問題提起
高齢の親の相談に子が付き添う、配偶者と一緒に相談する、法律の話が不安なので家族に来てもらう――家族の同席は心強い。一方で、家族が話を進めてしまい、本人の意思がはっきりしないまま相談が終わることもある。家族と一緒に相談するときに気をつけたい点を知っておきたい。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
高齢の親の相談に子が付き添う、配偶者と一緒に相談する、法律の話が不安なので家族に来てもらう――家族の同席は心強い。一方で、家族が話を進めてしまい、本人の意思がはっきりしないまま相談が終わることもある。家族と一緒に相談するときに気をつけたい点を知っておきたい。
弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする。
2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努める。弁護士職務基本規程22条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。
(略)
三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件弁護士職務基本規程28条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。弁護士法23条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 誰が、誰の問題を、どの立場で相談するか。 問題になっている権利や義務を持つ人(たとえば親の財産の問題なら親)、相談を受ける人、弁護士に依頼する人、本人の代理として行動する人、費用を負担する人は、同じとは限らない。家族が、自分の立場(たとえば介護をしている子としてどうすればよいか)について相談することもできる。家族が本人の代わりに依頼したり方針を決めたりするには、本人からの委任や、成年後見人などの法律上の代理権が必要になり、家族であることや費用を払うことだけでは足りない。代理人自身と本人の利益が相反する場合もある。たとえば成年後見人と本人が共同相続人として遺産分割をするときは、成年後見人は、後見監督人がいる場合を除き、本人のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(民法860条・826条)。
② 本人の意思。 弁護士は、依頼者本人の意思を尊重し、本人の意思を確かめる(弁護士職務基本規程22条)。本人が話せる場合は、本人の言葉で事情や希望を伝えてもらう。話すことが難しい場合も、筆談や意思伝達の機器など適切な方法で、できる限り本人の意思を確かめる。
③ 利益相反のおそれ。 同席した家族と本人の利害が対立する可能性があるとき、家族の複数の人が同じ弁護士に依頼したいときは、弁護士が全員の代理をできないことがある(弁護士職務基本規程28条3号。依頼者全員の同意がある場合の例外もある)。ただし、同意があれば常に引き受けられるわけではなく、弁護士法25条や弁護士職務基本規程27条が禁止する事件にも当たらないことが必要である。同じ事件で複数の依頼者の間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、弁護士は、受任に当たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない(同規程32条)。受任した後に依頼者の間で現実に利害の対立が生じたときは、弁護士は、依頼者それぞれに対し、速やかに事情を告げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければならない(同規程42条)。
④ 本人の判断能力。 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とされる(民法3条の2)。意思能力があるかどうかは、個々の行為ごとに、その時点で判断される。認知症の診断があることだけで、すべての行為が無効になるわけではない。本人の判断能力に不安があるときは、成年後見などの制度を含めて相談する。
1. 相談の予約のときに、本人と家族の誰が同席するかを伝え、同席できるかを確かめる。
2. 相談の冒頭で、誰の問題の相談かを伝え、本人が事情と希望を話す。家族は、本人の説明を補う。
3. 本人だけで話したいことがあれば、弁護士に伝えて、家族に席を外してもらう時間をつくる。弁護士の側から、本人だけで話す時間を設けることもある。
4. 依頼するときは、誰が依頼者になるのか、家族が代理として関わるのか、費用を誰が負担するのかを区別して確かめ、委任契約書の内容もそれに合わせる。相談の後の連絡先、書類の送り先、家族に報告してよいかも確かめておく。
実務の視点 家族が「本人の代わりに」話を進めると、後で本人が「そんなつもりはなかった」と言い出し、方針が揺らぐことがある。弁護士は、依頼を受ける前や重要な決定の前に、本人と直接話して意思を確かめることが多い。借金の整理(債務整理事件)のように、受任する弁護士が債務者と自ら面談することが日本弁護士連合会の規程で求められている事件もある(債務整理事件処理の規律を定める規程3条1項)。家族は、本人が話しやすいように手助けする役割と考えるとよい。
① 家族だけの相談には限界がある。 本人が来られず家族だけで相談することもあるが、本人の事情や希望を直接確かめられないので、一般的な説明にとどまることがある。本人の事件を依頼するときは、原則として本人の意思の確認が必要になる。
② 家族でも利害が対立することがある。 相続の相談で、兄弟姉妹の一人が付き添う場合、その兄弟姉妹も相続人であれば、遺産の分け方について利害が対立することがある。
③ 家族に話した秘密は家族から広がることがある。 弁護士は秘密を保持する義務を負う(弁護士法23条)が、同席した家族は、家族として同席しただけでは同じ義務を負わない。一度家族に聞かれた事情が家族から広がるのを、弁護士が防ぐことはできない。家族に知られたくない事情は、同席の前や、本人だけで話す時間に伝える。
④ 家族の前では話せない事情があるとき。 家族が本人に代わって答え続ける、本人が家族を恐れて話せない、財産の使い込みや虐待が疑われるといった場合は、家族の前で「席を外してほしい」と言うこと自体が難しい。予約のときなどに、安全な方法で相談先に事情を伝える。養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人は、その高齢者の生命または身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに市町村に通報しなければならず、それ以外の場合も通報するよう努めなければならない(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律7条1項・2項)。差し迫った危険があるときは、警察(110番)や救急(119番)への連絡を優先する。
議論のある点 本人の意思をどのような方法で確かめるべきか、家族の間の具体的な事情がどの禁止規定に当たり、どのような措置をとるべきか、本人の判断能力が低下している場合にどう進めるかは、事情によって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・本人の判断能力に不安がある(認知症の疑いなど)
・家族の間で、相続や介護、お金の扱いについて意見が分かれている
・本人が相談に来られず、家族が代わりに手続を進めたい
・家族による財産の使い込みや、本人への威圧・虐待が疑われる
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
家族と一緒に相談するかどうかを決めるのに時間をかけすぎない。相談の予約や法律相談をしただけでは、時効や裁判の期限は止まらない。期限がありそうなときは、まず本人か家族のどちらかが早めに相談し、同席の仕方は相談の中で相談する。
家族の同席は多くの窓口でできるが、誰が誰の問題を相談し誰が依頼者になるのかを区別し、弁護士は本人の意思を確かめる(弁護士職務基本規程22条)。家族の利害が対立するおそれがあると、一人の弁護士が複数の家族の代理をできないことがある(同規程28条3号・32条・42条)。家族には弁護士と同じ守秘義務はないので、知られたくないことは本人だけで話す時間に伝える(弁護士法23条)。
出典
弁護士法23条・25条、民法3条の2・826条・860条、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律7条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-20)
弁護士職務基本規程22条・27条・28条・32条・42条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)
債務整理事件処理の規律を定める規程3条(日本弁護士連合会会規第93号)