問題提起
弁護士に交渉や訴訟を依頼していると、相手方から和解の提案が届いたり、裁判所から和解を勧められたりする。弁護士から「この条件で和解した方がよい」と言われたとき、断ってもよいのか、弁護士が勝手に決めてしまうことはないのか、と不安になる人もいる。示談や和解を最終的に決めるのは誰かを知っておくと、落ち着いて判断できる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
弁護士に交渉や訴訟を依頼していると、相手方から和解の提案が届いたり、裁判所から和解を勧められたりする。弁護士から「この条件で和解した方がよい」と言われたとき、断ってもよいのか、弁護士が勝手に決めてしまうことはないのか、と不安になる人もいる。示談や和解を最終的に決めるのは誰かを知っておくと、落ち着いて判断できる。
弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする。弁護士職務基本規程22条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならない。弁護士職務基本規程36条(e-Gov法令検索で原文確認)
訴訟代理人は、次に掲げる事項については、特別の委任を受けなければならない。
二 訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退民事訴訟法55条2項2号(e-Gov法令検索で原文確認)
和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。民法695条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 和解するかどうかは依頼者の判断である。 和解は、依頼者の権利を譲歩して争いを終わらせる行為であり、弁護士は依頼者の意思を尊重して職務を行う(弁護士職務基本規程22条1項)。
② 判断に必要な報告と協議がある。 弁護士は、必要に応じ、事件の経過や結果に影響する事項を報告し、依頼者と協議しながら進めなければならない(同規程36条)。和解の提案があったときは、その内容と、和解しなかった場合の見通しを説明してもらう。
③ 訴訟上の和解には特別の委任が必要である。 訴訟代理人が和解をするには特別の委任が必要で(民事訴訟法55条2項2号)、訴訟委任状に和解の権限を書いて授権することが多い。委任状に和解の権限が書かれていても、どの条件で和解するかは依頼者と弁護士が協議して決める。
④ 示談の代理権の範囲。 裁判外の示談でも、弁護士は依頼者から与えられた代理権の範囲内で示談をする。代理人が権限内で本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に効力が生じる(民法99条1項)。
1. 相手方や裁判所から、和解の提案(金額・支払方法・その他の条件)が示される。
2. 弁護士が依頼者に提案の内容を伝え、和解した場合と和解しなかった場合(判決の見通し・時間・費用)を比べて説明する。
3. 依頼者が、分からない点を尋ね、受け入れる条件・譲れない条件を弁護士に伝える。
4. 弁護士が依頼者の意向に沿って相手方と条件を交渉する。
5. 最終的な条項の案を依頼者が確かめ、依頼者が和解するかどうかを決める。
6. 和解が成立すると、示談書(合意書)を取り交わすか、裁判所で和解調書が作られる。
実務の視点 和解の条項には、支払の時期・方法のほか、「本件に関し、本和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった清算条項が入ることが多い。清算条項があると、条項に書かれていない請求を後からすることが難しくなる。他に請求したいことが残っていないかを、和解の前に弁護士と確かめておく。
① 弁護士に勧められても断ってよい。 弁護士の勧めは判断の材料であり、和解するかどうかは依頼者が決める。断る場合は、和解しなかったときの見通しやリスク(判決の結果・時間・費用)を理解したうえで決める。
② 和解の後で気が変わっても、それだけでは取り消せない。 和解は争いをやめる合意であり、成立した後に「やはり納得できない」と言っても、それだけでは効力は失われない。和解の前提とされた事情に錯誤があった場合などは、別に検討される(民法95条・696条)。
③ 裁判上の和解の調書には強い効力がある。 裁判上の和解の内容が調書に記載(記録)されると、その記載は確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法267条1項)。相手方が和解で決めた支払をしなければ、和解調書に基づいて強制執行を申し立てることができる。
④ 電話だけで決めない。 和解の条件を電話で聞いただけで了承せず、条項の案を文書で見せてもらってから決める。裁判外の示談は書面がなくても成立しうるため(民法522条2項)、示談書に署名する前でも、電話やメールのやり取りで合意が成立したと評価されることがある。
議論のある点 依頼者の意思をどこまで確かめれば和解の権限を行使してよいか、弁護士が依頼者の意向と異なる条件で和解した場合にその和解の効力や弁護士の責任がどうなるかは、委任状の記載、依頼者とのやり取り、相手方がその事情を知っていたかなどで判断が分かれる。和解の後で錯誤などを理由に効力を争うことも、和解の性質上限られた場面でしか認められない。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・依頼している弁護士から、十分な説明なく和解を急かされている
・自分の知らないうちに和解が成立していた
・和解の条項(清算条項など)の意味が分からない
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
和解の提案が出たときは、返事の期限を確かめ、その前に条項の案を見て弁護士と協議する。和解が成立してからでは条件を変えることが難しいため、疑問は成立前に解消する。
示談や和解をするかどうかを最終的に決めるのは依頼者である。弁護士は依頼者の意思を尊重し、報告と協議をしながら進める(弁護士職務基本規程22条・36条)。訴訟上の和解には特別の委任が必要である(民事訴訟法55条2項2号)。和解が成立すると原則として蒸し返せないため、条項を理解して納得してから応じる。
出典
民法95条・99条・522条・695条・696条、民事訴訟法55条・267条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
弁護士職務基本規程22条・36条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)