問題提起
離婚協議書に「今後、互いに何も請求しない」と書いて離婚した。後になって年金分割のことを知った。あるいは、家庭裁判所で割合が「0.5」と決まったので安心していた。年金分割は、割合を決めることと、年金事務所などに請求することが別の手続で、請求には期限がある。割合が決まっただけでは分割されない点に注意が要る。この記事でいう「離婚」は、法律上の「離婚等」(婚姻の取消しや、一定の事実婚の解消を含む)のうち、主に離婚を想定している。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
離婚協議書に「今後、互いに何も請求しない」と書いて離婚した。後になって年金分割のことを知った。あるいは、家庭裁判所で割合が「0.5」と決まったので安心していた。年金分割は、割合を決めることと、年金事務所などに請求することが別の手続で、請求には期限がある。割合が決まっただけでは分割されない点に注意が要る。この記事でいう「離婚」は、法律上の「離婚等」(婚姻の取消しや、一定の事実婚の解消を含む)のうち、主に離婚を想定している。
第一号改定者……又は第二号改定者……は、離婚等……をした場合であつて、次の各号のいずれかに該当するときは、実施機関に対し、当該離婚等について対象期間……に係る被保険者期間の標準報酬……の改定又は決定を請求することができる。ただし、当該離婚等をしたときから五年を経過したときその他の厚生労働省令で定める場合に該当するときは、この限りでない。
一 当事者が標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合……について合意しているとき。
二 次項の規定により家庭裁判所が請求すべき按分割合を定めたとき。厚生年金保険法78条の2第1項。……は省略(e-Gov法令検索で原文確認)
附則第一条第一項第四号に掲げる規定の施行の日前に……改正前の厚生年金保険法第七十八条の二第一項に規定する離婚等をした場合における同項の規定により標準報酬の改定又は決定を実施機関に請求することができる期間の制限については、なお従前の例による。令和7年法律第74号附則10条。……は省略(e-Gov法令検索で原文確認)
この改正で、78条の2第1項ただし書の「二年」が「五年」に改められ、2026年4月1日に施行された(e-Gov 法令API の改正履歴・時点指定で確認)。
|合意分割(78条の2)|3号分割(78条の14)
対象|婚姻期間中(対象期間)の厚生年金の記録|2008年4月以後で、相手の被扶養配偶者(国民年金の第3号被保険者)だった期間(特定期間)の記録
割合|当事者の合意か、家庭裁判所が定める。標準報酬の総額の少ない側(第2号改定者)の分割前の割合を超え、2分の1以下の範囲(78条の3第1項)|2分の1(合意は不要=78条の14第2項・3項)
請求する人|当事者のどちらか(代理人による請求もある)|被扶養配偶者だった側
割合の証明|公正証書・公証人の認証を受けた私署証書・調停調書・審判書など(同法施行規則78条の4)|不要
できない場合|—|被扶養配偶者を扶養していた側(特定被保険者)が障害厚生年金の受給権者で、特定期間がその年金額の計算の基礎になっているときなど(78条の14第1項ただし書・同規則78条の17第1項1号)
分割されるのは厚生年金(報酬比例部分)の記録で、国民年金(基礎年金)は分割の対象ではない。また、分割されるのは「記録」で、相手の年金から毎月お金が振り込まれる仕組みではない。割合の「0.5」は、対象期間の二人の標準報酬の総額が分割後に等しくなる割合で、相手の年金額の半分を受け取るという意味ではない。
同じ離婚について両方が関係することも多い。3号分割だけでは、第3号被保険者でなかった期間の記録は分割されない。3号分割の対象期間を含めて合意分割の請求をしたときは、3号分割の請求もあったものとみなされる(78条の20第1項。ただし、被扶養配偶者を扶養していた側〔特定被保険者〕が障害厚生年金の受給権者であるときを除く)。
1. 年金事務所などに「年金分割のための情報通知書」を請求する(厚生年金保険法78条の4)。分割の対象となる期間、標準報酬の総額、割合の範囲が分かる。
2. 合意分割では、相手と割合を話し合う。合意できたら、公正証書や公証人の認証を受けた私署証書にするか、当事者双方(または代理人)が年金事務所に出向いて合意書を出す(同法施行規則78条の4第1項)。
3. 合意できないとき、または話し合えないときは、家庭裁判所に割合を定める調停か審判を申し立てる(78条の2第2項)。離婚の裁判の中で求めることもできる(人事訴訟法32条1項)。
4. 割合が決まったら、期限内に年金事務所など(実施機関)に「標準報酬改定請求」をする。調停で決まった場合は調停調書の謄本など、審判や判決で決まった場合は、確定した後に審判書・判決書の謄本などと確定を証明する書類を用意する。具体的な必要書類は年金事務所に確かめる。
5. 3号分割だけの場合は、合意や家庭裁判所の手続なしに、被扶養配偶者だった側が請求する。
実務の視点 情報通知書は早めに取る。離婚協議書や調停の合意に「年金分割の割合」と「請求すること」を明記し、どちらが年金事務所に請求するかを決めておく。家庭裁判所で割合が決まったら、請求できる状態になり次第すぐに請求する。手元に「離婚の日」「期限の終わり」「請求した日」を記録しておくと安心である。
① 原則。 離婚が成立した日の翌日から数えて5年を経過すると請求できない(同法施行規則78条の3第1項)。2026年3月31日以前に離婚した場合は、改正前の2年(令和7年法律第74号附則10条)。
② 家庭裁判所の手続が長引いた場合。 原則の期限が過ぎた後、または期限の前6か月以内に、割合を定める審判が確定したり調停が成立したりした場合(審判・調停は原則の期限の前に申し立てていたときに限る)、その翌日から数えて6か月を経過するまで請求できる(同規則78条の3第2項)。離婚の判決や和解で割合が定まった場合も同じ扱いがある(同項3号・4号)。
③ 相手が亡くなった場合(合意分割)。 当事者の一方が亡くなった日から数えて1か月以内に、割合の合意や家庭裁判所の決定を証明する方法で他方が請求すれば、亡くなった日の前日に請求があったものとみなされる(厚生年金保険法施行令3条の12の7)。死亡を「知った日」からではない。生前に合意や家庭裁判所の決定ができていたことが前提で、亡くなった後に割合を決めればよいという制度ではなく、すでに期限を過ぎていた権利が復活するものでもない。
④ 3号分割の期限。 3号分割にも、離婚が成立した日の翌日から数えて5年などの期限が定められている(同法施行規則78条の17第1項2号)。2026年4月1日より前の期限の制限については、「なお従前の例による」とする経過措置が設けられている(令和8年厚生労働省令第38号附則2項)。合意分割の特例(②③)が3号分割だけの請求にもそのまま当てはまるとは限らないので、年金事務所に確かめる。
① 割合が決まっても、請求しなければ分割されない。 審判書や調停調書があるだけでは記録は変わらない。期限内の請求が必要。
② 「清算条項」と年金分割。 離婚協議書の「互いに何も請求しない」という一般的な条項があるだけで、当然に年金分割ができなくなるわけではないと説明されている。ただし、年金分割について明示した合意がある場合などは、その効力を別に検討する必要がある。自分で「もう請求できない」と判断せず、書面を持って相談する。
③ 割合は「0.5」になることが多い。 家庭裁判所が割合を定めるときは、特段の事情がない限り0.5(2分の1)とする扱いが一般的と説明されている。これは条文が一律に定めているのではなく、裁判の実務による。
④ 分割を受けても、すぐに年金が出るとは限らない。 分割された記録は、自分が老齢年金を受け取る年齢や資格を満たしてから年金額に反映される。すでに老齢厚生年金を受けている人は、請求のあった日の属する月の翌月から年金額が改定され(厚生年金保険法78条の10第1項)、離婚時までさかのぼって増えるわけではない。請求を遅らせると、その分の不利益がある。
⑤ 期限を延ばしてもらう制度ではない。 相手が協力しないことは、期限が延びる理由にならない。情報通知書を請求しただけでは、分割の請求をしたことにはならない。協力が得られないときは、期限内に家庭裁判所に申し立てる。
議論のある点 割合を0.5と異なる割合にすべき「特段の事情」に当たるかどうかは、家庭裁判所が個別に判断し、一般論では決まらない。別居期間が長いことや、一方が保険料を直接負担していないことだけで、当然に0.5未満になるわけではないと説明されている。また、すでに作った離婚協議書や合意書の文言が年金分割の請求に影響するかは、書き方次第で争いになりうる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・離婚の際に年金分割を決めなかった、または決めたか分からない
・相手が割合の話し合いや年金事務所への同行に応じない
・家庭裁判所の手続が長引いており、期限が近い、または過ぎた
・相手が亡くなった、または重い病気である
・相手が障害厚生年金を受けている
・すでに年金を受け取っている
・離婚協議書に「何も請求しない」と書いてしまった
・離婚した日が2026年4月1日の前か後か、はっきりしない
年金分割は、離婚の話し合いの段階で割合と請求の段取りを決めておくのがよい。離婚後に気づいた場合は、期限(2026年3月31日以前の離婚は2年)が過ぎる前に、すぐに年金事務所か弁護士に相談してほしい。すでに原則の期限を過ぎていても、家庭裁判所の手続後の特例が使える場合がある。
年金分割は、合意分割では割合を決める手続と年金事務所などへの請求の二段階、3号分割では請求だけで、どちらも請求には期限がある。2026年4月1日以後の離婚は5年、それより前の離婚は2年が原則で、家庭裁判所の手続が長引いた場合の6か月、相手が亡くなった場合の1か月という特別な期間もある。割合が決まったら、すぐに請求する。
出典
厚生年金保険法78条の2・78条の3第1項・78条の4・78条の10第1項・78条の14・78条の20第1項/厚生年金保険法施行令3条の12の7/厚生年金保険法施行規則78条の3・78条の4・78条の17/令和7年法律第74号附則10条/令和8年厚生労働省令第38号附則2項/人事訴訟法32条1項(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-18)