問題提起
配偶者の不貞を知ってから、離婚するかどうか迷ったり、子どものために我慢したりして、数年が過ぎることがある。そのとき、不貞相手への慰謝料はまだ求められるのか。不貞が何年も続いていた場合や、後から離婚に至った場合はどう数えるのか。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
配偶者の不貞を知ってから、離婚するかどうか迷ったり、子どものために我慢したりして、数年が過ぎることがある。そのとき、不貞相手への慰謝料はまだ求められるのか。不貞が何年も続いていた場合や、後から離婚に至った場合はどう数えるのか。
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。民法724条(e-Gov法令検索で原文確認)
① 損害を知った時。 配偶者が不貞をしていた事実を知った時が基本になる。疑いを持っただけでは足りず、不貞の事実を知ったといえる時とされる。
② 加害者を知った時。 損害賠償の請求が事実上可能な状況のもとで、その請求ができる程度に加害者を知った時と解されている。相手の氏名や住所の判明は重要な事情だが、両方が分かった日が機械的に起算点になるわけではない。反対に、調査報告書や決定的な証拠を手に入れた日より前に、必要な事実をすでに知っていたと判断されることもある。
③ 継続した不貞。 最高裁平成6年1月20日判決は、同棲関係の事案で、その関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権について時効が進むとした。知った後も関係が続いた期間の損害は別に検討が必要で、過去の分がすべて延びるわけでも、将来の分まで一括して時効になるわけでもない。
④ 離婚による慰謝料。 配偶者に対する離婚そのものの慰謝料は、配偶者に責任が認められる場合、離婚が成立した時から時効が進む(最高裁昭和46年7月23日判決)。ただし、配偶者に対する不貞行為そのものの慰謝料の時効が、離婚によって一律に数え直されるわけではない。不貞相手に離婚そのものの慰謝料を求められるのは、離婚させる意図で婚姻関係に不当に干渉するなどの特段の事情がある例外的な場合に限られ、単に不貞が離婚の原因になっただけでは足りない(最高裁平成31年2月19日判決)。
⑤ 20年の期間。 不法行為の時から20年。2020年4月1日施行の民法改正で、この20年は時効の期間として定められた。改正前は、時効ではなく期間の経過で権利が消える期間(除斥期間)と解されており、施行の時点ですでに20年が過ぎていた場合は、改正前の扱いになる(平成29年法律第44号附則35条1項)。もっとも、改正前の期間でも、事案によってはその経過の主張が制限される余地があると解されており、古い事案は個別に確かめる。
⑥ 5年の特則。 724条の2の5年は、施行の時点ですでに改正前の3年の時効が完成していた場合には適用されない(同附則35条2項)。通常の精神的苦痛の慰謝料が当然に5年になるわけではなく、診断書があるだけで決まるものでもない。
実務の視点 不貞を知った日は、後で争いになりやすい。探偵の調査報告書の日付、配偶者が認めたメッセージの日付、相手の氏名・住所が分かった日などを記録しておく。ただし、証拠を手に入れた日と、法律上の「知った時」は一致するとは限らない。時効が近いと分かったら、まず催告や訴えの準備を優先する。
1. 訴えの提起・調停の申立て(民法147条1項):手続が続いている間は時効が完成しない。判決などで権利が確定すれば、そこから新たに時効が進み(同条2項)、その期間は原則10年になる(169条)。権利が確定しないまま、調停不成立・取下げなどで終わった場合は、終わった時から6か月を経過するまで完成しない(147条1項かっこ書)ので、その間に次の手続を取る。
2. 催告(民法150条):相手に請求が届いた時から6か月は時効が完成しない。発送しただけでは足りないので、配達証明などで届いた日を残す。本来の時効がこの6か月の間に来る場合は、その間に訴えなどを起こす必要がある。催告で猶予されている間に重ねて催告しても延びない(同条2項)。
3. 協議を行う旨の書面による合意(民法151条):「話し合いを続ける」旨を書面(電子データでもよい)で合意すると、①合意から1年、②1年未満の協議期間を決めたときはその期間、③一方が書面で協議の続行を断ったときはその時から6か月、のいずれか早い時まで時効が完成しない。必ず1年あるわけではない。催告で猶予されている間に合意をしても、その合意による猶予の効力は生じず、逆に、合意で猶予されている間に催告をしても、催告による猶予の効力は生じない(同条3項)。これらを交互に使って期限を延ばすことはできない。合意を重ねても本来の完成の時から通じて5年が上限(同条2項)。
4. 承認(民法152条):時効の完成前に相手が支払義務を認める(一部を払う、支払の猶予を求めるなど)と、その時から新たに時効が進む。
① 配偶者への請求と不貞相手への請求で、時期が違うことがある。 配偶者に対する離婚の慰謝料は離婚成立時から数える。夫婦の一方が他方に持つ権利は、婚姻中も、婚姻の解消の時から6か月を経過するまでは時効が完成しない(民法159条)。これは離婚の時に新しい3年が始まるという意味ではない。不貞相手への請求には、この特例は関係しない。
② 時効を止める効果は、相手ごと。 配偶者に対する離婚調停や請求、配偶者が認めたことによって、不貞相手に対する時効まで当然に止まるわけではない(民法153条)。誰に対するどの請求かを確かめて手続を取る。
③ 「離婚してから請求すればよい」は危ない。 不貞相手への不貞行為の慰謝料は、不貞と相手を知った時から数えるので、離婚を待つ間に3年が過ぎるおそれがある。
④ 相手が時効を主張(援用)しなければ、時効の効果は生じない(民法145条)。 ただし、時効が完成した後に支払を約束したり一部を払ったりすると、その後に時効を主張することが判例上許されなくなることがある。請求された側は、支払の約束や一部の支払、猶予の申入れをする前に確かめる。逆に、すでに完成した時効は、その後の催告や訴えでは元に戻らない。
議論のある点 いつ不貞と相手を「知った」といえるか(疑い・一部の証拠・相手の氏名だけ、など段階がある場合)、継続した不貞の各時期の分をどう数えるか、相手が特定できなかった期間をどう扱うかは、事情により判断が分かれる。時効の期間の計算は1日の違いで結論が変わることもある。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・不貞を知ってから2年以上たっている
・不貞相手の氏名や住所が最近分かった
・不貞が何年も続いていて、いつの分を請求できるか分からない
・請求された側で、時効が過ぎているのではないかと考えている
・相手と話し合いを続けているが、期限が近い
・調停が不成立になった、訴えを取り下げようとしている
・配偶者とは調停中だが、不貞相手にはまだ請求していない
・うつ病などの健康被害が出ている
・請求された側で、一部を払った、払うと伝えた、示談書への署名を求められている
不貞を知ったら、離婚するかどうか決める前でも、早めに相談する。3年は思ったより早く過ぎる。期限が近い場合は、催告や訴えの準備を急ぐ必要がある。
不貞の慰謝料は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効にかかる。続いた不貞でも知った時から進み、離婚の慰謝料は離婚成立時から数える。期限が迫れば、訴え・調停・催告・協議の合意などで時効の完成を止められる。全体の論点は「不貞の慰謝料|請求する側・される側の論点整理」を参照。
出典
民法145条・147条・150条・151条・152条・153条・159条・169条・709条・724条・724条の2(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/平成29年法律第44号附則35条/最高裁平成6年1月20日判決(家月47巻1号122頁)/最高裁昭和46年7月23日判決(民集25巻5号805頁)/最高裁平成31年2月19日判決(民集73巻2号187頁)