問題提起
弁護士費用というと着手金や報酬金を思い浮かべるが、実際には、裁判所に納める手数料、郵便代、コピー代、交通費などもかかる。これらの「実費」は誰が負担するのか、いつ払うのか、裁判に勝てば相手方に払ってもらえるのか。実費の扱いを知っておくと、費用の全体像をつかみやすくなる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
弁護士費用というと着手金や報酬金を思い浮かべるが、実際には、裁判所に納める手数料、郵便代、コピー代、交通費などもかかる。これらの「実費」は誰が負担するのか、いつ払うのか、裁判に勝てば相手方に払ってもらえるのか。実費の扱いを知っておくと、費用の全体像をつかみやすくなる。
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。民法649条(e-Gov法令検索で原文確認)
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。民法650条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
訴訟費用は、敗訴の当事者の負担とする。民事訴訟法61条(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士職務基本規程29条1項は、弁護士が事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づいて、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について適切な説明をしなければならないと定めている。
① 裁判所に納める申立ての手数料。 訴えの提起などの申立てには、申立ての区分に応じた手数料を納めなければならない(民事訴訟費用等に関する法律3条1項)。手数料はかつて収入印紙で納めるのが一般的だったが、現在は、訴えの提起など法律が定める申立ての手数料は、最高裁判所規則で定めるところにより現金で納めることとされ、書面で申し立てる場合でやむを得ない事由があるときは収入印紙で納めることができる(同法8条)。具体的な納め方は手続によって異なる。
② 郵便代など。 裁判所が書類を送るための費用は、郵便切手などで予納する手続がある一方、訴えの提起などの一定の申立てでは、この費用を別に納める必要がない(民事訴訟費用等に関する法律11条1項ただし書・12条・13条)。どちらになるかは手続や事件によって異なる。このほか、弁護士が相手方に書面を送る郵便代などが実費としてかかる。
③ 記録の謄写費用・証明書の取得費用。 記録のコピー代、戸籍謄本や登記事項証明書などの取得費用がかかる。
④ 交通費・宿泊費。 弁護士が遠方の裁判所に出向く場合などにかかる。日当(弁護士が事務所を離れて時間を使うことに対する報酬)とは別に扱われることが多い。
⑤ 前払と精算。 依頼者は、弁護士の請求により実費を前払しなければならない(民法649条)。ただし、費用の負担や支払の時期は、委任契約で別に決めることもできる。実務では、受任のときに実費の見込み額を預り金として預け、事件が終わったときに精算することが多い。
1. 受任のとき、弁護士が実費の見込み額と、預け方・精算の方法を説明する。
2. 依頼者が、実費の見込み額を弁護士に預ける(預り金)。
3. 弁護士が、事件の処理に必要な費用を預り金から支出し、支出の記録を残す。
4. 事件の途中で預り金が足りなくなれば、弁護士が追加の預けを依頼する。
5. 事件が終わったとき、弁護士が支出の内訳を示して精算し、残りがあれば依頼者に返す。
実務の視点 実費の精算のときに内訳(日付・項目・金額)の書面をもらい、委任契約書・預り証と一緒に保管しておくと、後で確かめやすい。弁護士職務基本規程45条は、弁護士が委任の終了に当たり、委任契約に従って金銭を清算し、預り金を遅滞なく返還しなければならないと定めている。
① 実費は着手金に含まれないことが多い。 着手金とは別に実費を預ける定めになっていることが多い。委任契約書で確かめる。
② 勝訴しても実費の全部を相手方に払わせられるとは限らない。 訴訟費用として相手方に負担させられるのは、民事訴訟費用等に関する法律2条が定める範囲のもので、その額も同条の定めによる。訴訟費用を相手方から実際に払ってもらうには、訴訟費用額確定の手続などが必要になる。弁護士報酬は、原則として訴訟費用に含まれない。
③ 判決では訴訟費用の負担を裁判所が決める。 一部だけ勝った場合は、各当事者の負担を裁判所がその裁量で定める(民事訴訟法64条)。裁判上の和解では当事者が費用の負担を決めることができ、和解の費用や訴訟費用の負担について特別の定めをしなかったときは、各自が負担する(民事訴訟法68条)。
④ 事件によっては大きな実費がかかる。 鑑定の費用、強制執行の予納金、破産手続の予納金など、手続によっては大きな額の実費がかかることがある。依頼のときに見込みを確かめる。
議論のある点 ある支出が「実費」なのか、事務所の経費として弁護士報酬に含まれるべきものなのか(事務所内のコピー代・通信費の扱いなど)は、委任契約書の定めや事務所の報酬基準によって扱いが分かれる。一方、受け取った金銭を清算し、残額を返還することは弁護士の義務である(民法646条、弁護士職務基本規程45条)。どこまでを実費とするかについて疑問がある場合は、一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・実費の精算の内訳が示されない、または預けた額が返ってこない
・訴訟費用を相手方に負担させる判決が出たが、どうやって払ってもらうか分からない
・鑑定費用や予納金など大きな実費が必要と言われた(資力が乏しい場合は、裁判所の訴訟上の救助〔民事訴訟法82条〕や法テラスの民事法律扶助を使える場合がある。両制度は別のもので、すべての費用が対象になるわけではない)
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
実費の見込み額と精算の方法は、委任契約書に署名する前に確かめる。事件が終わったら、精算の内訳を確かめ、疑問があれば早めに弁護士に尋ねる。
実費は、事件の処理に実際にかかる費用で、弁護士報酬とは別である。依頼者は弁護士の請求により実費を前払し(民法649条)、実務では預り金として預けて事件の終わりに精算することが多い。訴訟費用は敗訴者の負担が原則だが(民事訴訟法61条)、その範囲は法律で決まっており、実費のすべてが相手方に負担させられるわけではない。
出典
民法646条・649条・650条、民事訴訟法61条・64条・68条・82条、民事訴訟費用等に関する法律2条・3条・8条・11条〜13条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
弁護士職務基本規程29条・45条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)