問題提起
弁護士に「この件をお願いします」と頼んだとき、どこまでを頼んだことになるのだろうか。相手方との交渉がまとまらずに裁判になったとき、判決に不服があって控訴したいとき、勝った判決に相手方が従わずに強制執行が必要になったとき、それぞれ同じ弁護士が当然に続けて動いてくれるとは限らない。依頼の範囲を知っておくと、手続の節目で慌てずに済む。この記事は、民事事件(交渉・調停・民事訴訟など)を弁護士に依頼する場合を中心に説明する。刑事事件や家事事件、少額訴訟などでは、手続や不服申立ての方法が異なる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
弁護士に「この件をお願いします」と頼んだとき、どこまでを頼んだことになるのだろうか。相手方との交渉がまとまらずに裁判になったとき、判決に不服があって控訴したいとき、勝った判決に相手方が従わずに強制執行が必要になったとき、それぞれ同じ弁護士が当然に続けて動いてくれるとは限らない。依頼の範囲を知っておくと、手続の節目で慌てずに済む。この記事は、民事事件(交渉・調停・民事訴訟など)を弁護士に依頼する場合を中心に説明する。刑事事件や家事事件、少額訴訟などでは、手続や不服申立ての方法が異なる。
訴訟代理人は、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができる。
2 訴訟代理人は、次に掲げる事項については、特別の委任を受けなければならない。
一 反訴の提起
二 訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退
三 控訴、上告若しくは第三百十八条第一項の申立て又はこれらの取下げ
四 第三百六十条(第三百六十七条第二項、第三百七十八条第二項及び第三百八十一条の七第二項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意
五 代理人の選任民事訴訟法55条1項・2項(e-Gov法令検索で原文確認)
委任契約書については、日本弁護士連合会の「弁護士の報酬に関する規程」5条4項が、受任する法律事務の表示及び範囲を書かなければならないと定めている。
① 委任契約書の「受任する法律事務の表示及び範囲」。 依頼者と弁護士の間で、どの事件のどの手続を頼むのかは両者の合意で決まり、その内容はまず委任契約書の記載で確かめる。記載があいまいなときは、受任のときの説明やその後のやり取りも手がかりになる。
② 訴訟委任状。 訴訟では、依頼者が弁護士に訴訟代理権を与えた書面(訴訟委任状)を裁判所に出す。訴えの取下げ・和解・控訴など特別の委任が必要な事項は、委任状に書いて授権することが多い(民事訴訟法55条2項)。
③ 法律が定める訴訟代理権の範囲。 訴訟代理人は、委任を受けた事件について、強制執行・仮差押え・仮処分に関する訴訟行為や弁済の受領もできる(同条1項)。弁護士である訴訟代理人の代理権は、制限することができない(同条3項)。
④ 依頼者と弁護士の取決め。 法律上できる行為と、依頼者と弁護士の間でどこまでを依頼し報酬を払うかの取決めは、別に考える必要がある。
1. 依頼のとき、依頼者と弁護士が、委任契約書で「交渉」「調停」「第一審の訴訟」などの範囲を確かめる。
2. 交渉がまとまらず調停や訴訟に進むときは、範囲の外であれば、改めて委任契約を結ぶ(追加の着手金がかかることがある)。
3. 訴訟の中で和解の話が出たときは、弁護士が依頼者に内容を説明し、依頼者が和解するかどうかを決める。
4. 判決が出たら、弁護士が依頼者に判決の内容を説明し、依頼者が控訴するかどうかを決める。控訴を頼む場合は、期限内に控訴状を出すことを誰が担当するかと、控訴審の手続を誰に依頼するか(範囲と費用)を分けて確かめる(もとの契約の変更・追加で決めることもある)。控訴審の契約や費用の話をしている間も、控訴期間は進む。
5. 判決に相手方が従わないときは、強制執行を誰に頼むか、追加の費用がかかるかを確かめる。
実務の視点 委任契約書の範囲の欄に「第一審」とだけ書かれていると、控訴審や強制執行の扱いが分かりにくい。依頼のときに、「交渉がまとまらなかったら」「判決に不服があったら」「相手方が払わなかったら」の場合に、どうなるのか(追加の契約と費用がいるか)を弁護士に尋ね、答えをメモしておくとよい。
① 控訴には期限がある。 控訴は、判決書(電子判決書など)の送達を受けた日から2週間の不変期間内に提起しなければならない(民事訴訟法285条)。訴訟代理人がいる場合は、通常、代理人が送達を受けた日が基準になり、依頼者が判決の内容を知った日ではない。電子送達では、実際に判決を見た日ではなく、法律の定める時に送達の効力が生じる場合もある。期間の数え方にも決まりがある。期限を過ぎると原則として控訴できないが、当事者がその責めに帰することができない事由で不変期間を守れなかった場合に、その事由が消えた後1週間以内に限って追完できる(民事訴訟法97条1項。外国にいる当事者は2か月)、相手方が控訴した場合には自分の控訴期間が過ぎた後でも附帯控訴ができる(民事訴訟法293条1項)など、限られた例外がある。第一審だけを依頼していた場合も、判決の前に、控訴するかどうかを誰がいつまでに決めるかを確かめておく。
② 和解は依頼者が決める。 和解をするには特別の委任が必要で(民事訴訟法55条2項2号)、弁護士は委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うとされている(弁護士職務基本規程22条1項)。訴訟委任状で、あらかじめ和解の特別の委任をしていることも多い。その場合、依頼者が具体的な和解案を了承していなかったことだけで、相手方との関係で和解が当然に無効になるわけではないため、和解の条件は事前に弁護士と協議して決めておく。
③ 範囲の外の事項を頼むときは書面で。 別の相手方との交渉や、関連する別の手続を頼みたいときは、口頭で頼んだつもりにならず、委任契約書を追加・変更してもらう。
④ 法律上できることと、頼んだことは同じではない。 訴訟代理人は法律上強制執行もできるが、委任契約で強制執行を別の依頼としている場合は、追加の契約と費用が必要になることがある。
議論のある点 委任契約書の範囲の記載があいまいな場合に、関連する手続(反訴への対応、別の相手方との交渉、判決後の強制執行など)がもとの依頼に含まれるか、追加の報酬が必要かは、委任契約書の文言、依頼のときの説明、その後のやり取りによって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・判決が出たが、控訴するかどうかについて弁護士から説明がない
・依頼したと思っていた手続について、弁護士から「範囲外」と言われた
・交渉から訴訟に進むときに、追加の費用の説明がない
・控訴審の契約や費用の話がまとまらないまま、控訴期限が迫っている
・交渉だけを依頼している間に、時効が迫っている
・仮執行宣言の付いた判決に基づいて、自分の財産に強制執行がされそうだ(控訴しただけでは、強制執行は当然には止まらない)
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
依頼のときに範囲を確かめる。手続の節目(調停・訴訟に進むとき、和解の話が出たとき、判決が出たとき)には、次の手続を誰に頼むのかをその都度確かめる。控訴の期限があるため、判決の言渡しの前から準備しておく。
依頼の範囲は依頼者と弁護士の合意で決まり、原則として委任契約書の「受任する法律事務の表示及び範囲」に書かれる。書面の有無だけで依頼の成立や範囲が決まるわけではなく、口頭で追加した依頼も効力を持ちうるので、追加・変更は書面などで確かめる。範囲は手続ごとに区切られることが多い。訴訟代理人は法律上一定の行為ができるが、和解や控訴などは特別の委任が必要である(民事訴訟法55条)。手続の節目ごとに、次の手続を誰に頼むのかを確かめる。
出典
民事訴訟法55条・97条・285条・293条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
弁護士職務基本規程22条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)
弁護士の報酬に関する規程5条(平成16年日本弁護士連合会会規第68号)