問題提起
借金の一部を別のことに使ってしまった、相手に強い言葉を送ってしまった、契約書をよく読まずに署名した――自分に不利な事情は、弁護士にも話しにくい。話したら依頼を断られるのではないか、相手に知られるのではないかと心配になることもある。しかし、不利な事情ほど、早く弁護士に伝えておくことが大切である。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
借金の一部を別のことに使ってしまった、相手に強い言葉を送ってしまった、契約書をよく読まずに署名した――自分に不利な事情は、弁護士にも話しにくい。話したら依頼を断られるのではないか、相手に知られるのではないかと心配になることもある。しかし、不利な事情ほど、早く弁護士に伝えておくことが大切である。
弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。弁護士法23条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。弁護士職務基本規程23条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければならない。弁護士職務基本規程29条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
① 秘密は守られる。 弁護士は、職務上知り得た秘密を保持する義務を負う(弁護士法23条)。正当な理由なく、依頼者の秘密を他に漏らしたり利用したりしてはならない(弁護士職務基本規程23条)。相談しただけで依頼しなかった場合も、弁護士が職務上知り得た秘密であれば、弁護士法23条の義務の対象になる。
② 裁判所でも証言を拒める場合がある。 弁護士は、民事の裁判で証人として尋問を受けても、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについては、証言を拒むことができる(民事訴訟法197条1項2号)。刑事の手続でも、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについて証言を拒むことができ(刑事訴訟法149条)、業務上委託を受けて保管・所持する物で他人の秘密に関するものについて押収を拒むことができる(刑事訴訟法105条)。ただし、いずれも法律の要件を満たす場合に認められるもので、例外がある(本人が承諾した場合など)。弁護士に相談しただけで、関連する事実や資料がすべて証拠として使われなくなるわけではない。たとえば相手方がすでに持っているメッセージは、相談したことで保護されるわけではない。
③ 見通しは伝わった情報と資料に基づく。 弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づいて見通しや処理の方法を説明する(弁護士職務基本規程29条1項)。弁護士は、資料や相手方の主張、調査の結果なども使って判断するが、依頼者が知っている不利な事情が伝わっていなければ、それを見落とした見通しになるおそれがある。
④ 弁護士はうそに加担しない。 弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行う(弁護士職務基本規程5条)。弁護士は、偽証もしくは虚偽の陳述をそそのかし、または虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない(同規程75条)。ただし、うそや虚偽の証拠に加担しないことと、不利な事実をすべて相手方・裁判所・捜査機関に自分から明かすことは別である。弁護士は、秘密を保持しつつ、法令と職務上の義務に沿った主張や解決の方法を考える。
1. 相談の前に、不利だと思う事情も時系列メモに書いておく。
2. 相談の場で、「言いにくいことがある」と前置きして伝えてよい。
3. 弁護士から、その事情がどの程度影響するか、どう対応すればよいかの説明を受ける。
4. 不利な事情を裏づける資料(相手方に送ったメッセージなど)があれば、それも見せる。不利に見える資料も、自分の判断で消したり書き換えたりせず、元の状態や前後のやり取りが分かる形で残しておく。
実務の視点 相手方が持っている証拠は、こちらの思いどおりには消せない。たとえば相談者が相手方に送ったメッセージは、相手方の手元に残っている。弁護士は、相手方がその事情を持ち出してくることを前提に、主張の組み立てや和解の条件を考える。早く知っていれば、それだけ対応の幅が広がる。
① 相談しただけで依頼を断られるとは限らない。 不利な事情があることだけで依頼を断られるわけではない。もっとも、依頼の目的や事件処理の方法が明らかに不当な事件は、弁護士が受任してはならない(弁護士職務基本規程31条)。
② 秘密の保持にも例外がある。 弁護士法23条は「法律に別段の定めがある場合」を除外している。弁護士職務基本規程23条も「正当な理由」がある場合を除外している。どのような場合が例外に当たるかは、事情によって判断される。
③ 刑事事件のことも話してよい。 刑事事件の疑いをかけられている事情も、弁護士には話してよい。黙秘権などの権利をどう使うかも含めて、弁護士と相談する。
④ 話しそびれたら、その時点で伝える。 最初の相談で話しそびれたこと、後から思い出したこと、前の説明の誤りに気づいたことは、気づいた時点で速やかに弁護士に伝える。すでに相手方や裁判所に説明・提出した内容がある場合は、訂正が必要か、どう訂正するかを弁護士と相談する。
議論のある点 弁護士の秘密保持の義務がどこまで及ぶか(「正当な理由」がある場合の範囲)、相談者が弁護士に話したことや渡した資料が後の手続でどう扱われるかは、事案や手続の種類、資料のある場所や取得の方法によって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・自分にも落ち度があり、責任を問われるおそれがある
・相手方に送ったメッセージや自分の行動が、不利な証拠になりそうだ
・刑事事件になるおそれがある
・以前に相手方や裁判所に説明した内容に、誤りがあったと気づいた
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
不利な事情は、できる限り最初の相談で伝える。後から伝えると、それまでの方針や主張を変えなければならないことがある。すでに相手方や裁判所に説明した内容を変えると、説明の信用性が問題になることもある。相談の予約や法律相談をしただけでは、時効や裁判の期限は止まらない。
弁護士は職務上知り得た秘密を保持する義務を負う(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)。見通しは依頼者から得た情報に基づいて説明されるので(同規程29条1項)、不利な事情が伝わっていないと見通しを誤るおそれがある。弁護士はうそに加担しない(同規程75条)が、不利な事情を自分から外部に明かさなければならないわけでもない。不利な事情を早く伝え、それを踏まえた対応を弁護士と考える。
出典
弁護士法23条、民事訴訟法197条、刑事訴訟法105条・149条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-20)
弁護士職務基本規程5条・23条・29条・31条・75条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)