問題提起
離婚後は、どちらか一方が親権者になる——これがこれまでのルールだった。2026年4月1日からは、離婚後も父母の双方が親権者になる「共同親権」を選べるようになった。とはいえ、共同親権を選んだら、子のことは何でも二人で決めなければならないのか。一緒に暮らさない親との関係はどうなるのか。変わった点と変わらない点を整理する。親権は成年に達しない子(18歳未満)についてのもので(民法818条1項・4条)、この記事は未成年の子がいる場合を扱う。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
離婚後は、どちらか一方が親権者になる——これがこれまでのルールだった。2026年4月1日からは、離婚後も父母の双方が親権者になる「共同親権」を選べるようになった。とはいえ、共同親権を選んだら、子のことは何でも二人で決めなければならないのか。一緒に暮らさない親との関係はどうなるのか。変わった点と変わらない点を整理する。親権は成年に達しない子(18歳未満)についてのもので(民法818条1項・4条)、この記事は未成年の子がいる場合を扱う。
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。民法819条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
一 その一方のみが親権者であるとき。
二 他の一方が親権を行うことができないとき。
三 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3 特定の事項に係る親権の行使(第一項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。民法824条の2(e-Gov法令検索で原文確認)
① 協議離婚。 父母の協議で、双方か一方かを決める(民法819条1項)。協議が調わないとき、またはできないときは、家庭裁判所が父または母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる(同条5項)。
② 裁判離婚。 裁判所が双方か一方かを決める(民法819条2項)。
③ 裁判所の判断の基準。 子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮する。次のどちらかに当たるときその他、双方を親権者とすることで子の利益を害すると認められるときは、一方を親権者と定めなければならない(民法819条7項)。
・父または母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき
・父母の一方が他方から身体への暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(暴力等)を受けるおそれの有無、協議が調わない理由その他の事情を考えて、父母が共同して親権を行うことが困難と認められるとき
④ 親権者の変更。 子の利益のため必要があるときは、家庭裁判所が、子またはその親族の請求によって、親権者を変更できる(民法819条6項)。協議で決めた親権者を変更するかの判断では、協議の経過(暴力等の有無、調停やADRの利用、公正証書の作成の有無など)も考慮される(同条8項)。協議だけで親権者を変えることはできない。
場面|扱い|根拠
日常の行為(監護・教育に関する日々のこと)|一方が一人で行える|824条の2第2項
子の利益のため急迫の事情があるとき|一方が一人で行える|824条の2第1項3号
他方が親権を行うことができないとき|一方が一人で行える|824条の2第1項2号
上のどれにも当たらないとき|原則として父母が共同して行う(「重大なこと」に限られない。子の財産に関することなども含む)|824条の2第1項本文
共同して行うべき特定の事項で意見が合わない|家庭裁判所に、一方が単独で行えるよう定めてもらう(子の利益のため必要と認められる場合)|824条の2第3項
監護者が定められているとき|監護者は、監護・教育、居所の指定・変更などを一人で行える|824条の3
意見が合わないことや、同意を拒まれたことだけでは、「他方が親権を行うことができないとき」には当たらないと考えられる。どれが「日常の行為」や「急迫の事情」に当たるかは、法務省の解説資料などで例が示されている。たとえば、食事・服装など日々の世話は日常の行為、転居や進学先の決定、重大な医療行為などは共同で決める事項の例とされ、DV・虐待からの避難や緊急の医療、期限が迫った入学手続などは急迫の事情の例とされている。急迫の事情は、協議や家庭裁判所の手続を待っていては間に合わず、子の利益を害するおそれがある場合を念頭に置くもので、最終的には個々の事情で判断される。家庭裁判所の手続には時間がかかることもあるので、期限のある事柄は早めに相談する。
離婚のときに、子の監護をすべき者(監護者)や監護の分担を決めることもできる(民法766条1項)。父母の一方が監護者と定められた場合、その父または母は、子の監護・教育、居所の指定・変更、営業の許可などを一人で行うことができ、監護者でない親権者は、その行為を妨げてはならない(民法824条の3)。ただし、監護者の権限は親権のすべてに及ぶわけではなく、子の財産の管理などは別である。また、主に子と暮らして世話をしていることと、法律上の監護者に定められていることは同じではない。共同親権を選びつつ、監護者を一方に定めるという決め方もある。
実務の視点 共同親権を選ぶ場合は、子が主にどちらと暮らすか、法律上の監護者を定めるか、学校や医療の連絡をどう取り合うか、意見が合わないときの決め方、子と離れて暮らす親との交流(親子交流)の方法を、できるだけ具体的に書面に残しておく。協議離婚では、親権者を離婚届に記載し、届が受理されて離婚の効力が生じると、その定めが効力を持つ。署名する前に、その意味を十分に確かめる。
1. 父母で、親権者を双方とするか一方とするかを話し合う。あわせて、監護者・養育費・親子交流を話し合う。暴力や脅しがある場合は、直接の話し合いにこだわらず、先に弁護士や支援機関に相談する。
2. 協議離婚では、決めた親権者を離婚届に書いて提出する。親権者について合意できない場合でも、親権者の指定を求める審判か調停を申し立てていれば、親権者が決まる前に離婚の届出が受理される(民法765条1項2号)。その場合、離婚の成立と親権者の決定は同時ではない。
3. 親権者について協議が調わないときは、家庭裁判所の調停や、協議に代わる審判の手続を利用する(民法819条5項)。離婚そのものに合意できない場合は、まず離婚調停を申し立て、成立しなければ原則として離婚の訴えを検討する。
4. 離婚後に親権者を変えたいときは、家庭裁判所に親権者変更の調停・審判を申し立てる(民法819条6項)。
5. 共同親権で特定の事項について意見が合わないときは、家庭裁判所に、その事項を一方が単独で行えるよう定めてもらう申立てをする(民法824条の2第3項)。申立てが当然に認められるわけではない。
① 共同親権は「共同で育てること」と同じではない。 共同親権になっても、子がどちらと暮らすかや、日々の監護の分担が当然に決まるわけではない。監護者や監護の分担、親子交流は別に決める。
② 養育費は親権とは別に考える。 親権者かどうかにかかわらず、父母は子を扶養する責任を負う(民法817条の12第1項)。養育費は親権とは別に、金額や支払方法を定めることが大切である。取り決めがないことだけで請求できなくなるわけではなく、2026年4月1日以後の離婚では、取り決めまでの法定養育費の制度もある(民法766条の3。別の記事で扱う)。
③ 裁判所が必ず単独親権としなければならない場合がある。 裁判所が親権者を定める場合、子への害悪のおそれや、暴力等の事情から共同で親権を行うのが困難と認めるときなどは、一方を親権者としなければならない(民法819条7項)。ただし、協議離婚の届出の段階で役所がこの判断をする仕組みではない。また、すでに共同親権になっている場合に、DVなどがあっても自動的に単独親権に変わるわけではないので、親権者変更や安全確保の手続を検討する。
④ 改正前に離婚した人も、変更を求められる。 改正後の規定は、附則に特別の定めがある場合を除き、施行前に生じた事項にも適用されるが、改正前の規定で生じた効力は妨げられない(令和6年法律第33号附則2条)。改正前に定められた単独親権はそのまま続き、施行後に、子の利益のため必要があれば、家庭裁判所に双方への変更を求めることができる。
⑤ 父母は互いに協力する義務があるが、安全が優先。 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない(民法817条の12第2項)。ただし、DVや虐待がある場合に、相手との直接の話し合いや接触を強いる趣旨ではないと考えられる。危険があるときは、安全の確保を優先し、弁護士・警察・支援機関に相談する。
⑥ 子の意思にも配慮する。 父母は、子の人格を尊重し、年齢や発達の程度に配慮して養育しなければならない(民法817条の12第1項)。子の希望だけで親権者が決まるわけではないが、子が父母の対立に巻き込まれている場合なども相談の目安になる。
議論のある点 親権者を定める基本的な基準や、必ず一方を親権者としなければならない場合は法律で定められている。一方、「日常の行為」「急迫の事情」への具体的な当てはめ、共同で行うべき事項の線引き、個々の事情の評価(どの程度の対立や暴力等で共同行使が困難とされるか)は、今後の裁判所の運用や事例の積み重ねによるところが大きい。また、協議離婚で共同親権を選ぶ合意が双方の真意によるかを確認する措置は、政府が検討することとされている(附則19条1項)。共同親権は、原則として優先される制度でも、一方が反対すれば必ず単独親権になる制度でもない。自分の事情で共同親権が適切か、相手との関係で共同して決めることが現実にできるかは、一般論で判断せず、弁護士に相談してほしい。
・相手から共同親権を求められているが、不安がある
・相手から暴力や暴言を受けている、または子への害が心配だ
・離婚届への署名や共同親権への同意を迫られている、勝手に離婚届を出されるおそれがある(離婚届の不受理申出も検討する)
・共同親権にしたが、進学・転居・医療などで意見が合わない、期限が迫っている
・改正前に離婚して単独親権だが、親権者の変更を求めたい(求められた)
・子が父母の対立に巻き込まれている
・離婚届の親権者の欄にどう書くか迷っている
親権者は、協議離婚では通常、離婚届が受理された時点で決まる(親権者の指定の申立てをして先に離婚する例外もある)。後から変えるには家庭裁判所の手続が必要になるので、離婚届に署名する前に相談してほしい。暴力等の心配がある場合は、早めに弁護士や支援機関に相談する。
2026年4月1日からは、離婚後も父母の双方を未成年の子の親権者にできるようになったが、子への害悪のおそれや暴力等の事情から共同行使が困難なときなどは、裁判所は一方を親権者としなければならない。共同親権でも、日常の行為、急迫の事情があるとき、他方が親権を行えないときは一人で行え、意見が合わない特定の事項は家庭裁判所が定める。監護者の指定や監護の分担、養育費、親子交流は、親権者の指定とは別の問題として、子の利益と安全を踏まえて検討する(法律上の監護者の指定は必須ではない)。
出典
民法4条・765条1項・766条1項・766条の3・817条の12・818条1項・819条・824条の2・824条の3/民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)附則1条・2条・19条1項(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-18)