問題提起
家族や職場に知られたくない、相談するほどのことか分からない――名前を伏せて相談したいと考える人は少なくない。匿名で相談できる窓口もあるが、匿名のままでは受けられる助言に限りがある。なぜ弁護士が名前を確かめるのかを知っておくと、窓口を選びやすくなる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
家族や職場に知られたくない、相談するほどのことか分からない――名前を伏せて相談したいと考える人は少なくない。匿名で相談できる窓口もあるが、匿名のままでは受けられる助言に限りがある。なぜ弁護士が名前を確かめるのかを知っておくと、窓口を選びやすくなる。
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
(以下略)弁護士法25条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。弁護士法23条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 一般的な説明は匿名でも受けられることがある。 制度の案内、相談先の紹介、手続のあらましの説明などは、名前を伏せたままでも受けられる窓口がある。匿名で具体的な事情を聞く電話相談もある。窓口が匿名で受け付けるかどうか、どこまで相談できるかは、各窓口の案内で確かめる。
② 個別の相談では名前を尋ねられることが多い。 弁護士は、相手方から先に相談を受けて賛助した事件など、職務を行ってはならない事件を定めた規律に従わなければならない(弁護士法25条、弁護士職務基本規程27条・28条)。そのため、弁護士が個別の事情に踏み込んで相談に乗る前に、相談者や相手方の名前などを尋ねることが多い。法律がすべての相談で実名の確認を求めているわけではなく、確かめる時期や方法は相談の内容や窓口によって違う。
③ 事件の依頼では正確な情報が必要である。 事件を依頼するときは、弁護士は、依頼者の氏名・住所や依頼の意思などを確かめるのが通常である。これとは別に、日本弁護士連合会の「依頼者の本人特定事項等の確認及び記録保存等に関する規程」は、依頼者の金融機関の口座を管理するときや、依頼者のために合計200万円以上の金銭などの資産を預かる・管理するとき、不動産の売買などの取引の準備・実行をするときなどに、本人確認書類などによる本人特定事項の確認を求めている(裁判所の手続での和解金の受領などの例外がある)。
④ 法テラスの民事法律扶助の無料法律相談では資力の確認がある。 法テラスの民事法律扶助による無料法律相談は、収入と資産が一定の基準以下の人などが対象で、公式サイトは、予約のときに収入(平均月収)や資産(現金・預貯金)を聞くと案内している(2026年10月20日確認)。この無料法律相談は名前を伏せたまま利用する制度ではなく、申込みのときに氏名なども伝える必要がある。法テラスが電話などで制度や相談窓口を案内する情報提供は、この無料法律相談とは別である。
⑤ 秘密は守られる。 弁護士は職務上知り得た秘密を保持する義務を負い(弁護士法23条)、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、または利用してはならない(弁護士職務基本規程23条)。依頼に至らなかった相談で弁護士が職務上知り得た秘密も、弁護士法23条の義務の対象になる。ただし、守秘義務があることと、交渉や裁判で相手方に名前などが一切知られないことは別である。民事訴訟には、申立て等をする人の住所や氏名などが当事者に知られることで社会生活を営むのに著しい支障を生じるおそれがある場合に、裁判所がそれを秘匿する決定をする制度がある(民事訴訟法133条)。このおそれについて疎明(一応確からしいことを示すこと)をして申し立てる必要があるので、身の危険があるときは、裁判所に書類を出す前に弁護士に相談する。
1. 制度の案内や相談先の紹介を受けたいときは、匿名で受け付ける電話の窓口などを使う。
2. 個別の助言が必要になったら、名前と相手方の名前(分からなければ分からないこと)を伝えて、弁護士の法律相談を予約する。
3. 依頼すると決めたら、委任契約の内容を確かめ、求められた本人確認書類を用意する。
実務の視点 名前を伝えたくない理由が「家族や職場に知られたくない」ことであれば、その希望を弁護士に伝えると、連絡の方法(電話の時間帯、郵便を送らない、メールだけにするなど)を相談できる。家族などに相談を知られると身の危険があるときは、詳しい内容を送る前に、安全な連絡先や時間帯、郵便の扱いを伝える。ただし、裁判所などから届く書類まで、すべて思いどおりにできるとは限らない。
① 相手方の名前を確かめるのは相談者のためでもある。 相手方から先に相談を受けていた弁護士は、その相談の内容や程度によっては、相談者の相談や依頼に応じられないことがある(弁護士法25条1号・2号)。先に相談を受けたというだけで必ず応じられなくなるわけではないが、後で分かると相談をやり直すことになる。同じ事務所の別の弁護士についても、応じられるか確かめが必要な場合がある。
② 匿名の相談で受けた説明には限りがある。 名前や事情を伏せたままでは、一般的な説明にとどまることが多い。重要な判断は、事情を伝えて個別の相談を受けてからにする。
③ 依頼するときは正確な情報を伝える。 身元を偽ったり、他人になりすましたりしてはいけない。通称や旧姓を使いたいときは、本人の確認や契約書への書き方を弁護士に相談する。
議論のある点 匿名のままどこまで相談に応じられるか、相談の段階でどこまで名前を確かめるかは、相談の内容や窓口の運用によって違う。相談を受けた弁護士が、後に相手方の依頼を受けられなくなるのはどのような場合か(賛助したといえるか、協議の程度・方法が信頼関係に基づくといえるか)も、事情によって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・家族や職場に知られずに、離婚や借金などの相談をしたい
・家族などに相談を知られると、身の危険がある
・相手方が、相談しようとしている弁護士と知り合いかもしれない
・匿名の窓口で一般的な説明を受けたが、自分の場合に当てはまるか分からない
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
匿名で相談するかどうかを迷って、相談が遅れるのは避ける。相談の予約や法律相談をしただけでは、時効や裁判の期限は止まらない。期限がありそうなときは、連絡の方法の希望を伝えたうえで、早めに個別の相談を受ける。
一般的な説明は匿名で受けられる窓口もあるが、個別の相談では、職務を行ってはならない事件に当たらないかを確かめるため、相談者や相手方の名前を尋ねられることが多い(弁護士法25条、弁護士職務基本規程27条・28条)。依頼のときは正確な情報を伝え、本人確認もある。弁護士には秘密を保持する義務がある(弁護士法23条)が、交渉や裁判で相手方に名前が知られることはある。
出典
弁護士法23条・25条、民事訴訟法133条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-20)
弁護士職務基本規程23条・27条・28条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)
依頼者の本人特定事項等の確認及び記録保存等に関する規程2条(日本弁護士連合会会規第95号)・同規則2条
日本司法支援センター(法テラス)公式サイト「無料法律相談のご利用の流れ」(2026-10-20確認)