問題提起
「相手が悪いのに、なぜ自分が弁護士費用を払わなければならないのか」と感じる人は多い。裁判に勝てば、弁護士に払ったお金も相手方に払わせられるのだろうか。日本では、勝った側の弁護士費用を負けた側が当然に負担する仕組みにはなっていない。どのような場合に、どの範囲で相手方に請求できるのかを知っておくと、費用の見通しを立てやすくなる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
「相手が悪いのに、なぜ自分が弁護士費用を払わなければならないのか」と感じる人は多い。裁判に勝てば、弁護士に払ったお金も相手方に払わせられるのだろうか。日本では、勝った側の弁護士費用を負けた側が当然に負担する仕組みにはなっていない。どのような場合に、どの範囲で相手方に請求できるのかを知っておくと、費用の見通しを立てやすくなる。
訴訟費用は、敗訴の当事者の負担とする。民事訴訟法61条(e-Gov法令検索で原文確認)
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。民法419条1項・2項。2020年4月1日より前に遅滞の責任を負った場合の法定利率は、なお従前の例による〔平成29年法律第44号附則17条3項〕。当時の民法の定めのほか、商取引の債務では当時の商法の定めによる場合もある(e-Gov法令検索で原文確認)
訴訟費用の範囲は、民事訴訟費用等に関する法律2条が定めている(申立ての手数料、当事者や代理人が期日に出頭するための旅費・日当・宿泊料のうち同条の定める額、書類の作成・提出の費用など)。
① 訴訟費用は敗訴者の負担が原則である。 ただし、訴訟費用は法律で決まった範囲のものに限られ、弁護士報酬は原則として含まれない(民事訴訟法61条、民事訴訟費用等に関する法律2条)。一部だけ勝った場合は、裁判所がその裁量で負担を決める(民事訴訟法64条)。
② 不法行為の損害賠償では、相当な額を損害として請求できる。 不法行為の被害者が、自分の権利を守るため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟の追行を弁護士に委任した場合、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、不法行為と相当因果関係に立つ損害とされる(最判昭和44年2月27日)。実際に弁護士に払った額がそのまま認められるわけではない。
③ 安全配慮義務違反でも同様に判断された。 労働者が、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ、弁護士に委任した場合も、相当と認められる額の範囲内の弁護士費用は損害とされた(最判平成24年2月24日)。
④ 金銭の支払の遅れでは請求できない。 金銭債務の不履行による損害賠償の額は法定利率などで定まり(民法419条1項)、債権者は、金銭債務の不履行による損害賠償として、弁護士費用その他の取立費用を請求することはできないとされた(最判昭和48年10月11日)。
⑤ 売買契約の履行を求める場合も請求できないとされた。 土地の売買契約の買主が、売主の負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務の履行を求めるための訴訟などを弁護士に委任した場合でも、その弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないとされた(最判令和3年1月22日)。
⑥ 契約で決めている場合。 契約書で、紛争になった場合の弁護士費用の負担を定めていることがある。その定めがどこまで有効か、どの範囲の費用に及ぶかは、契約の内容による。
1. 依頼者と弁護士が、損害賠償の請求額に弁護士費用相当額を含めるかを検討する。
2. 訴えを提起するときに、他の損害(治療費・慰謝料など)とあわせて、弁護士費用相当額を損害として請求する。
3. 裁判所が、事案の内容や認容額などを考えて、相当と認める額を損害として認める。
4. 依頼者は、認められた額にかかわらず、自分の弁護士とは委任契約書の定めに従って報酬を清算する。
実務の視点 相手方から弁護士費用相当額の一部を払ってもらえても、依頼者が自分の弁護士に払う報酬が同じ額だけ減るとは限らない。依頼者が弁護士に払う報酬は、委任契約書の定めで決まる。「相手方に払わせられるから実質無料」と考えず、両者を分けて見通しを立てる。交通事故などでは、自分の保険の弁護士費用特約が使える場合もある。
① 勝訴すれば弁護士費用の全額が戻るわけではない。 訴訟費用には原則として弁護士報酬は含まれない。不法行為などで弁護士費用が損害と認められても、相当と認められる額に限られる。
② 訴訟費用を払ってもらうにも手続が要る。 判決で相手方の負担とされた訴訟費用の額は、訴訟費用額確定の手続などで定めることになる。
③ 和解では各自の負担とすることが多い。 和解では、訴訟費用を各自の負担とする条項が入ることが多い。裁判上の和解で訴訟費用の負担について特別の定めをしなかったときは、各自が負担する(民事訴訟法68条)。訴訟費用を各自の負担としても、損害の一部として弁護士費用相当額を和解金の額に織り込んで話し合うことはありうる。
④ 事件の類型で結論が違う。 不法行為・安全配慮義務違反と、金銭の支払の遅れ・売買の履行請求とで、最高裁の結論が分かれている。自分の請求がどの類型に当たるかで見通しが変わる。
議論のある点 上に挙げた類型以外の債務不履行(他の契約上の義務の違反など)で弁護士費用を損害として請求できるか、相当と認められる額がどの程度になるか、契約で弁護士費用の負担を定めた条項がどこまで有効か(特に消費者が当事者の契約では、消費者契約法9条・10条による制限が問題になる)、訴訟をせずに交渉で解決した場合の弁護士費用をどう扱うかは、事案によって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・相手方の不法行為による被害で、弁護士費用も含めて請求したい
・契約書に「紛争の費用は違反した側が負担する」といった条項がある
・相手方から、相手方が依頼した弁護士の費用まで払うよう求められている
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
依頼のときに、弁護士費用を相手方に請求できる類型か、請求できるとしてどの程度かを弁護士に確かめ、それを前提に費用の見通しを立てる。時効が迫っている場合や、示談書・和解書への署名を求められている場合は、費用の見通しを検討する前でも早めに相談する。相談の予約や法律相談をしただけでは、時効や裁判の期限は止まらない。
訴訟費用は敗訴者の負担が原則だが、弁護士報酬は原則として含まれない(民事訴訟法61条、民事訴訟費用等に関する法律2条)。不法行為や安全配慮義務違反では、相当と認められる額の弁護士費用を損害として請求できるとされている一方、金銭の支払の遅れ(金銭債務の不履行)や土地の売買の履行請求では、債務不履行による損害賠償として弁護士費用を請求できないとされている。請求の類型によって結論が変わるため、依頼のときに見通しを確かめる。
出典
民法419条、民事訴訟法61条・64条・68条、民事訴訟費用等に関する法律2条、消費者契約法9条・10条、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則17条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)
最判昭和44年2月27日・民集23巻2号441頁
最判昭和48年10月11日・集民110号231頁・判時723号44頁
最判平成24年2月24日・集民240号111頁・判時2144号89頁
最判令和3年1月22日・集民265号95頁・判時2496号3頁