問題提起
親が亡くなって何年もたつが、実家の名義は親のまま。「相続登記が義務になった」と聞いた。いつまでに何をすればよいのか。兄弟で遺産分割の話がまとまらない場合はどうなるのか。相続登記の申請義務の中身と、間に合わないときの方法を整理する。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
親が亡くなって何年もたつが、実家の名義は親のまま。「相続登記が義務になった」と聞いた。いつまでに何をすればよいのか。兄弟で遺産分割の話がまとまらない場合はどうなるのか。相続登記の申請義務の中身と、間に合わないときの方法を整理する。
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
2 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。不動産登記法76条の2・一部省略(e-Gov法令検索で原文確認)
前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。不動産登記法76条の3第2項(e-Gov法令検索で原文確認)
第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。不動産登記法164条1項・該当部分を抜粋(e-Gov法令検索で原文確認)
① 義務を負う人。 所有者として登記されている人(登記名義人)が亡くなり、相続でその不動産の所有権を取得した人。相続人に対する遺贈で取得した人も同じ(不動産登記法76条の2第1項)。相続人以外の人への遺贈は、この義務の対象ではない。
② いつから3年か。 「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」から3年以内(同項)。自分が相続人になったことと、その不動産の所有権(遺産分割前の共有持分を含む)を取得したことの両方を知った日から進むと説明されている。遺産分割がまだだから自分は取得していない、ということにはならない。期間は相続人ごと・不動産ごとに確かめる。
③ 遺産分割をしたとき。 まだ相続登記も相続人申告登記もしていない状態で遺産分割がまとまっても、②の当初の期限は延びない。当初の期限までに、分割の結果に従った相続登記を申請する。分割の日から3年という別の期限が生じるのは、法定相続分どおりの登記(民法900条・901条による相続分での登記)をした後に遺産分割がされ、法定相続分を超えて取得した人である(不動産登記法76条の2第2項)。
④ すぐに申請できないとき=相続人申告登記。 遺産分割がまとまらないなどで相続登記ができないときは、登記官に「登記名義人について相続が始まったこと」と「自分がその相続人であること」を申し出ることができ(同法76条の3第1項)、②の期限内に申し出れば、①の義務を果たしたものとみなされる(同条2項)。ただし、申出の前にした遺産分割による取得は除かれる(同項かっこ書)ので、すでに遺産分割がまとまっているなら、その結果の相続登記を申請する。相続人は一人で自分について申し出ることができるが、自分についての申出で、ほかの相続人の義務まで果たしたことにはならない。また、相続人申告登記は相続による所有権の移転の登記ではなく、持分も公示されない。申出の後に遺産分割で所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に登記を申請しなければならない(同条4項。申出の後に法定相続分どおりの登記がされていた場合は③の扱い)。
⑤ 過料。 正当な理由がないのに申請を怠ると、10万円以下の過料に処される(同法164条1項)。法務省の案内では、登記官がいきなり裁判所に通知するのではなく、まず申請をするよう催告し、それでも正当な理由なく申請しない場合に、裁判所に通知する運用とされている(過料を科すかは裁判所が決める)。催告は期限を延ばすものではなく、催告が来るまで放っておいてよいわけでもない。何が「正当な理由」に当たるか(相続人が非常に多く戸籍の収集に時間がかかる、遺言の有効性が裁判で争われている、重い病気など)は、個別の事情で判断される。遺産分割がまとまらないことだけで当然に認められるわけではないので、相続人申告登記を使えるか期限内に考える。
⑥ ほかの人が登記をした場合。 ほかの相続人などの申請によって、義務の対象となる登記がすでにされているときは、同じ登記を重ねて申請する必要はない(同法76条の2第3項・76条の3第5項)。まず今の登記の内容を確かめる。
⑦ 2024年4月1日より前に始まった相続。 申請義務の規定は、施行日(2024年4月1日)より前に登記名義人が亡くなっていた場合にも適用される(令和3年法律第24号附則5条6項)。この場合、②の期間は「知った日」と「施行日」のいずれか遅い日から数え、③の遺産分割後の期間は「遺産分割の日」と「施行日」のいずれか遅い日から数える(同項)。つまり、施行日より前から相続の開始と不動産の取得の両方を知っていた人は、施行日(2024年4月1日)から3年以内に申請しなければならない。昔の相続で名義が亡くなった人のままになっている不動産も対象になる。期限は近いので、自分がいつ知ったかを含め、早めに確かめてほしい。
実務の視点 まず、亡くなった人名義の不動産をすべて把握する(固定資産税の納税通知書、名寄帳、登記事項証明書などで確かめる)。山林や私道の持分など、思わぬ不動産が見つかることがある。相続人が多い、相続が何代も重なっているといった場合は、戸籍集めだけで時間がかかるので、期限が迫る前に相続人申告登記を考えるとよい。相続登記の申請や相続人申告登記の申出には、法務局ウェブサイトに書式・案内がある。
1. 亡くなった人名義の不動産と相続人を確かめる(戸籍、登記事項証明書など)。
2. 遺言があるか確かめる。遺言がなければ遺産分割の話合いをする。
3. 当初の期限までに、遺言・遺産分割・法定相続分のいずれかに従って相続登記を申請する。期限までの相続登記が難しく、相続人申告登記を使える場合は、期限までに申出を済ませる。
4. 遺産分割後の申請義務を確かめる。法定相続分どおりの登記の後は、その不動産について法定相続分を超えて取得した人が、相続人申告登記の後は、分割で所有権を取得した申出人が、遺産分割の日から3年以内に登記を申請する(申出の後に法定相続分どおりの登記がされていれば前者の扱い)。分割で不動産を取得しなかった人に新たな申請義務が生じるわけではない。
5. すでに期限を過ぎている場合も、放っておかず、すぐに相談する。
① 相続人申告登記は「相続登記の代わり」ではない。 申出で果たせるのは最初の義務だけで、不動産を売る・担保に入れるといったときには、改めて相続登記が要る。遺産分割後の義務も残る。
② 法定相続分の登記だけで終わりではない。 法定相続分どおりの登記は相続人の一人からでも全員の分を申請できるが、その後の遺産分割で法定相続分を超えて取得した人には、その結果の登記を申請する義務が生じる。
③ 3年は「権利が守られる期間」ではない。 遺産分割や「相続させる」旨の遺言など、相続によって法定相続分を超えて取得した部分は、登記などの対抗要件がなければ第三者に対抗できない(民法899条の2第1項)。この規定は、原則として2019年7月1日以後に開始した相続に適用され、それより前の相続は改正前の法律と判例によって判断される(平成30年法律第72号附則2条)。また、不動産の遺贈で取得した場合は、相続人が受遺者でも、法定相続分を超えるかどうかにかかわらず、原則として登記がなければ第三者に対抗できない(民法177条)。相続人申告登記には、これらの対抗要件の効果はない。ほかの相続人による売却や担保設定、相続人の債権者による差押えのおそれがあれば、期限を待たずに相談する。
④ 相続放棄をした人は義務を負わない。ただし放棄の期限は別。 相続放棄をした人は初めから相続人でなかったことになる(民法939条)ので、その相続による取得はない。ただし相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述してするもので(民法915条1項・938条)、登記の3年とは別の短い期限がある。調べが間に合わないときは期間内に伸長を申し立てることができ、3か月を過ぎたように見えても事情によっては放棄できることがあるので、自分で判断せず相談する。相続人申告登記をしても、この期間は延びない。いらない不動産だけを選んで放棄することはできず、遺産分割への合意や遺産の処分で放棄できなくなることもある。
⑤ 当初の期限は相続人ごと。 当初の申請義務の期間が始まったかどうか、いつまでかは、自分が相続の開始と不動産の取得を知った時期によって変わる。ほかの相続人と同じとは限らない(遺産分割後の義務は遺産分割の日が基準)。
⑥ 住所等の変更登記の義務もある。 所有権の登記名義人の氏名・名称・住所の変更についても、登記を申請する義務がある(不動産登記法76条の5)。相続登記とは期限・経過措置・職権で変更登記がされる仕組みが異なるので、別に確かめる。
・相続人が多い、相続が何代も重なっている、連絡のつかない相続人がいる
・遺産分割がまとまらない、遺言の有効性に争いがある
・名義が祖父母のままの不動産がある、どこに不動産があるか分からない
・登記官から申請の催告を受けた
・ほかの相続人による売却・担保設定や、差押えのおそれがある
・先の順位の相続人の放棄で自分が相続人になった、別の不動産が後から見つかった
・不動産を売りたい・処分したいが、名義が亡くなった人のまま
・相続した不動産がいらない、借金があるか分からない(相続放棄の期間は原則3か月なので、遺産分割への合意や遺産の処分の前に急いで相談する。相続土地国庫帰属制度は、一定の土地に限られ費用もかかる別の制度)
相続が始まり、不動産を相続したと分かった時点で、早めに相談するのが安全である。とくに、昔の相続で名義が変わっていない不動産は、期間の進み方を確かめたうえで、相続登記か相続人申告登記の準備を急ぎたい。
相続や相続人に対する遺贈で不動産を取得した人は、相続の開始と取得の両方を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならず、2024年4月1日より前の相続も対象になる(経過措置あり)。遺産分割がまとまっても当初の期限は延びない。まとまらないときは期限内の相続人申告登記で最初の義務を果たせるが、その後の遺産分割で取得した人には改めて登記の申請義務が生じる。正当な理由なく怠ると過料の対象になり、登記がなければ第三者に権利を主張できない場合もあるので、早めに準備したい。
出典
民法177条・899条の2・900条・901条・915条1項・938条・939条/平成30年法律第72号附則2条/不動産登記法76条の2・76条の3・76条の5・164条/民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則1条2号・5条6項(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-18)