問題提起
依頼した弁護士と連絡がつきにくい、説明に納得できない、方針が合わない――そう感じたとき、弁護士を替えることはできるのだろうか。替えるとしたら、払った着手金はどうなるのか、事件の記録はどうやって引き継ぐのか。弁護士を替えるときの決まりと段取りを知っておくと、事件の進行を止めずに済む。この記事は、民事事件などで依頼者が自分で弁護士と委任契約を結んでいる場合を説明する。刑事事件の国選弁護人は、裁判所(裁判官)が選任・解任する仕組みで、依頼者が委任契約を解除するのとは違う。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
依頼した弁護士と連絡がつきにくい、説明に納得できない、方針が合わない――そう感じたとき、弁護士を替えることはできるのだろうか。替えるとしたら、払った着手金はどうなるのか、事件の記録はどうやって引き継ぐのか。弁護士を替えるときの決まりと段取りを知っておくと、事件の進行を止めずに済む。この記事は、民事事件などで依頼者が自分で弁護士と委任契約を結んでいる場合を説明する。刑事事件の国選弁護人は、裁判所(裁判官)が選任・解任する仕組みで、依頼者が委任契約を解除するのとは違う。
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。民法651条(e-Gov法令検索で原文確認)
受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき。民法648条3項(e-Gov法令検索で原文確認)
弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金銭を清算したうえ、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければならない。弁護士職務基本規程45条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 依頼者はいつでも解除できる。 委任契約は、依頼者からいつでも解除できる(民法651条1項)。解除の理由を弁護士に説明する義務は法律上定められていない。
② 損害賠償が問題になる場合がある。 弁護士に不利な時期に解除した場合などは、やむを得ない事由があったときを除き、依頼者が弁護士の損害を賠償しなければならない(同条2項)。ただし、解任によって弁護士が将来の報酬を得られなくなることだけで、当然に損害賠償が必要になるわけではない(同項2号は、専ら報酬を得ることによる利益を除いている)。報酬の清算と損害賠償は別の問題である。
③ 報酬は、報酬の性質と有効な契約条項に従って清算される。 報酬を支払う合意がある場合、委任が途中で終わったときは、事務の処理に対する報酬は、すでにした履行の割合に応じて請求できるのが原則である(民法648条3項)。委任契約書には、委任契約が途中で終了した場合の清算方法を書かなければならないとされている(弁護士の報酬に関する規程5条4項)。成功報酬など成果に対する報酬は、作業の進み具合の割合で当然に請求できるものではなく、可分な成果によって依頼者が利益を受けるときに、その割合に応じて請求できるとされている(民法648条の2第2項が準用する634条)。依頼者が消費者である場合、解約のときの違約金や「みなし報酬」などの条項は、消費者契約法9条1項1号(平均的な損害の額を超える部分の無効)や10条によって効力が制限されることがある。2020年4月1日より前に結ばれた委任契約には、改正前の民法が適用される(平成29年法律第44号附則34条1項)。
④ 預り金・預り品は返してもらえる。 弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従って金銭を清算し、預り金と預り品を遅滞なく返さなければならない(弁護士職務基本規程45条)。弁護士は、委任の終了に当たり、事件処理の状況やその結果を、必要に応じて法的助言を付して依頼者に説明しなければならない(同規程44条)。
⑤ 解除は将来に向かって効力を生じる。 委任の解除は、将来に向かってのみその効力を生じる(民法652条・620条)。解除の前に弁護士がした事務がさかのぼって無効になるわけではない。
⑥ 急ぎの事情があれば必要な処分がされる。 委任が終了した場合でも、急迫の事情があるときは、受任者(弁護士)は、委任者(依頼者)が自分で委任事務を処理できるようになるまで、必要な処分をしなければならない(民法654条)。ただし、これに頼らず、次の弁護士を早く決める。
⑦ 訴訟では相手方への通知が必要である。 訴訟代理権の消滅は、本人または代理人から相手方に通知しなければ効力を生じない(民事訴訟法59条・36条1項)。訴訟代理人の権限の消滅の通知をした者は、その旨を裁判所に書面で届け出なければならない(民事訴訟規則23条4項)。
1. 依頼者が、まず今の弁護士に不満や疑問を伝え、説明を求める。誤解が解けることもある。
2. 替えると決めたら、依頼者が次に依頼する弁護士を探し、事件の状況(次の期日・期限)を伝えて相談する。
3. 次の弁護士が決まったら、依頼者が今の弁護士に解任(委任契約の解除)を伝える。行き違いを防ぐため、書面やメールで伝えるとよい。
4. 依頼者が、今の弁護士から、事件の記録や預けた書類・預り金の返還と、着手金などの清算の説明を受ける。
5. 次の弁護士が、新しい委任状を裁判所に出すなどして事件を引き継ぐ。
実務の視点 訴訟の期日や控訴期限が近いときに先に解任すると、代理人がいない期間ができてしまう。次の弁護士に事件の記録を見てもらい、引き受けてもらえることを確かめてから解任すると、手続を途切れさせずに済む。弁護士職務基本規程40条は、依頼者が他の弁護士に依頼しようとするときに、弁護士が正当な理由なくこれを妨げてはならないとしている。
① 着手金は当然に全額返るわけではない。 着手金は、事件の結果にかかわらず受任のときに支払う性質のものとされることが多く、途中で解任してもどれだけ返るかは、清算方法の定めと進み具合によって決まる。
② 今の弁護士に黙って別の弁護士に頼むことは禁止されていない。 ただし、同じ事件を2人の弁護士が別々に進めると混乱するため、どちらに何を頼むのかをはっきりさせる。
③ 記録の返還と情報の引継ぎを求める。 依頼者が預けた書類(契約書・領収書などの原本)は返してもらう。裁判所や相手方から届いた書類、提出した書面、次の期日・期限の情報も、次の弁護士に引き継ぐために写しや情報の提供を求める(受任者の報告について民法645条、受取物の引渡しについて民法646条)。弁護士が内部で作ったメモなどの扱いは、弁護士と相談する。
④ 紛争になったら紛議調停も使える。 着手金の清算などで弁護士と争いになったときは、所属弁護士会の紛議調停の制度を使える場合がある(弁護士職務基本規程26条は、弁護士が依頼者との紛議を紛議調停で解決するよう努めると定めている)。
議論のある点 途中で解任した場合に、着手金のうちどれだけを返すべきか、成功報酬(報酬金)の一部を請求できるか(「みなし報酬」などの条項の効力を含む)、解任が弁護士に「不利な時期」に当たって損害賠償が必要になるかは、委任契約書の定め、解任の理由(弁護士側の落ち度の有無)、それまでの事務の進み具合によって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・訴訟の期日や控訴期限が迫っている中で、弁護士を替えたい
・解任を伝えたら、高額の報酬や違約金を求められた
・預けた書類や預り金を返してもらえない
・法テラスの民事法律扶助(代理援助・書類作成援助)を利用している(援助は新しい弁護士に当然に引き継がれるわけではない。弁護士を替える前に担当の地方事務所に連絡し、援助の終了・変更、前の弁護士の費用、新しい弁護士についての申込み・審査の要否を確かめる。交代によって立替金の償還義務が当然に消えるわけではない)
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
弁護士を替えたいと思ったら、まず次の期日・期限を確かめ、期限に間に合うよう早めに次の弁護士に相談する。解任を伝えるのは、次の弁護士の目途が立ってからにするのが安全である。ただし、預り金の流用が疑われる、弁護士と連絡がまったく取れない、期限が目前に迫っているなど緊急の事情があるときは、待たずにすぐ別の弁護士や弁護士会に相談する。
依頼者は委任契約をいつでも解除できる(民法651条1項)が、不利な時期の解除などには損害賠償の問題がある(同条2項)。報酬は、報酬の性質と有効な契約条項に従って清算され(民法648条3項・648条の2)、預り金・預り品は返還される(弁護士職務基本規程45条)。期限を途切れさせないよう、次の弁護士を決めてから解任する。
出典
民法620条・634条・645条・646条・648条・648条の2・651条・652条・654条、消費者契約法9条・10条、民事訴訟法36条・59条、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則34条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
弁護士職務基本規程26条・40条・44条・45条(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)
弁護士の報酬に関する規程5条(平成16年日本弁護士連合会会規第68号)
民事訴訟規則23条(最高裁判所規則・裁判所ウェブサイト掲載の版で確認)