問題提起
兄弟で何度か話し合ったが、実家を売るか誰かが住み続けるかで折り合わない。連絡しても返事をしない相続人もいる。こうして話し合いが進まないときの次の手段が、家庭裁判所の遺産分割調停である。どこに申し立て、どう進み、まとまらなければどうなるのかを、条文に沿って整理する。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
兄弟で何度か話し合ったが、実家を売るか誰かが住み続けるかで折り合わない。連絡しても返事をしない相続人もいる。こうして話し合いが進まないときの次の手段が、家庭裁判所の遺産分割調停である。どこに申し立て、どう進み、まとまらなければどうなるのかを、条文に沿って整理する。
協議ができないときは、家庭裁判所に分割を求めることができる。
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。民法907条2項(e-Gov法令検索で原文確認)
調停の申立先は次のとおり定められている。
家事調停事件は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。家事事件手続法245条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
調停で合意し、調書に記載されると、確定した審判と同じ効力を持つ。
調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては、確定した第三十九条の規定による審判)と同一の効力を有する。家事事件手続法268条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
調停委員会が調停不成立として事件を終了させた場合(同法272条1項)は、審判の申立てがあったものとみなされる。
第一項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停事件が終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。家事事件手続法272条4項(e-Gov法令検索で原文確認)
①当事者。原則として、共同相続人の1人または数人が申立人になり、他の共同相続人全員を相手方にする。分割は全員について決める必要があるため、一部の人を外すことはできない。ただし、家庭裁判所で相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとされる一方、包括遺贈を受けた人や相続分を譲り受けた人が当事者になることがある。「財産はいらない」と言っただけの人は、当然には当事者から外れない。
②申立先。調停は、相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で決めた家庭裁判所(家事事件手続法245条1項)。最初から審判を申し立てる場合は、相続が開始した地(亡くなった人の住所地。民法883条)の家庭裁判所が原則だが(家事事件手続法191条1項)、審判を申し立てても調停に回されることがある(同法274条1項)。
③申立書。当事者と、申立ての趣旨・理由を書いた申立書を出す(家事事件手続法255条)。裁判所の書式と、戸籍一式・財産の資料を添える。
④分ける遺産があること。遺言で取得する人が決まっている財産や、遺言・合意・審判で分割が禁止されている場合(民法908条)は、扱いが異なる。申立ての前に遺言の有無と内容を確かめる。
実務の視点申立ての前に、戸籍一式、不動産の登記事項証明書と評価の資料、預貯金の残高証明書などを集め、財産の一覧と「どの財産を誰が取得したいか」の希望を整理しておくと、第1回の期日から話が進みやすい。申立書の書式と添付書類の案内は、裁判所ウェブサイトに掲載されている。
①申立て → ②期日の呼出し → ③期日で、裁判官と家事調停委員で構成する調停委員会が双方の言い分を聞き、合意に向けて調整する → ④合意できれば調書に記載して成立(家事事件手続法268条1項)。調書を使って相続登記や預貯金の解約ができる。
期日では、一般に①相続人の範囲 → ②遺産の範囲 → ③遺産の評価 → ④特別受益・寄与分を踏まえた各人の取り分 → ⑤分け方の順に話し合う。事案によって順序を入れ替えたり並行したりすることもある。
⑤合意の見込みがないと、調停委員会は調停不成立として事件を終了させることができ(家事事件手続法272条1項)、その場合は改めて申し立てなくても審判に移る(同条4項)。申立てを取り下げて終わった場合は、審判には移らない。審判では裁判官が、民法906条の基準(遺産の種類・性質、各相続人の年齢・職業・生活の状況などの一切の事情)に沿って分け方を決める。
⑥不成立で終わらせる代わりに、わずかな意見の違いで合意できない場合などに、家庭裁判所が職権で調停に代わる審判をすることがある(家事事件手続法284条1項)。これに対しては、告知を受けた日から2週間の不変期間内に、その家庭裁判所へ異議を申し立てることができ(同法286条1項・2項、279条2項・3項)、適法な異議があれば効力を失い(286条5項)、審判の申立てがあったものとみなされる(同条7項)。
⑦審判に不服がある相続人は、告知を受けた日から2週間の不変期間内に(家事事件手続法86条)、審判をした家庭裁判所に抗告状を提出して即時抗告をする(同法87条1項・198条1項1号)。抗告を審理するのは高等裁判所である。
①「調停で相続の争いが全部片付く」は誤解。相続人が誰か(養子縁組の効力など)、遺言が有効か、ある財産が遺産に含まれるかといった前提の問題は、最終的には訴訟で確定する事項である。家庭裁判所は審判の中でこれらを判断することもできるが、その判断には既判力がなく、後の訴訟で異なる判断が確定すれば、分割の審判もその限度で効力を失う(最高裁昭和41年3月2日大法廷決定)。争いが深いときは、訴訟を先に進めるよう促されることが多い。
②遺産かどうかの争い。特定の財産が亡くなった人の遺産に属すること(遺産分割前の共有関係にあること)の確認を求める訴え(遺産確認の訴え)は適法とされている(最高裁昭和61年3月13日判決)。この訴えは共同相続人全員を当事者にする必要があるとされている。
③寄与分の申立て。調停の中では、別の申立てをしなくても寄与分について話し合い、合意することができる。合意できず審判で寄与分を定めてもらうには、寄与をした相続人が「寄与分を定める処分」を申し立てる必要がある(民法904条の2第2項・4項)。遺産分割の審判と併合して審理され(家事事件手続法192条)、家庭裁判所が申立ての期間を定めることもある(同法193条)。
④分割の対象にならないもの。借金は相続人どうしで負担者を決めても債権者を当然には拘束しない。受取人が指定された死亡保険金は、原則として受取人の固有の財産になる。こうしたものが遺産分割の対象になるかは、個別に確かめる。
⑤欠席と、所在不明・判断能力の問題は別。呼出しを受けた相続人が欠席を続けても、最終的には審判などで分け方が決まることがある。一方、所在が分からない相続人、未成年の相続人、判断能力が十分でない相続人がいる場合は、不在者財産管理人・成年後見人・特別代理人などの選任や送達の方法を先に確かめる必要がある。
実務の視点期日ごとに、確認できた点・持ち帰った宿題・次回までに出す資料を自分でもメモしておく。提出した書面や資料は控えを手元に残す。期日の途中で確認した事項と、成立した調停の調書とでは法的な意味が違うが、いったん合意した点は覆しにくいので、その場で即答できないときは「持ち帰って検討する」と伝えてよい。
次の点は、事案や裁判所の運用によって扱いが分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
①途中で合意した点を後で撤回できるか。期日の途中で確認・合意した事項(遺産の範囲や評価など)を後から撤回できるかは、合意の対象・内容・経緯・記録のされ方によって評価が分かれうる。相続人という身分そのものは、当事者の合意だけで変えられない。
②前提の問題を調停の中で扱うか、訴訟を先にするか。争いの深さ、証拠の量、時間と費用によって最適な順序が変わる。訴訟を先行させるために調停を取り下げる場合もあるが、取り下げると後述の10年の制限で不利になるおそれがあり、相続開始から10年を経過した後の取下げには相手方の同意が必要になる(家事事件手続法273条2項。審判の申立てについては199条2項)。2023年4月1日より前に開始した相続で、施行の時から5年の期間の方が後に満了する場合は、その5年を経過した後から同意が必要になる(令和3年法律第24号附則7条1項)。取り下げる前に必ず相談したい。
③使い込みなどの「付随する問題」。亡くなった後に相続人の一人が遺産を処分した場合は、処分した人以外の相続人全員が同意すれば、処分した人の同意がなくても、遺産分割の中で扱えることがある(民法906条の2)。ただし、この規定は2019年7月1日以後に開始した相続に適用され、それより前に開始した相続には、処分が同日以後でも適用されない(平成30年法律第72号附則2条)。それ以外の返還請求や葬儀費用の精算は、合意できなければ別の手続によることが多い。どこまでを調停で扱うかは、金額・証拠・費用の見通しで判断が分かれる。
・相続人が多い、疎遠な相続人や連絡に応じない相続人がいる
・遺言の有効性や、ある財産が遺産かどうかで争いがある
・使い込みが疑われる、特別受益・寄与分を主張したい(されている)
・不動産の評価や、誰が取得するかで対立している
・相続開始から長い年月がたっている(10年が近い、または過ぎている)
・借金がある、遺言で自分の取り分がほとんどない、不動産の相続登記が済んでいない
・相手方に弁護士が付いた、または調停委員の説明が分かりにくい
弁護士に依頼すると、申立書と資料の準備、期日への同行・出頭、主張の書面化、審判への不服申立てまで任せられる。
相談は申立ての前(何を求め、どの資料を出すかを決める段階)が望ましい。期日で重要な点に合意する前、調停を取り下げる前も相談の目安になる。あわせて次の期間に注意する。
・即時抗告:審判の告知を受けた日から2週間の不変期間内に、審判をした家庭裁判所へ抗告状を出す(家事事件手続法86条、87条1項)。
・調停に代わる審判への異議:告知を受けた日から2週間の不変期間内(同法286条2項、279条2項・3項)。
・10年の制限:相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として特別受益・寄与分の規定が適用されない(民法904条の3)。ただし、①10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求したとき、②10年の期間の満了前6か月以内に分割を請求できないやむを得ない事由があり、その事由が消滅した時から6か月を経過する前にその相続人が家庭裁判所に請求したときは、この限りでない(同条1号・2号)。この10年は遺産分割そのものができなくなる期限ではなく、相続人全員が合意すれば、特別受益・寄与分を考慮した分け方もできる。2023年4月1日より前に相続が開始した場合は経過措置があり、①は「相続開始の時から10年を経過する時」と「改正法の施行の時から5年を経過する時」のいずれか遅い時までに家庭裁判所に請求すればよく、②の「10年の期間」も、施行の時から始まる5年の期間の方が後に満了するときは、その5年の期間に読み替えられる(令和3年法律第24号附則3条)。話し合いの継続や弁護士への相談だけでは①の「請求」にはならない。
・遺産分割とは別の期限:調停を申し立てても、次の期限は当然には延びない。該当しそうなら調停の準備を待たずに相談する。
相続放棄=自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(期間内に家庭裁判所へ伸長を求めることができる。民法915条1項)。
遺留分侵害額請求=相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年間行使しないと時効で消滅し、相続開始の時から10年を経過したときも同様(民法1048条)。訴訟によらず相手方への意思表示で行使することもできる。2019年7月1日より前に開始した相続には改正前の制度が適用される。
相続人でない親族の特別寄与料=2019年7月1日以後に開始した相続についての制度。家庭裁判所への請求は、相続の開始と相続人を知った時から6か月、相続開始の時から1年のどちらかを過ぎるとできない(民法1050条2項)。
相続登記=所有権の登記がある不動産を相続で取得した人は、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に申請する義務がある(不動産登記法76条の2第1項)。2024年4月1日の施行より前に開始した相続にも適用され、その場合は「知った日」と「施行日」のいずれか遅い日から数える(令和3年法律第24号附則5条6項)。分割がまとまらないときは相続人申告登記で対応できる場合がある(詳しくは「相続人の一人が行方不明のとき」のスレッド)。
話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所の調停で、相続人の範囲から分け方まで順に話し合う。不成立なら審判で裁判官が決める。前提の問題や使い込みは調停だけでは決着しないことがあり、取下げや10年の制限など時期の問題もある。申立ての前に、何を調停で求め、何を別の手続にするかを整理しておくことが大切である。