問題提起
法律相談では、聞き慣れない言葉や手続の説明が短い時間に続く。家に帰ってから「何と言われたか思い出せない」ということは珍しくない。録音しておけば聞き直せるが、黙って録音してよいのか、断られたらどうするのか、録音をどう扱えばよいのかは、あまり知られていない。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
法律相談では、聞き慣れない言葉や手続の説明が短い時間に続く。家に帰ってから「何と言われたか思い出せない」ということは珍しくない。録音しておけば聞き直せるが、黙って録音してよいのか、断られたらどうするのか、録音をどう扱えばよいのかは、あまり知られていない。
弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。弁護士法23条(e-Gov法令検索で原文確認)
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律8条2項(e-Gov法令検索で原文確認)
相談者が自分の参加する法律相談を録音することについて、相手の同意がないという理由だけで一律に禁止する法律の規定はない。弁護士が相談で知った秘密を守る義務を負うこと(弁護士法23条)と、相談者が録音をどう扱ってよいかは、別の問題である。
① 録音する前に弁護士に尋ねる。 相談者が録音したいときは、録音を始める前に「後で聞き直すために録音してよいか」を弁護士に尋ねるのが通常である。録音の前に承諾を得ることを一律に求める法律の規定はないが、相談を円滑に進めるために勧められる。ただし、相談の申込みのときなどに録音をしないと約束していた場合は、その約束に反して録音すると約束違反の問題になることがある。弁護士は、録音を認めることもあれば、相談の記録の扱いや発言が切り取られて広まるおそれなどを理由に、録音を断ってメモをとるよう勧めることもある。どちらにするかは弁護士や相談窓口によって違う。
② 障害などで配慮が必要なときは、そのことを伝える。 法律事務所などの事業者は、障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合に、その実施に伴う負担が過重でないときは、必要かつ合理的な配慮をしなければならない(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律8条2項)。障害のために説明を理解したり覚えたり、メモをとったりすることが難しいときは、予約のときなどにそのことを伝え、録音、説明の書面化、説明の方法や時間の調整など、どのような対応ができるかを相談する。希望した方法が必ず認められるという意味ではなく、どのような配慮をするかは話し合って決まる。
③ 無断の録音が直ちに違法とは限らないが、問題になることもある。 民事裁判で無断の録音を証拠として使えるかについて、東京高等裁判所昭和52年7月15日判決(判例時報867号60頁)は、民事訴訟法に証拠能力を制限する規定がないことを前提に、話者の同意のない録音は話者の人格権の侵害となり得るから、録音の手段・方法が著しく反社会的と認められるかどうかを基準に判断すべきであるとし、その事件の録音(酒席の会話を隣室で録音したもの)は証拠として使えると判断した。ただし、裁判で証拠として扱えることと、その録音だけで主張する事実が認められることは別である。また、録音の状況や方法、その後の提供・公開の仕方によっては、録音が相手の人格権やプライバシーを侵害するとして責任が問題になることもある。
④ 録音の共有や公開は、場面を分けて考える。 録音した内容をインターネットに公開したり、関係のない人に広めたりすると、相談の中で話題になった相手方や家族、弁護士の名誉・プライバシーを傷つけるおそれが大きい。一方、別の弁護士に相談するために聞いてもらう、裁判に証拠として出す、弁護士会の相談窓口に示すなど、必要な範囲での提供が考えられる場面もある。提供するときは、目的、提供先、必要な範囲、第三者の秘密が含まれていないか、録音したときにどのような約束をしたかを確かめる。迷うときは、使う前に弁護士(相談した弁護士との争いであれば別の弁護士)に相談する。
⑤ 録音とは別に、記録を残す方法がある。 相談の終わりに、弁護士の説明の要点(結論、次にすること、期限、用意する資料)を確かめてメモにする。弁護士によっては、相談の要点を書面やメールでまとめてくれることもあるので、希望があれば尋ねる。
1. 相談の予約のときや相談の冒頭に、「説明を後で聞き直すために録音してよいか」を尋ねる。障害などで配慮が必要なときは、そのことも伝える。
2. 録音を認められたら、録音の使い道(聞き直すためなど)を確かめて録音する。断られたら、メモをとる時間をもらうか、要点を書面にしてもらえるか尋ねる。
3. 相談の終わりに、結論・次にすること・期限・用意する資料を口頭で確かめ、メモと照らし合わせる。
4. 家に帰ったら、録音やメモを聞き直して、分からない点を書き出し、次の相談や依頼のときに尋ねる。期限が迫っている事件では、次の相談を待たずに確かめる。
実務の視点 録音を聞き直すと、相談の場では気づかなかった疑問が見つかることが多い。疑問は「〇月〇日の相談で、△△と説明された点について」のように、日付と内容を添えて書き出しておくと、次の相談が短い時間で済む。録音のデータは編集せずに元のまま保存し、家族などが勝手に聞けない場所に保管する。
① 録音には、説明を確かめる役割と、経過を記録する役割がある。 法律相談の録音は、多くの場合、相談者が説明を正確に思い出すためのものである。ただし、弁護士との間で説明の内容や対応について争いが生じたときに、録音が事実を確かめる手がかりになることもある。その場合は、別の弁護士や弁護士会の相談窓口に相談することも考えられる。
② 相手方との会話の録音とは別の問題である。 相手方とのやり取りを録音した記録をどう証拠として使うかは、事件の中身に関わる問題である。録音の方法や内容によって扱いが変わるので、録音した記録を持っていることを弁護士に伝えて相談する。
③ 弁護士の守秘義務は、相談者が録音を公開してよい理由にはならない。 弁護士が秘密を守る義務を負うこと(弁護士法23条)と、相談者が録音をどう扱ってよいかは別である。
議論のある点 当事者の一方による無断の録音が、どのような場合に相手の人格権やプライバシーを侵害する不法行為になるか、また民事裁判でどのような場合に証拠として使えなくなるかは、録音の目的・方法・場所・会話の内容などの事情によって判断が分かれる。上の東京高等裁判所の判決は「録音の手段・方法が著しく反社会的か」を基準にしたが、ほかの事情を重視する裁判例もある。録音をどこまで第三者に提供してよいかも、提供先と目的によって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・相手方や勤務先などとの会話を録音した記録があり、裁判や交渉で使えるか知りたい
・録音の内容を家族や第三者に見せたい、インターネットに載せたいと考えている
・相談した弁護士の説明や対応について争いがあり、録音を別の弁護士や弁護士会に示して相談したい
・障害などのため、説明を覚えたりメモをとったりすることが難しい
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
録音の可否や必要な配慮は、相談の予約のときか、相談の冒頭に伝える。相談の途中で黙って録音を始めることは避ける。録音した記録を証拠として使ったり第三者に提供したりする予定があるときは、使う前に弁護士に相談する。
法律相談を録音したいときは、始める前に弁護士に尋ねるのが基本であり、障害などで配慮が必要なときはそのことを伝える。無断の録音を一律に禁止する規定はないが、録音の方法や状況によっては人格権やプライバシーの侵害が問題になる。録音の公開は名誉・プライバシーを傷つけるおそれが大きく、別の弁護士への相談や裁判への提出など必要な範囲での提供とは分けて考え、迷うときは弁護士に相談する。
出典
弁護士法23条、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律8条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-20)
東京高等裁判所昭和52年7月15日判決(判例時報867号60頁、判例タイムズ362号241頁)