問題提起
父が亡くなり、遺産は実家の土地・建物と少しの預金。母と子3人が相続人で、長男は実家に住み続けたいが、ほかの兄弟は「お金で分けてほしい」と言う。実家は分けにくく、売るか、長男が取ってほかの兄弟にお金を払うか、決めかねている。不動産を分ける方法と、それぞれの注意点を整理する。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
父が亡くなり、遺産は実家の土地・建物と少しの預金。母と子3人が相続人で、長男は実家に住み続けたいが、ほかの兄弟は「お金で分けてほしい」と言う。実家は分けにくく、売るか、長男が取ってほかの兄弟にお金を払うか、決めかねている。不動産を分ける方法と、それぞれの注意点を整理する。
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。民法906条(e-Gov法令検索で原文確認)
共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。(以下略)民法907条(e-Gov法令検索で原文確認)
家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。家事事件手続法195条(e-Gov法令検索で原文確認)
家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部を競売して換価することを命ずることができる。
2 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部又は一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない。家事事件手続法194条・一部省略(e-Gov法令検索で原文確認)
① 現物分割。 遺産をそのままの形で分ける方法。土地を分筆して2人で分ける場合のほか、「実家は長男、預金は次男」のように遺産ごとに取得者を決める場合も含めて説明される。分け方の原則とされるが、土地を分筆すると使いにくくなったり価値が下がったりすることがあり、建物は通常分けられない。
② 代償分割。 一人(または数人)が不動産を取得し、その代わりに、ほかの相続人へお金(代償金)を払う方法。実家に住み続けたい相続人がいるときに選ばれやすい。代償金の額は、不動産の評価額と各相続人の取り分から計算されるので、評価額が上がるほど払う額が増える。
③ 換価分割。 不動産を売って、売却代金から費用を引いた残りを分ける方法。売り方には、相続人全員の合意による任意売却のほか、家庭裁判所の命令による競売や、一定の要件の下での任意売却がある(後述)。競売は一般に任意売却より安くなりやすいと説明されている。
④ 共有分割。 遺産分割で、不動産を相続人の共有とすることに決める方法(遺産分割をしないまま法定相続分で共有の登記をしただけの状態とは違い、その場合はまだ遺産分割が必要である)。共有になると、不動産全体を売る・建て替えるといった行為には原則として共有者全員の同意が要る(民法251条1項)。一定の期間を超えない賃貸などは、持分の価格の過半数で決められる場合がある(民法252条1項・4項)。自分の持分だけを売ることはできるが、新たな紛争の種になりやすい。共有者の一人が亡くなるとさらに相続人が増え、関係が複雑になりやすい。共有をやめるには、改めて共有物の分割(話し合い、まとまらなければ裁判。民法256条・258条)が必要になる。
① 方法は自由。 相続人全員が合意すれば、どの方法でもよい(遺言で分割が禁じられている場合などを除く。民法907条1項・908条)。たとえば「長男が実家を取得し、代償金を3年の分割で払う」「売却して経費を引いた残りを法定相続分で分ける」なども決められる。法定相続分と違う割合でもよい。
② 全員の参加が必要。 遺産分割協議は相続人全員でしなければならない(遺言で財産の一定割合をもらった包括受遺者も、相続人と同じ立場で加わる。民法990条。相続放棄をした人は加わらない)。認知症などで判断能力が十分でない相続人や未成年の相続人がいるときは、別の手続が要る(「遺産分割|認知症の相続人がいる場合の進め方」「遺産分割|未成年の相続人と特別代理人の選任」のスレッドを参照)。
③ 協議書の役割。 遺産分割協議は、法律上は書面がなくても成立しうるが、内容を明確にし、登記や預金の手続に使うため、協議書を作るのが通常である。署名の前だけでなく、最終的な合意を相手に伝える前に内容を確かめる。
④ 協議書に書くこと。 代償分割なら、代償金の額・支払期限・支払方法(一括か分割か)・支払が遅れたときの扱い・登記の時期を、換価分割なら、だれが売却の窓口になるか(登記名義をだれにするか)・最低売却価格や売却期限・売却費用や税金の負担・代金の分け方を、具体的に書く。書き方の全体は「遺産分割協議書|押印の前に確かめる7つの点」のスレッドを参照。
実務の視点 代償金が払われなくても、それを理由に遺産分割協議を解除して不動産を取り戻すことはできないとした判例がある(最高裁平成元年2月9日判決・民集43巻2号1頁)。そのため、代償分割で「先に登記、代償金は後払い」にすると、払ってもらえないときに困る。代償金の支払と所有権移転登記を同時にする(または支払を確認してから登記の書類を渡す)段取りが安全である。分割払にするなら、遅れた場合に残りを一括で払う約束(期限の利益の喪失)を書き、必要に応じて担保の設定や、強制執行ができる公正証書にすることも考える。代償金を払う人が住宅ローンを組む場合は、金融機関の審査の時間も見込む。
話し合いがまとまらないときは、通常は家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立て、まとまらなければ審判で分け方が決まる。最初から審判を申し立てることもできるが、家庭裁判所が調停に付すことがある(手続は「遺産分割調停|話し合いがまとまらないときの次の一手」のスレッドを参照)。
① 方法の選び方。 審判では、民法906条の事情(遺産の種類・性質、各相続人の年齢・職業・生活の状況など)を考えて方法が選ばれる。一般には、現物分割や代償分割をまず検討し、それが難しいときに換価分割、共有分割は最後の手段、という順に考えられていると説明されている。ただし、機械的な順番ではなく、事案ごとの判断である。
② 代償分割の条件。 審判で代償分割をするには「特別の事情」が必要である(家事事件手続法195条)。現物分割が不可能または相当でない事情に加えて、取得する人に代償金を支払う能力があることが求められる。最高裁も、債務を負担させる方法で分割するには、その相続人に支払能力があることを要するとして、支払能力の審理を尽くさせるため事件を差し戻している(最高裁平成12年9月7日決定・家月54巻6号66頁。当時の家事審判規則109条についての判断で、現在は家事事件手続法195条に引き継がれている)。審判では、預金残高や融資の見込みの資料などで支払能力を示すことになる。支払能力が示せないと、代償分割は認められにくい。
③ 換価の命令。 家庭裁判所は、審判をするために必要なとき、相続人に競売を命じたり、相当と認めるときは任意売却を命じたりすることができる(家事事件手続法194条1項・2項)。任意売却を命じるには相続人の意見を聴く必要があり、相続人の中に競売によるべきだと言う人がいれば任意売却は命じられない(同条2項ただし書)。換価を命じる裁判に対しては、相続人は即時抗告ができる(同条5項)。
④ 共有分割の扱い。 審判で共有分割が選ばれることもあるが、紛争の先送りになるため、ほかの方法がとれないときに限るべきだと説明されている。
① 何を基準にするか。 遺産を実際に分けるための不動産の価値は、原則として分割する時点の時価(実際に取引される価格)とされる。特別受益などを反映した各相続人の取り分(具体的相続分)を計算する場面では、相続開始の時の価額が基準になるとされ、目的によって基準の時点が違う。固定資産税評価額や相続税の路線価は、時価そのものではなく、時価を推し量る材料の一つとして使われる。
② 評価で合意できないとき。 相続人全員が評価額に合意すれば、その額で分けられる。合意できないときは、不動産業者の査定書を出し合って調整したり、家庭裁判所の手続で不動産鑑定士の鑑定をしたりする。鑑定には費用がかかり、だれが負担するかも問題になる。
③ 評価は取り分を左右する。 代償分割では、不動産を高く評価すれば取得する人の払う代償金が増え、低く評価すれば減る。住み続けたい人と、お金を受け取る人とで、評価の利害が逆になる。
実務の視点 評価で争いになりそうなときは、早い段階で複数の不動産業者の査定(無料のものも多い)を取り、根拠(近くの取引事例など)を比べる。固定資産税の評価証明書・登記事項証明書をそろえ、分筆や境界の確認が必要なら公図・測量図も集める。建物の古さ、借地上の建物であること、借家人がいること、境界がはっきりしないことなどは、評価額や売りやすさに影響することがあるので、早めに把握する。
① 相続税。 相続税の申告が必要な場合は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告しなければならない(相続税法27条1項)。遺産分割や売却が終わっていなくても、この期限は延びない。代償分割では、代償金を払った人と受け取った人の課税価格を調整する扱いがある。相続税の不動産評価(路線価など)と、遺産分割で合意した時価とは別物である。
② 売った場合の所得税。 換価分割で不動産を売ると、売った利益に譲渡所得の課税(所得税・住民税)がかかることがある。だれがいくら申告するかは、登記の名義だけでなく、協議の内容や代金がだれに帰属するかで判断される。
③ 代償にほかの財産を渡す場合。 代償金の代わりに、取得した人がもともと持っていた不動産などを渡すと、渡した人がその財産を売ったものとして課税されることがある。
④ 登記の名義と贈与。 換価分割のつもりで一人の名義にして売り、代金を分けたのに、換価分割であることや代金の分け方の根拠がはっきりしないと、代金を分けた部分が贈与とみられるおそれがあると指摘されている。
税金の扱いは事案で大きく変わるので、相続税の申告が必要な場合や、売却・代償財産の移転を考える場合は、協議書に署名する前に税理士に確認する。
1. 相続人と遺産(不動産の登記事項証明書・固定資産税の評価証明書・預金残高など)を確かめる。
2. 不動産の時価の見当をつける(査定書など)。
3. だれが不動産を取得するか、売るかを話し合い、代償金の額と支払方法、売却の条件を決める。
4. 合意できたら遺産分割協議書を作り、相続人全員が署名し実印を押す(登記などの手続では印鑑証明書が求められる)。
5. 代償金の支払と登記、または売却と代金の分配をする。相続税の申告が必要なら、期限内に申告する。
6. 話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に遺産分割の調停(または審判)を申し立てる。調停が不成立なら審判で分け方が決まる。
① 「法定相続分どおりの共有にしておけば公平」とは限らない。 共有にすると、不動産全体を売る・建て替えるときに原則として全員の同意が要り(一定の賃貸などは持分の過半数で決められる場合がある)、将来の相続で共有者が増えていく。とりあえずの共有は、後の紛争の種になりやすい。
② 代償金は「払えるか」が大前提。 話し合いで高い代償金を約束しても、払えなければ紛争が再燃する。分割払にする場合は、払えなくなったときの扱いまで決めておく。
③ 相続登記の義務。 不動産を相続で取得した相続人は、自分のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければならない(不動産登記法76条の2第1項)。遺産分割がまとまっていなくても義務はなくならず、相続人申告登記などで対応する方法がある。ただし、法定相続分で登記した後や相続人申告登記をした後に、遺産分割でその分を超えて(または新たに)取得した人は、遺産分割の日から3年以内に登記を申請しなければならない(同法76条の2第2項・76条の3第4項)。改正前に開始した相続の扱いや例外は「相続登記|申請が義務になった後の注意点」のスレッドを参照。分け方が決まらないまま放置しない。
④ 相続開始から10年たつと。 相続開始から10年を過ぎた後にする遺産分割では、原則として、特別受益や寄与分による取り分の調整を主張できなくなる(民法904条の3本文)。ただし、10年を過ぎる前に家庭裁判所へ遺産分割を請求した場合などの例外があり(同条ただし書)、2023年4月1日より前に開始した相続には、施行から5年の猶予などの経過措置がある(令和3年法律第24号附則3条)。相続人の間で話し合いを続けているだけでは、家庭裁判所への請求と同じ扱いにはならない。なお、10年は遺産分割そのものができなくなる期限ではなく、10年を過ぎても、相続人全員が合意すれば特別受益や寄与分を考えて分けることはできる。また、亡くなった人が第三者と共有していた不動産の持分のように、通常の共有と遺産の共有が重なっている場合には、相続開始から10年を過ぎると、その持分も共有物の分割の手続でまとめて分けられるようになる(民法258条の2第2項本文)。これには、相続人が遺産分割の請求をしたうえで、裁判所から共有物分割の請求があった旨の通知を受けた日から2か月以内に異議を申し出れば、遺産分割で分ける例外がある(同項ただし書・3項)。裁判所から書類が届いたら、すぐに相談する。
・代償分割の「特別の事情」と支払能力の程度。 どれくらいの資力や資料があれば支払能力ありとされるか、分割払でもよいか、どの程度の期間までなら許されるかは、事案ごとの判断で、一律の基準はない。
・どの方法を選ぶか。 住み続けたい相続人の生活の必要と、ほかの相続人の「お金で受け取りたい」という希望のどちらを重く見るかは、家族の事情や遺産の構成で結論が変わる。
・評価の方法と金額。 基準の時点(分割時・相続開始時)は目的によって決まるが、その時点の価額を査定と鑑定のどちらで、どの資料から決めるかは争いになりやすく、結論が大きく変わる。
これらは一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・不動産の評価額で相続人の意見が分かれている
・住み続けたい相続人がいるが、代償金を払えるか分からない
・共有にするよう求められている、または共有のまま長く放置されている
・換価分割で、だれの名義で売るか、費用や税金の負担をどうするかで揉めている
・相続税の申告が必要になりそう、または代償に不動産などを渡すことを考えている
・遺言の内容、住宅ローン・抵当権、遺産に入るかどうか(名義と実際の持ち主の違いなど)に不明点がある
・相続開始から10年が近い、または裁判所から共有物分割の書類が届いた
・調停・審判で分け方を争うことになった
遺産分割の最終的な合意をする前、とくに代償金の額や評価額を決める前に相談するのがよい。相続税の申告が必要な場合は10か月の申告期限があるので、早めに税理士とも相談する。
不動産の分け方には、現物・代償・換価・共有の4つがあり、話し合いなら自由に組み合わせられる。審判では家庭裁判所が事情を考えて選び、代償分割には支払能力が求められる。どの方法でも、評価額と税金で結果が大きく変わるので、署名の前に確かめたい。
出典
民法251条1項・252条1項・4項・256条・258条・258条の2・904条の3・906条〜908条・990条/家事事件手続法194条・195条/相続税法27条1項/不動産登記法76条の2・76条の3第4項/民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則3条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/最高裁平成元年2月9日判決(民集43巻2号1頁)/最高裁平成12年9月7日決定(家月54巻6号66頁)