問題提起
婚姻届を出さないまま長く夫婦として暮らしてきた人が、関係を解消することになった。名義が相手になっている預金や家について、自分の取り分を求められるのか。籍を入れていないから何も求められない、と考えて諦める人もいるが、法律上の扱いは異なる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
婚姻届を出さないまま長く夫婦として暮らしてきた人が、関係を解消することになった。名義が相手になっている預金や家について、自分の取り分を求められるのか。籍を入れていないから何も求められない、と考えて諦める人もいるが、法律上の扱いは異なる。
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から五年を経過したときは、この限りでない。民法768条1項・2項(e-Gov法令検索で原文確認)
民法には、内縁の成立・解消や解消の際の財産分与を直接定めた規定はなく、婚姻に関する規定を類推する形で、判例と裁判例が扱いを示してきた。一方、年金や配偶者暴力防止法などには、届出のない事実婚を対象に含める明文の規定がある(厚生年金保険法3条2項、配偶者暴力防止法1条3項など)。
① 夫婦として暮らす意思。 互いに夫婦として共同生活を送るという意思があること。
② 共同生活の実態。 同居、家計の共同、周囲(親族・職場・近所)からも夫婦として扱われていたことなど。住民票の続柄を「夫(未届)」「妻(未届)」としていた、健康保険の扶養に入っていた、結婚式を挙げていた、なども事情になる。
③ 同棲との違い。 交際中の同居で、夫婦として暮らす意思がはっきりしない場合は、内縁と認められないことがある。
④ 一方に法律上の配偶者がいる場合(重婚的内縁)。 通常の内縁と同じ保護が当然に認められるわけではない。法律上の婚姻が実態を失って事実上の離婚状態にあるかが重要な事情とされるが、求める権利(財産分与・慰謝料・年金など)によって扱いが異なる。内縁として保護されない場合でも、自分の所有権や貸金の返還などの権利まで当然になくなるわけではない。
1. 生前の解消。 財産分与の規定(民法768条)の類推適用が認められ、共同生活の中で協力して取得・維持した財産を分けることを求められる。名義が一方だけでも対象になりうるし、家事・育児による協力も考慮される。共同生活の前からの財産や、相続・贈与で得た財産は、原則として区別される。家庭裁判所の調停・審判を使える。
2. 一方の死亡による解消。 最高裁平成12年3月10日決定は、内縁の夫婦の一方の死亡で内縁関係が解消した場合に、財産分与の規定を類推適用することはできないとした。内縁の配偶者には相続権もないので、生前の遺言や生命保険の受取人の指定などで備えることが大切になる。ただし、財産分与ができないことと、財産上の権利が何もないことは別で、自分の所有権・共有持分、貸金の返還、生前の合意に基づく権利などは別に検討できる。相続人がいない場合は、特別縁故者として残った財産の分与を家庭裁判所に求められることがあるが、当然に認められるわけではなく、相続人を捜す公告の期間が満了した後3か月以内という短い期間がある(民法958条の2)。
実務の視点 内縁の成立を示す資料(住民票の続柄、扶養の記録、家計の口座、写真、親族とのやり取り)を集めておく。財産の資料は、取得の時期だけでなく、お金の出どころや維持への寄与が分かるものも含め、離婚の場合と同じく、関係を解消する前にそろえておく(「別居|家を出る前にそろえる資料と段取り」)。
1. 内縁の成立を示す資料と、共同生活中の財産の資料をそろえる。
2. 相手と、財産の分け方・慰謝料などを話し合う。
3. まとまらなければ、家庭裁判所に、内縁関係の解消に伴う財産分与の調停を申し立てる。慰謝料も調停で話し合える。
4. 財産分与を求める調停が成立しなければ、原則として審判に移る。話し合い全体が自動的に審判に移るわけではなく、慰謝料は、原則として訴訟で求めることになる。
5. 厚生年金の年金分割を使える場合は、年金事務所などに請求の手続をする。合意や裁判の手続だけでは分割は完了しない。事実婚の年金分割では、期限の数え始めになる日(事実婚の解消と認められる日など)の決まり方が離婚と異なることがあり、財産分与の起算点と同じとは限らない。期限は原則5年(2026年4月1日より前の分は2年)だが、裁判の手続に伴う特例や、相手が亡くなった場合など期限が短くなる場面もあるので、早めに年金事務所に確かめる(「年金分割|手続の窓口と期限の数え方」)。
① 籍がなくても財産分与を求められることがある。 生前の解消なら、内縁と認められれば財産分与の規定が類推される。
② 内縁の不当破棄には慰謝料。 内縁を不当に破棄された人は、相手に損害賠償を求められる(最高裁昭和33年4月11日判決)。同じ判決は、内縁の夫婦にも婚姻費用の分担に関する規定(民法760条)が準用されるとした。ただし、一方的に別れを告げられたことだけで当然に慰謝料が認められるわけではなく、解消の理由や関係の状況などが検討される。合意で別れた場合でも、過去の暴力などについては別に損害賠償を求められることがある。財産分与で慰謝料の分まで考慮されていれば、二重には受け取れない。
③ 年金分割は条件付き。 事実婚の期間も、一方が国民年金の第3号被保険者だった期間など、制度上の条件を満たす期間について、年金分割を請求できる場合がある。健康保険の扶養に入っていただけで当然に対象になるわけではない。相手の合意(または裁判の手続)で割合を決める合意分割と、相手の合意が要らない3号分割は別の制度で、対象期間や必要な資料は年金事務所に確認する。
④ 子がいる場合。 結婚していない男女の間の子は、通常、父が認知しなければ法律上の父子関係が生じない。父が認知に応じない場合は、認知の訴えがある。父の死亡後は、原則として死亡の日から3年以内(民法787条ただし書)。死亡を知ることができなかった特別な事情がある場合などに例外的な扱いが問題になることもあるので、3年を過ぎていてもあきらめずに相談する。認知されても、当然に父が親権者になるわけではない。親権・監護・養育費はそれぞれ区別して確かめる。
議論のある点 内縁が成立していたか(同居期間、夫婦として暮らす意思の有無)、いつ解消したといえるか、重婚的内縁をどこまで保護するか、死亡による解消の場合に他の方法でどこまで保護されるかは、事案により判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・長年の事実婚を解消することになったが、財産が相手名義になっている
・相手から一方的に関係を解消された
・相手に法律上の配偶者がいた
・事実婚の相手が亡くなり、住まいや財産をどうすればよいか分からない
・年金分割を使えるか知りたい
・相手が子の認知を拒んでいる、または子の父が亡くなった
・暴力・脅しがある、相手が財産を隠している
関係を解消する前、または解消された直後に相談する。財産の資料は解消の前の方が集めやすい。財産分与・慰謝料・年金分割には、それぞれ期限がある。
内縁(事実婚)は、夫婦として暮らす意思と実態があれば、婚姻に準じて保護される。生前の解消なら財産分与を求められ、不当な破棄には慰謝料を求められる。一方、死亡による解消では財産分与の規定は使えないので、生前の備えが重要になる。
出典
民法724条・724条の2・760条・768条・787条・958条の2(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/令和6年法律第33号附則4条/厚生年金保険法3条2項・78条の2・78条の14/配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律1条3項/最高裁昭和33年4月11日判決(民集12巻5号789頁)/最高裁平成12年3月10日決定(民集54巻3号1040頁)