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配偶者居住権|残された配偶者が自宅に住み続ける権利

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この記事の要点

  • 配偶者居住権は、亡くなった人の建物に相続開始の時に住んでいた配偶者が、その建物の全部を無償で使用・収益できる権利である(民法1028条1項)。遺産分割(協議・調停・審判)または遺贈で取得し、存続期間は原則として配偶者が亡くなるまで(民法1030条)。
  • 典型例では、建物の所有権は別の相続人(子など)が取得し、配偶者は住む権利だけを取得する。自宅の所有権を取得するより、遺産分割での取り分の計算上の評価額を抑えられ、預金などほかの財産を受け取りやすくなることがある(具体的な効果は評価額や遺産の構成による)。第三者に主張するには登記が必要で、建物の所有者は登記をさせる義務を負う(民法1031条)。
  • 遺産分割が決まるまでの間などは、別に配偶者短期居住権(民法1037条)で、無償で住める場合がある(自宅について遺産分割をすべき場合は、建物の帰属が決まる日か相続開始から6か月を経過する日の遅い方まで)。どちらも2020年4月1日以後に開始した相続に適用される(配偶者居住権の遺贈は同日以後にされたものに限る)。
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問題提起

夫が亡くなり、相続人は妻と子2人。遺産は夫名義の自宅(2,000万円相当)と預金1,000万円。妻の法定相続分に当たる額は1,500万円なので、法定相続分どおりに分ける前提では、妻が自宅を取得すると、預金をすべて子に回してもなお500万円の代償金が必要になり、生活費も残らない(相続人全員の合意があれば、違う配分もできる)。子は「家を売って分けたい」と言う。妻が自宅に住み続けながら、生活費も確保する方法はないか。

法律の文言(民法1028条・1029条・1030条・1031条)

被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。民法1028条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。民法1029条(e-Gov法令検索で原文確認)
配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。民法1030条(e-Gov法令検索で原文確認)
居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。(以下略)民法1031条1項(e-Gov法令検索で原文確認)

要件

① 法律上の配偶者。 亡くなった人と婚姻していた配偶者に限られ、内縁の配偶者は含まれない。内縁の場合は、遺言や契約などほかの方法で住まいを確保することを考える。

② 亡くなった人の建物に、相続開始の時に住んでいた。 建物が亡くなった人の所有(または亡くなった人と配偶者の共有)であることが必要で、亡くなった人が賃借していた建物には成立しない。入院などで一時的に離れていても、生活の本拠としての実態があれば「居住していた」に当たりうると説明されている。

③ 第三者との共有でない。 亡くなった人が建物を配偶者以外の人(たとえば子)と共有していた場合は成立しない(民法1028条1項ただし書)。

④ 取得の方法。 遺産分割(協議・調停・審判)で取得するものとされたとき、または遺贈の目的とされたとき(同項各号)。死因贈与でも取得できると説明されている(民法554条で遺贈の規定が準用されるため)。「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)では取得させられないと解されているので、遺言で与えるなら「配偶者居住権を遺贈する」と明記するのが安全である。すでにある遺言に「相続させる」と書かれていても、文言だけで無効と決めず、遺言全体の解釈を確かめる。

⑤ 審判で取得する場合。 家庭裁判所の審判では、相続人の間に合意があるとき、または配偶者が希望し、所有者の不利益を考えてもなお配偶者の生活の維持に特に必要があるときに限って、取得を定めることができる(民法1029条)。

取得した後の権利と義務

① 存続期間。 原則として配偶者が亡くなるまで(民法1030条)。遺産分割や遺言で期間を定めることもでき、期間を定めた場合は延長・更新はできないと説明されている。配偶者が亡くなると権利は消え、相続人には引き継がれない(民法1036条による597条3項の準用)。

② 登記。 建物の所有者は、配偶者に配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う(民法1031条1項)。登記をすれば、その後に建物を買った人などの第三者にも権利を主張できる(同条2項による605条の準用)。ただし、配偶者居住権の登記より先に登記された抵当権が実行された場合などは、登記があっても住み続けられないことがある。住宅ローンや差押えがあるときは、登記の先後を確かめる。

③ 使い方の義務。 従前の用法に従い、善良な管理者の注意で使う(民法1032条1項)。配偶者居住権は譲渡できない(同条2項)。所有者の承諾がなければ、改築・増築や、第三者に使わせること(人に貸すことなど)はできない(同条3項)。使い方の義務(同条1項)や無断の改築・第三者の使用(同条3項)に違反した場合、所有者が相当の期間を定めて是正を催告し、その期間内に是正されないときは、所有者は配偶者への意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる(同条4項)。

④ 修繕と費用。 使うのに必要な修繕は配偶者ができる(民法1033条1項)。修繕が必要なのに配偶者が相当の期間内に修繕をしないときは所有者が修繕できる(同条2項)。修繕が必要なときは、配偶者が自分で修繕する場合を除き、また第三者が建物について権利を主張しているときは、所有者がすでに知っている場合を除いて、遅滞なく所有者に知らせなければならない(同条3項)。固定資産税など建物の通常の必要費は配偶者が負担する(民法1034条1項)。ただし、これは配偶者と所有者の間の負担の決まりで、固定資産税の納税義務者が当然に配偶者に変わるわけではない。通常の必要費以外の費用は別の決まりによる(同条2項)。

⑤ 消滅したとき。 配偶者居住権が消滅したら建物を返す(民法1035条1項)。ただし、配偶者が建物の共有持分を持つ場合は、所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては返還を求められない(同項ただし書)。配偶者が建物の共有持分と配偶者居住権をあわせて持つこともある(民法1028条2項)。

遺産分割での評価

① 権利にも値段がつく。 遺産分割で配偶者居住権を取得すると、原則としてその評価額が配偶者の取り分に計算される。配偶者居住権の評価額は、建物と敷地の所有権の価額より低くなるのが通常なので、その差だけ、配偶者はほかの財産(預金など)を受け取りやすくなる。遺産分割での評価と相続税の評価は、当然に一致するものではない。

② 評価の方法。 建物の残りの耐用年数、配偶者の年齢(平均余命)、存続期間などを考えて評価する方法が示されているが、相続人全員が合意すれば、厳密な算定をしなくてもよいと説明されている。合意できないときは、評価が争いになり、鑑定が必要になることもある。

③ 贈与・遺贈の持戻しの免除の推定。 婚姻期間が20年以上の夫婦で、配偶者居住権が遺贈された場合は、遺産分割の計算で持ち戻さない意思があったものと推定される(民法1028条3項による903条4項の準用)。

相続直後の権利 — 配偶者短期居住権

① 内容。 亡くなった人の建物に相続開始の時に無償で住んでいた配偶者は、一定の期間、その建物を取得した人に対して、無償で使用できる(民法1037条1項)。建物の一部だけを無償で使っていたときは、その部分に限られる。相続開始の時に配偶者居住権を取得した場合や、相続欠格・廃除で相続権を失った配偶者は除かれる(同項ただし書)。相続放棄をしただけでは、短期居住権がなくなるわけではない。

② 期間。 配偶者を含む相続人の間で、その建物について遺産分割をすべき場合は、遺産分割で建物の帰属が確定した日か、相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで(同項1号)。それ以外の場合(遺言で配偶者以外の人が建物を取得した場合など)は、建物を取得した人から消滅の申入れを受けた日から6か月を経過する日まで(同項2号)で、申入れがなければ、相続開始から6か月たっただけでは消えない。

③ 途中で消えることも。 使い方の義務に違反したり、無断で第三者に使わせたりすると、建物を取得した人の意思表示で消滅させられることがある(民法1038条3項。配偶者居住権のような事前の催告の定めはない)。後に配偶者居住権を取得すると、短期居住権は消える(民法1039条)。6か月の居住が無条件に保証されるわけではない。

④ 配偶者居住権との違い。 短期居住権は遺産分割までなどの一時的な権利で、登記はできない。建物を取得した人は配偶者の使用を妨げてはならないが(民法1037条2項)、建物が第三者に売られた場合などに、その第三者に主張できるとは限らない。使用はできるが収益(人に貸すことなど)はできない。

適用される時期

配偶者居住権・配偶者短期居住権の規定は、2020年4月1日以後に開始した相続に適用され、それより前に開始した相続には適用されない。また、相続開始が同日以後でも、同日より前に作成された遺言による配偶者居住権の遺贈には適用されない(平成30年法律第72号附則10条)。古い遺言や死因贈与の契約がある場合は、内容と時期を確かめる。

実務の視点 配偶者居住権を取得したら、建物を取得した相続人と協力して、速やかに設定の登記をする。登記は原則として所有者と共同で申請するが、調停・審判で所有者に登記手続を命ずるなど、配偶者が単独で申請できる内容を定めてもらう方法もある。建物の所有者が建物を売ったり、所有者の債権者が差し押さえたりしたときに、登記がないと権利を主張できなくなるおそれがある。固定資産税の負担、修繕の分担、将来施設に入る場合の扱い(第三者に貸すには所有者の承諾が要る)も、遺産分割協議書で決めておく。相続税の評価にも独自の方法があるので、税理士に確認する。

確認点・よくある誤解

① 自動的に取得できる権利ではない。 配偶者居住権は、遺産分割か遺贈(死因贈与)で取得するもので、配偶者だからといって当然に生じるわけではない。自動的に生じるのは、一定の要件の下での短期居住権である。

② 売ったり貸したりは自由にできない。 配偶者居住権は譲渡できず、人に貸すには所有者の承諾が要る。施設に入って家に住まなくなった場合の扱いを考えておく。

③ 敷地は対象か。 配偶者居住権の対象は建物だが、建物を使うのに必要な限度で敷地も使えると考えられている。ただし、土地について独立の権利を取得するわけではないので、借地や第三者の土地の場合は、敷地を使う権利を別に確かめる。

議論のある点

・評価額の算定。 どの評価方法を使うか、存続期間や建物の状態をどう見込むかで評価額が変わり、取り分の計算に影響する。
・審判で取得できる場合。 合意がないとき、配偶者の生活の維持に「特に必要がある」と認められるかは、所有者となる相続人の不利益との比較で判断され、事案によって分かれる。
・配偶者居住権が向いているか。 配偶者の年齢、建物の状態、将来の施設入所の見込み、子との関係によっては、所有権を取得する、売却するなど、ほかの方法が適していることもある。

これらは一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。

特に相談した方がよい場面

・自宅に住み続けたいが、自宅を相続すると生活費が残らない
・ほかの相続人から自宅の売却や明渡しを求められている
・遺言で配偶者居住権を残したい(書き方を確かめたい)
・配偶者居住権の評価額で相続人の意見が分かれている
・取得した後の登記・固定資産税・修繕の扱いを決めたい
・遺産分割がまとまらず、相続開始から時間がたっている
・建物を取得した人から、短期居住権の消滅の申入れを受けた
・自宅に住宅ローン・抵当権・差押えがある

相談のタイミング

遺産分割の協議を始める前、自宅の扱いを決める前に相談するのがよい。遺言で残す場合は、遺言を作る前に相談する。

まとめ

配偶者居住権は、亡くなった人の建物に住んでいた配偶者が、遺産分割や遺贈で取得し、原則として終身、無償で住み続けられる権利である。所有権より評価が低くなるので生活費も確保しやすい。登記を備え、使い方の義務と費用の負担を確かめて活用したい。

出典

民法554条・597条3項・605条・903条4項・1028条〜1041条/民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)附則10条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)

最終確認日
2026年10月19日
法令の基準時
2026年10月時点の法令による
出典(外部サイト)
e-Gov 法令検索(デジタル庁)〔外部サイト〕/裁判所ウェブサイト〔外部サイト〕
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