ、遺言者と証人が正確であることを承認し、署名またはこれに代わる措置をする(公証人法40条1項・5項)。証人は、最初から最後まで立ち会う。
6. 正本・謄本を受け取る。 原本は公証役場で保管される。遺言者は、正本や謄本(電子データで作成された場合は、その内容を証明した書面など)を受け取る。
実務の視点 証人に頼む人には、事前に、遺言の内容を知ることになること、当日の日時・場所、本人確認書類が必要なことを伝えておく。推定相続人や財産を受け取る人の配偶者・子は証人になれないので、家族に頼めないことが多い。体調が心配な場合は、公証人に自宅や病院・施設に出張してもらうこともできるが、追加の費用がかかる。遺言の内容が家族の争いを招きそうな場合は、文案の段階で弁護士に見てもらうと、遺留分などへの配慮を事前に考えられる。
① 公証人は、公正証書を、原則として電磁的記録(電子データ)で作成する。電磁的記録で作成することに困難な事情がある場合は、書面で作成する(公証人法36条)。
② 遺言者から申出があり、公証人が相当と認めるときは、映像と音声で相手の状態を相互に認識しながら通話できる方法(ウェブ会議)で、陳述の聴取や、読み聞かせ・閲覧と承認をすることができる(公証人法37条2項・40条3項)。遺言の公正証書でウェブ会議が使えるかどうかは公証人が判断し、参加する場所や方法、署名に代わる措置などの具体的な扱いは法務省令と公証役場の運用による。本人確認や遺言者の判断能力の確認などのため、対面での作成を求められることもあるので、事前に公証役場に確かめる。
① 「家族が証人になればよい」は誤り。 推定相続人とその配偶者・直系血族は証人になれない。
② 公正証書遺言でも争われることはある。 作成当時の遺言者の判断能力や、証人の資格、口授があったかなどをめぐって、遺言の効力が争われることがある(「遺言の無効|認知症のときに書かれた遺言を争う」のスレッドを参照)。
③ 口がきけない人も作れる。 口がきけない人は、公証人と証人の前で、通訳人の通訳により申述するか、自書して、口授に代えることができる(民法969条の2)。この方式によらない限り、公証人が読み上げた内容にうなずいただけでは、口授があったとはいえないおそれがある。
⑤ 成年被後見人の遺言。 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時に遺言をするには、医師2人以上の立会いが必要で、立ち会った医師が所定の付記をする(民法973条)。公証人と証人2人だけでは足りない(欠格事由のない医師が証人を兼ねることはできる)。なお、この条文も令和8年法律第45号で改正され、医師の付記の方法が改められるほか、後見制度の見直しに合わせて対象者の書き方が変わる予定である(施行日は政令で定める)。
④ 自筆証書遺言との比較。 方式の違いや費用・安全性の比較は「遺言の方式|自筆と公正証書、手間と安全性の比較」のスレッドを参照。
・口授があったといえるか。 口授(遺言者が遺言の趣旨を公証人に伝えること)と、作成された証書の内容を承認することとは別の手続である。事前の打合せで公証人が文案を作り、当日に遺言者が趣旨を述べる進め方は一般的だが、当日の遺言者の発言の程度によっては、口授があったといえるかが争われ、事案によって判断が分かれる。
・作成当時の判断能力。 公正証書で作っても、作成当時に遺言をする能力があったかが後で争われることがある。
・欠格者が同席した場合の効力。 原則として無効にならないが、同席者が遺言の内容に影響を与えたかどうかは事案によって判断される。
・財産を受け取る法人の代表者などを証人にできるか。 改正前の条文の文言には直接書かれていないため、扱いが問題になる。
・ウェブ会議での遺言の作成。 法律上は認められる場面があるが、遺言で実際に使えるか、どの範囲で使えるかは、公証役場の運用を確かめる必要がある。
これらは一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・遺言の内容で家族の争いが予想される(特定の子に多く渡したい、相続人以外に渡したいなど)
・遺言者の判断能力に不安がある、入院中・施設入所中である、成年後見を受けている
・証人を頼める人がいない
・会社や団体に財産を渡す遺言を考えている(改正後の欠格事由に注意)
・すでにある遺言を書き直したい
・公正証書遺言の効力に疑問がある
公証役場に文案の作成を頼む前、遺言の内容を考え始めた段階で相談するのがよい。遺言者の判断能力に不安がある場合は、遺言をする時点で遺言能力が必要であり、医師の診断書を用意するなどの準備も要るので、早めに相談する。
公正証書遺言には、証人2人以上の立会いと公証人への口授が必要で、公証人法に従って作成される。推定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族などは証人になれず、2026年の改正で受遺者の被用者なども加わる予定である。証人がいなければ公証役場に相談できる。検認は不要である。
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
出典
民法969条・969条の2・973条・974条・1004条/民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)による改正後の民法974条・同法附則1条2号・5条1項/公証人法30条・35条・36条・37条2項・40条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-21)/最高裁平成13年3月27日判決(判時1745号92頁)