問題提起
DV から避難して新しい住まいに移っても、住民票を移すと、配偶者が住民票の写しや戸籍の附票の写しを取って、転居先を知ってしまうおそれがある。また、離婚調停や訴訟を起こすと、申立書の住所が相手に知られるのではないかと心配になる。住所を守るための制度と、その使い方・限界を整理する。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
DV から避難して新しい住まいに移っても、住民票を移すと、配偶者が住民票の写しや戸籍の附票の写しを取って、転居先を知ってしまうおそれがある。また、離婚調停や訴訟を起こすと、申立書の住所が相手に知られるのではないかと心配になる。住所を守るための制度と、その使い方・限界を整理する。
市町村長は、第一項の規定による請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができる。住民基本台帳法12条6項(e-Gov法令検索で原文確認)
申立て等をする者又はその法定代理人の住所、居所その他その通常所在する場所(以下この項及び次項において「住所等」という。)の全部又は一部が当事者に知られることによって当該申立て等をする者又は当該法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、住所等の全部又は一部を秘匿する旨の裁判をすることができる。(後略)民事訴訟法133条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
DV等支援措置は、住民基本台帳法の交付制限の規定と、総務省の定める事務の取扱いに基づいて行われている。
① 対象者。 配偶者(元配偶者・事実婚の相手を含む)からの暴力、ストーカー行為、児童虐待、これらに準ずる行為の被害者で、加害者が住所を探すおそれがあるなど、支援の必要がある人。身体への暴力がないことや、別居から時間がたっていることだけで一律に対象外になるわけではない。保護命令や刑事処分が出ていることが必須というわけでもない。
② 申出。 住民票のある市区町村(転入先・転居先)に「住民基本台帳事務における支援措置申出書」を出す。住民票を移す手続と同時に申し出ることが多い。
③ 必要性の確認。 市区町村は、警察、配偶者暴力相談支援センター、児童相談所などの意見を聴く、保護命令の決定書の写しを確認するなどの方法で、支援の必要性を確かめる。申し出ただけで、その瞬間からすべての記録が制限されるとは限らない。そのため、事前に警察や支援センターに相談しておくこと、取扱いがいつ始まったかを確かめることが大切。
④ 効果。 加害者からの住民票(除票を含む)の写し、戸籍の附票(除票を含む)の写し、住民基本台帳の一部の写しの閲覧などの請求について、不当な目的によるものなどとして交付・閲覧をさせない扱いになる。加害者の代理人や、加害者から依頼を受けた弁護士などの職務上の請求も制限の対象とされる。
⑤ 期間。 必要性が確認されたことが申出人に連絡された日から1年。期間の終わる前に延長を申し出る。
実務の視点 前の住所地や本籍地の市区町村の記録(前住所の除票や戸籍の附票)からも現住所が分かるため、それらの市区町村での扱いも必要になる。受付の市区町村から連絡してもらえる場合もあるので、どの市区町村のどの記録が対象になったかを窓口で確かめる。一緒に避難した子どもなど、同じ住所にいる家族の記録も、本人の措置だけで当然にすべて守られるとは限らないので、併せて支援を求めるかを確認する(相手に親権がある場合はその事情も伝える)。支援期間中に再び転居するときも、事前に続け方を確かめる。
1. 秘匿決定の申立て(民事訴訟法133条)。 申立てと一緒に、秘匿したい住所などを書いた届出をする。決定が出ると、記録の中では「代替住所A」のような代わりの記載が使われ、届け出た部分の閲覧などは、原則として秘匿された本人側に限られる(同法133条の2第1項)。ただし、決定の取消しや、要件を満たす場合に閲覧を許可する制度もあり、絶対に開示されない保障ではない。そうした書類が裁判所から届いたら、すぐ弁護士に相談する。
2. 他の書類は別に手当てが要る。 秘匿決定は、記録の中の住所をすべて自動で消す制度ではない。申立書・証拠・添付書類に住所などが書かれていれば、別に閲覧の制限を申し立てる必要がある場合がある(同法133条の2第2項)。いったん相手に渡った情報は取り戻せないので、出す前に書き方を確かめる。
3. 家事事件でも使える。 離婚調停などの家事事件の手続にも、この秘匿の規定が準用される(家事事件手続法38条の2)。家事事件の「非開示の希望」の申出は、この秘匿決定とは別の扱いで、希望どおり非開示になるとは限らない。
4. 保護命令の申立て。 避難先を相手に知られないよう、住所欄の書き方や秘匿制度の利用を、提出の前に裁判所・弁護士に確かめる。住民票を避難先に移している場合、住民票上の住所を書くとそのまま避難先が伝わる。以前の住所などを書く扱いが案内されることもあるが、自己判断で書かず、指示に従う(「保護命令|命令の種類と裁判所への申立て」)。
1. 安全な場所に避難する。危険があれば110番。
2. 警察や配偶者暴力相談支援センターに相談する(支援措置の必要性の確認に使われる)。
3. 住民票を移す前に、市区町村の支援の担当窓口に相談し、移す手続と支援措置の申出の段取り(前住所地・本籍地の記録、子の記録を含む)を確かめる。
4. 離婚調停・訴訟・保護命令を申し立てるときは、秘匿の申立てや住所の書き方を、裁判所・弁護士と相談する。
5. 支援措置の期間の終わりを管理し、必要なら延長を申し出る。
① すでに知られた情報は取り消せない。 支援措置は、住民票などから住所が伝わるのを防ぐ制度で、相手がすでに得た情報を消すことはできない。ただし、今もそこに住んでいるかの確認や、次の転居先の追跡を防ぐために、措置がなお必要な場合がある。知られた疑いがあっても制度をあきらめず相談する。
② 第三者の請求が一律に止まるわけではない。 第三者や弁護士などの請求も、請求者や目的が厳しく確かめられるが、債権者や官公署などの正当な請求は、交付されることがある。交付の時に本人の同意が必ず求められる制度でもない。
③ 漏れる経路は住民票だけではない。 郵便物の転送、健康保険や年金の書類、子どもの学校・保育園、SNS の投稿や写真の位置情報など、制度の外から住所が伝わることがある。関係する機関に事情を伝えておく。
④ 住民票の異動は、安全と届出の義務の両面から相談する。 生活の本拠を移した場合は、原則として転入・転居の日から14日以内に届け出る義務がある(住民基本台帳法22条・23条)。一方、避難先が法律上の住所に当たるかなど、DV からの避難では事情によって扱いが変わる。危険を冒して手続を急がず、移す前に市区町村の窓口や支援機関、弁護士に相談する。
⑤ 相手に知られたくない情報を、申立書の添付書類に残さない。 源泉徴収票・給与明細・診断書などに住所や勤務先が書かれていないか、裁判所に出す前に確かめる。
⑥ 本籍・戸籍からも推測されることがある。 支援措置が制限するのは戸籍の附票などで、戸籍謄本・抄本の交付が一律に止まるわけではない。離婚・分籍・転籍のときに避難先と同じ場所を本籍にすると、戸籍を取れる立場の相手に避難先を推測されるおそれがある。本籍の決め方も事前に相談する。
議論のある点 支援措置の対象になるかは、市区町村が支援機関の意見なども踏まえて、事情ごとに判断する。また、裁判所の秘匿決定が認められるか(「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」の疎明)も、事情により判断される。支援措置・保護命令・裁判所の秘匿は要件がそれぞれ違い、一つが使えなくても他が使えないとは限らない。どこまで情報を伏せられるかは手続ごとに異なるので、一般論だけで判断せず、支援機関や弁護士に相談してほしい。
・避難したが、住民票を移すか迷っている
・相手が転居先を探している、または知られた形跡がある
・離婚調停・訴訟を起こしたいが、住所を知られたくない
・支援措置の期間が終わりそう、または延長を断られた
・子どもの学校・保育園の転校手続や、子の住民票から住所が伝わらないか心配だ
・裁判所から、秘匿決定の取消しや閲覧の許可に関する書類が届いた
・相手から調停や訴訟を起こされ、住所を書いた答弁書などを出す必要がある
避難の前か、避難した直後。住民票を移す手続と支援措置の申出は同時に行うのが基本である。裁判所の手続を始める前にも、住所の書き方を相談する。
DV 被害者は、市区町村にDV等支援措置を申し出ると、加害者からの住民票などの交付を制限してもらえる(原則1年・延長可)。裁判所の手続では、住所を秘匿する決定を求められる。ただし、どちらも完全ではないので、ほかの経路から住所が伝わらない工夫と合わせて使う。
出典
住民基本台帳法12条6項・12条の3・20条・22条・23条(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/住民基本台帳の一部の写しの閲覧並びに住民票の写し等及び除票の写し等の交付に関する省令/民事訴訟法133条・133条の2/家事事件手続法38条の2/配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律21条