問題提起
弁護士に依頼すると、実費の見込み額を預けたり、相手方から支払われた和解金を弁護士がいったん受け取ったりすることがある。弁護士に預けたお金や、弁護士が受け取ったお金は、どのように管理されるのか。なお、実費の見込み額として預けたお金や、依頼者のために相手方から受け取った和解金などの預り金と、報酬として支払った着手金などとは区別される。どちらに当たるかは名前だけでなく契約の内容による。依頼者として何を確かめればよいのか。預り金の決まりを知っておくと、安心してお金を預けられる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
弁護士に依頼すると、実費の見込み額を預けたり、相手方から支払われた和解金を弁護士がいったん受け取ったりすることがある。弁護士に預けたお金や、弁護士が受け取ったお金は、どのように管理されるのか。なお、実費の見込み額として預けたお金や、依頼者のために相手方から受け取った和解金などの預り金と、報酬として支払った着手金などとは区別される。どちらに当たるかは名前だけでなく契約の内容による。依頼者として何を確かめればよいのか。預り金の決まりを知っておくと、安心してお金を預けられる。
受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。民法646条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関係人から金員を預かったときは、自己の金員と区別し、預り金であることを明確にする方法で保管し、その状況を記録しなければならない。弁護士職務基本規程38条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金銭を清算したうえ、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければならない。弁護士職務基本規程45条(e-Gov法令検索で原文確認)
日本弁護士連合会の「預り金等の取扱いに関する規程」2条は、弁護士は預り金を預かり保管した目的以外に使用してはならないと定めている。
① 目的外の使用の禁止。 弁護士は、預り金を、預かった目的以外に使ってはならない(預り金等の取扱いに関する規程2条)。
② 預り金口座。 弁護士は、預り金だけを管理する専用の口座(預り金口座)を金融機関に開設しなければならない(同規程3条1項。職務を行っていない場合などの例外がある)。口座の名義には、原則として「預り金」「預り口」など預り金口座であることを示す文字を使う(同条3項)。
③ 保管の方法。 弁護士は、預り金を自分の金員と区別し、預り金であることを明確にする方法で保管しなければならない(同規程4条1項)。1つの事件または1人の依頼者について預り金の総額が50万円以上になり、それを14営業日以上保管するときは、そのうち50万円以上の額を預り金口座で保管しなければならない(同条2項)。
④ 通知と預り証。 弁護士は、依頼者のために相手方などから預り金を受け取ったときは、遅滞なく依頼者にその旨を通知しなければならない(同規程5条)。依頼者から預り金を受け取ったときは、預り証を発行しなければならない。ただし、口座振込みで受け取った場合は、依頼者の請求があったときに限られる(同規程6条)。
⑤ 記録と収支報告。 弁護士は、入出金の年月日・金額、入金の目的、出金の使途を記録し、職務が終わった後3年間保存しなければならない(同規程7条)。依頼者の請求があったときと、職務が終了したときは、入出金の概要を書いた書面で収支を報告しなければならない(同規程8条)。
1. 受任のとき、弁護士が、預り金の目的(実費の預かりなど)と精算の方法を説明する。
2. 依頼者が預り金を預け、預り証を受け取る(振込みの場合は、必要に応じて預り証を請求する)。
3. 相手方から和解金などが支払われたときは、弁護士が依頼者にその旨を知らせる。
4. 事件が終わったら、弁護士が収支の内訳を示し、委任契約に従って報酬や実費を清算したうえで、残りを依頼者に返す。
実務の視点 預り証、振込みの控え、弁護士からの収支報告書を、委任契約書と一緒に保管しておくとよい。相手方から和解金が入ったと知らされたときは、いつ、いくら、どの口座に返してもらえるのか、報酬をどのように差し引くのかを、その時点で書面やメールで確かめておくと行き違いを防げる。
① 報酬の差引きには根拠と要件がある。 相手方から受け取ったお金から報酬や実費を差し引いて返す扱いは、委任契約書の定めに従って行われる。差し引かれる額と根拠を確かめる。
② 利息の扱い。 受任者は、受け取った金銭から収取した果実も委任者に引き渡さなければならない(民法646条1項後段)。弁護士が引き渡すべき金銭を自分のために使ったときは、使った日以後の利息を支払わなければならず、なお損害があれば賠償しなければならない(民法647条)。
③ 返してもらえないときは相談先がある(時効と期間制限に注意)。 弁護士会は、預り金を返さないことを理由とする懲戒の請求や紛議調停の申立てがあったときなどに、弁護士に預り金の保管状況を照会し、調査できるとされている(預り金等の取扱いに関する規程9条)。ただし、懲戒の請求や紛議調停は、それだけで返還を強制する手続ではない。返還を求める訴えなどを検討する場合もある。これらの手続を使っている間も、返還を求める権利の時効は進むことがある(債権は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で時効によって消滅する〔民法166条1項〕。具体的な起算点は事情による)。懲戒の手続は、懲戒の事由があった時から3年を経過すると開始できない(弁護士法63条)。
④ 弁護士の名前をかたる詐欺に注意する。 弁護士を名乗る者から、身に覚えのない預り金や供託金の振込みを求められたら、弁護士会の名簿などでその弁護士が実在するかを確かめ、すぐに振り込まない。実在する弁護士の名前をかたる例もあるので、名簿に載っている事務所の電話番号に自分で問い合わせて確かめる。振込先の変更の連絡にも注意する。
議論のある点 預り金から報酬を差し引く方法には、委任契約の定めに基づいて差し引く場合と、民法の相殺(民法505条)による場合とがある。どの範囲で差し引けるか、清算の内容に争いがある場合に弁護士が預り金の返還を留保できるかは、委任契約書の定めや報酬の争いの内容によって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・事件が終わったのに、預けたお金や相手方から支払われたお金を返してもらえない
・預り金の収支の内訳を示してもらえない
・相手方から支払われたことを、弁護士から知らされていなかった
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。預り金の返還などで弁護士と争いになったときは、所属弁護士会の紛議調停を使える場合もあります。
預り金を預けるときに、目的と精算の方法を確かめる。相手方から受け取ったお金をいつ返してもらえるかは、預けた目的と契約による。事件の途中でも、委任事務の処理の状況の報告を求めることができる(民法645条)。返還や報告がないときは、まず弁護士に収支報告を求め、流用が疑われる、説明が食い違う、連絡が取れないといった場合は、待たずに早めに弁護士会などに相談する。返還を求める権利にも時効があるため、長く放置しない。
弁護士は、預り金を自分のお金と区別して保管し、記録しなければならない(弁護士職務基本規程38条)。日弁連の規程は、預り金口座、50万円以上を14営業日以上保管する場合の預り金口座での保管、預り証、依頼者への通知、記録、収支報告を定めている。弁護士は、委任の終了に当たって、清算のうえ預り金を遅滞なく返還しなければならない(弁護士職務基本規程45条)。
出典
民法166条・505条・645条・646条・647条、弁護士法63条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
弁護士職務基本規程38条・45条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)
預り金等の取扱いに関する規程2条〜9条(平成25年日本弁護士連合会会規第97号。令和7年6月13日改正後のもの)