問題提起
弁護士に依頼しようとしたら、運転免許証などの身分証明書を見せるよう求められた。「弁護士に疑われているのか」と感じる人もいるかもしれない。しかし、本人確認は、弁護士が犯罪による収益の移転(いわゆるマネー・ローンダリング)に利用されないようにするための決まりに基づくもので、依頼者を疑う趣旨ではない。どのような場面で確認が必要になるのかを知っておくと、戸惑わずに済む。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
弁護士に依頼しようとしたら、運転免許証などの身分証明書を見せるよう求められた。「弁護士に疑われているのか」と感じる人もいるかもしれない。しかし、本人確認は、弁護士が犯罪による収益の移転(いわゆるマネー・ローンダリング)に利用されないようにするための決まりに基づくもので、依頼者を疑う趣旨ではない。どのような場面で確認が必要になるのかを知っておくと、戸惑わずに済む。
弁護士等による取引時確認、確認記録の作成及び保存、取引記録等の作成及び保存並びにこれらを的確に行うための措置に相当する措置については、第二条第二項第四十六号に掲げる特定事業者の例に準じて日本弁護士連合会の会則で定めるところによる。犯罪による収益の移転防止に関する法律12条1項。「弁護士等」は同法2条2項45号に掲げる弁護士・弁護士法人などをいう(e-Gov法令検索で原文確認)
日弁連の「依頼者の本人特定事項等の確認及び記録保存等に関する規程」2条1項は、弁護士等が、法律事務に関連して、依頼者の金融機関の口座を管理し、または依頼者からもしくは依頼者のために金員・有価証券その他の資産(その合計が規則で定める金額以上のもの)を預かり(金融機関による送金の場合を含む)、もしくはその管理を行うに際しては、依頼者の本人特定事項(自然人であれば氏名・住居・生年月日)、依頼の目的、職業などを確認しなければならないと定めている。同規則2条は、この金額を200万円としている。
① 口座を管理するとき・一定額以上の資産を預かる・管理するとき。 依頼者の金融機関の口座を管理するとき(金額の基準はない)、依頼者のために合計200万円以上の金銭などを預かる(送金を受ける場合を含む)、またはその管理をするとき(同規程2条1項、同規則2条)。
② 一定の取引の準備・実行をするとき。 不動産の売買、会社の設立や合併などの手続、信託の設定などについて、依頼者のためにその準備・実行をするとき(同規程2条3項)。
③ 確認する事項。 自然人の依頼者であれば、氏名・住居・生年月日、依頼の目的、職業。会社などの依頼者であれば、名称・本店または主たる事務所の所在地、依頼の目的、事業の内容、実質的に支配する者など(同規程2条1項)。規程の対象となる依頼を、依頼者とは別の人(会社の代表者・担当者や、本人の代理人など)が行う場合は、その人の本人特定事項と依頼の権限も確認しなければならない(同規程4条)。
④ 記録の保存。 弁護士は、確認の記録を作成し、提示を受けた書類の写しなどを、資産の管理や取引などが終了してから5年間保存しなければならない(同規程5条1項)。行った資産の管理や取引の概要の記録も、同じく5年間保存しなければならない(同条2項)。
次の場面に当たる金銭の受領などについて確認が不要でも、同じ依頼で不動産の売買などの対象となる取引の準備・実行もする場合は、その取引について別に確認が必要になる(同規程2条3項)。
・裁判所・法務局などに予納金・供託金・保釈保証金などを納めるために金員を預かるとき
・裁判所その他の紛争解決機関の関与した手続での判決・和解などによって負担する債務を支払うために金員を預かるとき、またはそうした手続で相手方が負担する弁済金・和解金を受け取るとき
・刑事事件で、被害者などに弁済するための示談金などを預かるとき
・弁護士の報酬や費用の前受けとして金員を受け取るとき
・成年後見人・破産管財人など裁判所から選任された人が、その職務として依頼するとき
(このほか、任意後見契約に基づく事務などの定めもある。一定の場合を除き、5年以内に同じ方法で確認した依頼者については、改めての確認を要しないとの定めもある〔同規程2条4項〕。)
1. 弁護士が、依頼の内容から本人確認が必要かどうかを判断する。
2. 必要な場合、弁護士が依頼者に、運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類の提示を求め、依頼の目的や職業を尋ねる。
3. 弁護士が確認の記録を作り、書類の写しなどを保存する。
4. 依頼の目的が犯罪収益の移転に関わると認めるときは、弁護士はその依頼を受けてはならない(同規程6条2項)。
実務の視点 本人確認が必要な依頼かどうかは、相談の段階では分からないこともある。依頼の際に本人確認書類を持参するよう案内されたら、有効期限内のものを用意しておくと手続が早く済む。郵送やオンラインで確認する方法もあるが、使える方法は日弁連の規則で決められており、改正で変わる予定がある。
① すべての依頼で規程の確認が必要なわけではない。 この規程による本人確認が義務付けられているのは、口座の管理・資産の預かりや一定の取引など定められた場面である。ただし、それ以外の場面でも、依頼者が誰かを確かめるために、弁護士が本人確認書類の提示を求めることがある。
② 依頼者を疑う趣旨ではない。 本人確認は、弁護士が犯罪収益の移転に利用されることを防ぐための仕組みである。
③ 個人番号の扱いは別である。 マイナンバーカードを本人確認に使う場合は、通常はカードの表面を使う。個人番号(マイナンバー)を含む情報は、法律が定める場合を除き、何人も収集・保管してはならないとされている(番号法20条)。個人番号が書かれた裏面の写しの提出を求められたときは、その根拠と利用目的を確かめる。
④ 確認の方法は変わる予定である。 日弁連は、本人確認の方法を定める規則を改正し、2027年4月1日から確認の方法が変わる(対面での確認にICチップの読み取りが必要になるなど)と会員に案内している。実際の方法は、依頼する弁護士に確かめる。
議論のある点 依頼の内容が本人確認の対象となる「資産管理行為等」や「取引等」に当たるか、確認を要しない場面に当たるかは、預かる金銭の性質(和解金か、売買代金か)や手続の内容によって判断が分かれることがある。本人確認に応じられない事情がある場合の扱いも、事情による。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・本人確認書類を持っていない、または住所が書類と違う
・弁護士以外の者から「弁護士の代わりに預かる」と言われて身分証の写しや金銭を求められた
・本人確認の方法や記録の扱いについて不安がある
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
依頼の前に、本人確認が必要になるかどうか、何を用意すればよいかを弁護士に尋ねておく。
弁護士が身分証明書の提示を求めるのは、犯罪による収益の移転防止に関する法律12条と、これを受けた日弁連の規程・規則に基づく。依頼者の口座の管理、200万円以上の資産の預かり・管理、不動産売買・会社設立などの取引の準備・実行のときに確認が必要とされ、裁判所の手続での和解金の受領や報酬の前受けなどでは不要とされている。確認の方法は2027年4月1日から変わる予定である。
出典
犯罪による収益の移転防止に関する法律2条2項45号・12条、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律20条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
依頼者の本人特定事項等の確認及び記録保存等に関する規程2条・4条・5条・6条(平成24年日本弁護士連合会会規第95号)
依頼者の本人特定事項等の確認及び記録保存等に関する規則2条(平成24年日本弁護士連合会規則第154号)
日本弁護士連合会の会員向けの案内「依頼者の本人確認方法が変わります(2027年4月1日施行)」