問題提起
この記事は、主に、まだ合意・調停・審判で支払額が決まっていない婚姻費用の始期を扱う。すでに支払額が決まっている場合の未払いは、別の問題になる。別居して生活費を受け取れないまま数か月が過ぎ、「別居した日からの分をまとめて払ってほしい」と考える人は多い。しかし、家庭裁判所では、別居した日ではなく請求した時からの分しか認められないことが多い。いつから請求したことになるのか、それ以前の分はどうなるのかを整理する。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
この記事は、主に、まだ合意・調停・審判で支払額が決まっていない婚姻費用の始期を扱う。すでに支払額が決まっている場合の未払いは、別の問題になる。別居して生活費を受け取れないまま数か月が過ぎ、「別居した日からの分をまとめて払ってほしい」と考える人は多い。しかし、家庭裁判所では、別居した日ではなく請求した時からの分しか認められないことが多い。いつから請求したことになるのか、それ以前の分はどうなるのかを整理する。
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。民法760条(e-Gov法令検索で原文確認)
始期について定めた条文はなく、家庭裁判所の実務と裁判例で扱いが示されている。金額の決め方は「婚姻費用|別居中の生活費の決め方と算定表」を参照。
① 原則は請求時。 支払う側が知らないうちに多額の未払いが積み上がるのは公平でない、などの理由から、実務では請求時を始期とする考え方が主流とされる。
② 通常は調停・審判の申立ての月。 婚姻費用の分担を求める調停・審判を申し立てた月から認めるのが一般的とされ、その月の分は日割りではなく1か月分とされることが多い。
③ 申立ての前の請求。 内容証明郵便、代理人どうしの書面、メールなどで、婚姻費用の支払を求める意思をはっきり示し、それが相手に届いた時点を証明できれば、その請求の属する月を始期とした裁判例があると説明されている。相手の収入が分からず金額を書けない場合でも、支払を求める意思を示すことはできる。
④ 離婚調停の申立てだけで、当然に婚姻費用も求めたことにはならない。 離婚調停の中で婚姻費用の支払をはっきり求めていた場合は、その時点が請求時と評価されることもあるが、争いを避けるため、婚姻費用の分担を求める調停を別に、または離婚調停と一緒に申し立てる。
実務の視点 内容証明郵便で請求する場合は、配達証明を付けて相手に届いた日を残し、「婚姻費用の分担として月額〇円(または相当額)の支払を求める」と趣旨を明確に書く。メールやメッセージで求めた場合も、画面を保存しておく。事前の通知をせずに調停を申し立てることもでき、始期を争われるおそれを減らすには、早く調停を申し立てるのがよい。
・離婚が成立すると、その後の期間の婚姻費用は生じない(子の生活費は養育費として求める)。
・別居をやめて同居に戻った場合は、別居を前提とした定額の送金が要らなくなることが多いが、婚姻費用の分担の義務そのものは同居中にもある。調停・審判で「離婚又は同居まで」などと終わりの時期が定められていれば、その定めを確かめる。
・離婚前に婚姻費用の審判を申し立て、その審理の途中で離婚した場合でも、離婚までの分について審判を続けられるとされる。
・すでに合意・調停・審判で決まった婚姻費用の未払いは、離婚しても当然になくなるわけではない。分担額を決めないまま離婚しようとしている場合は、離婚の前に相談する。
・婚姻中に一方が多く負担した婚姻費用は、離婚の際の財産分与の額と方法を決めるときに、その清算を含めて考慮できる(最高裁昭和53年11月14日判決)。
1. 相手に、婚姻費用の支払を求める(配達証明付きの内容証明郵便など、記録の残る方法で)。
2. 支払がなければ、家庭裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てる。調停は、原則として相手の住所地か、当事者が合意で決めた家庭裁判所に申し立てる(家事事件手続法245条1項)。審判事件の管轄は夫または妻の住所地である(同法150条3号)。
3. 調停で、双方の収入資料をもとに金額を話し合う。相手が収入資料を出さない場合、家庭裁判所は収入・資産の情報を開示するよう命じることができる(同法152条の2第1項。調停にも準用=258条3項)。正当な理由なく開示しないなどの場合は過料がある(152条の2第3項)。
4. 調停が成立しなければ、審判に移り、裁判官が金額と始期を決める。
5. 生活に困る事情が急ぐ場合は、審判前の保全処分(同法157条1項2号)を求めることも考えられる。
6. 調停調書・審判で決まった額が支払われなければ、給料の差押えなどの強制執行を検討する。
① 「別居した日から」とは限らない。 別居の日を始期とした裁判例もあるとされるが、多くは請求時である。別居と同時に請求するのが確実である。
② 相手が払っていた分が考慮されることがある。 別居後に相手が家賃・光熱費・学費などを直接払っていた場合、既に払った婚姻費用として考慮されることがある。ただし、支払額がそのまま全額差し引かれるとは限らず、特に住宅ローンは、誰が住んでいるか、資産を形成する面があることなどを踏まえて調整される。
③ 夫婦の間の権利の時効には特例がある。 夫婦の一方が他方に持つ権利は、婚姻の解消の時から6か月を経過するまでは時効が完成しない(民法159条)。これは「離婚から6か月で時効になる」という意味ではない。すでに金額が決まった婚姻費用の未払いの時効は、決まり方(合意・調停・審判)、各回の支払期、確定の時に支払期が来ていたかなどで適用される規律が変わる(民法166条・169条)。調停や審判で決まったからといって、将来の分まで一律に10年になるわけではない。長く未払いが続いているなら、早めに確かめる。
④ 有責配偶者からの請求は制限されることがある。 自ら婚姻関係を壊した側が求める場合、本人の生活費の部分は減額・否定されることがある(子の分は別)。
⑤ 財産分与で考慮されるのは「過当な負担」。 夫婦の生活費は半分ずつ負担するものではなく、収入の多い側が多く払うのは本来の分担である。財産分与で清算を考慮してもらえるのは、本来の分担を超えて過当に負担した部分で、支出の差額がそのまま返ってくるわけではない。
議論のある点 始期をいつとするか(請求時・申立時・別居時)は、裁判例に違いがあると説明されている。また、請求前の過去の分をどこまで財産分与で考慮するか、相手が支払っていたローンや家賃をどう差し引くかも、事案により判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・別居してから、まだ一度も婚姻費用を請求していない
・相手が収入を明かさない、または自営業で収入が分かりにくい
・相手が住宅ローンや家賃を払っている家に住んでいる
・過去に自分が多く負担した生活費を取り戻したい
・自分が請求される側で、金額や始期に納得できない
・すでに離婚していて、財産分与の手続をしていない、または期限が近い
・DV があり、住所を知られずに請求したい
別居したらすぐ。請求が1か月遅れれば、その分を後から求めるのは難しくなりうる。できれば別居の前に相談し、別居と同時に請求すると、始期を争われるおそれを減らせる。ただし、危険がある場合は、相談や請求の準備のために避難を遅らせる必要はない。
婚姻費用は、実務では請求した時(多くは調停の申立ての月)からの分とされることが多い。請求の前の分は認められにくいので、別居したら早く記録の残る形で請求し、必要なら調停を申し立てる。過去に多く負担した生活費は、離婚の際に財産分与の中で考慮を求められる。
出典
民法159条・166条・169条・760条・768条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/家事事件手続法150条3号・152条の2・157条1項2号・245条1項・258条3項/令和6年法律第33号附則4条/最高裁昭和40年6月30日大法廷決定(民集19巻4号1114頁)/最高裁昭和53年11月14日判決(民集32巻8号1529頁)