問題提起
通院を続けて数か月。主治医から「これ以上はあまりよくならないので、症状固定にしましょう」と言われた。症状固定にすると治療費はどうなるのか、後遺症はどう扱われるのか、急に決めてよいものか。症状固定は、賠償の流れが大きく切り替わる節目である。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
通院を続けて数か月。主治医から「これ以上はあまりよくならないので、症状固定にしましょう」と言われた。症状固定にすると治療費はどうなるのか、後遺症はどう扱われるのか、急に決めてよいものか。症状固定は、賠償の流れが大きく切り替わる節目である。
症状固定という言葉は法律に書かれていないが、損害賠償請求権の時効の起算点(「損害及び加害者を知った時」)と深く関わる。
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。民法724条(e-Gov法令検索で原文確認)
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。民法724条の2(e-Gov法令検索で原文確認)
① 症状固定の意味。 一般に認められた治療を続けてもそれ以上の改善が期待できず、症状が安定した状態をいう。一時的に症状をやわらげる治療を続けていても、症状固定とされることがある。
② 損害の区切り。 症状固定日までの治療費・通院交通費・休業損害・入通院の慰謝料は傷害部分として、症状固定後に残った症状による損害は後遺障害部分として請求する。後遺障害部分には、後遺障害の逸失利益と慰謝料のほか、必要性・相当性が認められれば、将来の介護費、装具や車いすの費用、家の改造費なども含まれる。症状固定後の治療費は原則として賠償の対象にならないが、重い後遺障害で症状の悪化を防ぐためなどに必要かつ相当な治療費は、例外的に認められることがある。
③ 時期の決め方。 主治医の判断や後遺障害診断書の記載が重視されるが、裁判では、けがの内容と程度、治療の内容と経過、症状の推移などを踏まえて判断され、主治医が書いた日と違う日が認定されることもある。
④ 時効との関係。 加害者への損害賠償請求権の時効は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から進む(民法724条1号)。最高裁は、後遺障害に基づく損害について、その事案では、遅くとも症状固定の診断を受けた時には損害を知ったものとして、そこから時効が進むと判断した(最判平成16年12月24日・集民215号1109頁)。人の身体を害する不法行為の場合、この期間は5年である(民法724条の2)。これとは別に、不法行為の時から20年の期間もある(民法724条2号)。自賠責保険への被害者請求の権利は、被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年で時効にかかる(自賠法19条)。古い事故では、改正前の、より短い期間が適用される場合がある。20年の期間は、原則として不法行為の時(通常の交通事故では事故の時)から数えるが、加害行為から相当の期間がたってから損害が生じる場合には、損害が生じた時から数えるとされることがある。
1. 被害者は主治医と、症状の推移、これ以上よくなる見込みがあるか、治療をやめた場合の見通しを相談する。
2. 症状固定となったら、被害者は主治医に後遺障害診断書を書いてもらう。痛み・しびれ・動かしにくさなど、残っている症状を具体的に書いてもらうことが大切である。
3. 被害者は後遺障害の等級の認定を申請する。相手方の任意保険会社に任せる「事前認定」と、被害者が自分で自賠責保険会社に請求する「被害者請求」がある(記事「事前認定と被害者請求」参照)。
4. 被害者は、認定された等級などをもとに、後遺障害部分を含めた賠償の話し合いに進む。自賠責保険の等級認定は重要な資料だが、裁判所はこれに拘束されず、非該当や低い等級でも裁判で争える場合がある。
5. 被害者は時効の期間を管理し、話し合いが長引くときは、時効を止める手続を検討する。相手方が支払う義務を認める(承認)と時効はその時から新たに進み直す(民法152条)。協議を行う旨を書面で合意すると、合意から1年、合意で定めた1年未満の期間、相手方から書面で協議を断られてから6か月のうち早い時まで時効の完成が猶予される(民法151条)。訴えを起こす方法もある(民法147条)。加害者への請求と自賠責保険への請求は、それぞれ別に管理する。なお、この流れは自賠責保険が使える事故のもので、等級の認定を受けなくても加害者への請求や訴えはできる。
実務の視点 後遺障害診断書は、等級の認定の中心になる書類である。書いてもらう前に、日常生活や仕事で困っていること(重い物が持てない、長く座れない、天気で痛むなど)をメモにして主治医に伝えると、記載の漏れを防ぎやすい。診断書の写しは必ず手元に残す。
① 保険会社が決めるものではない。 保険会社による治療費の支払の終了、医師による症状固定の判断、実際の治療の終了は、それぞれ別のことである。保険会社から「症状固定にしてください」と言われても、それで症状固定が決まるわけではない。まず主治医と相談する。
② 症状固定後も通院してよい。 症状固定後も自費や健康保険で通院を続けることはできる(交通事故で健康保険を使うときは届出が必要。仕事中・通勤中の事故は労災保険の扱いを確かめる)。ただ、その治療費は原則として賠償の対象にならない。
③ 早すぎても遅すぎても問題になる。 早すぎる症状固定は治療の機会や傷害部分の賠償を失うおそれがあり、遅すぎると治療期間の相当性が争われ、時効の管理も難しくなる。
④ 時効は事故の時から進んでいることもある。 治療費や休業損害などの傷害部分の時効は、通常の交通事故では事故の当日に損害と加害者を知るので、事故の時から進むことが多い(加害者が分からなかった場合などは別に検討する)。5年の期間を定めた民法724条の2は2020年4月1日施行の改正で設けられたもので、その施行の際に改正前の3年の時効がすでに完成していた場合には適用されない(平成29年法律第44号附則35条2項)。また、施行の際に改正前の20年の期間がすでに経過していた場合は、改正前の規定による(同附則35条1項)。
議論のある点 症状固定の時期は、主治医の判断、症状の推移、治療の効果などで争われることが多く、特にむち打ちなど画像で異常が見えにくいけがでは見解が分かれやすい。時効の起算点も、症状の現れ方などによって判断が分かれうる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・主治医から症状固定と言われたが、まだ症状が強い
・保険会社から症状固定や治療の終了を求められている、治療費の支払を打ち切られた
・後遺障害診断書を書いてもらう前に、書き方を確かめたい
・後遺障害の申請を自分で行うか、保険会社に任せるか迷っている
・後遺障害の認定が非該当だった、等級が低かった
・事故や症状固定から長い時間がたち、時効が心配だ
・示談書や免責証書への署名を求められている(後遺障害の請求を残すか確かめたい)
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
相談は症状固定の前からできる。必要な検査や症状の記録は治療中から大切になるので、症状が長引くとき、支払の打切りを告げられたときは早めに相談し、遅くとも後遺障害診断書を書いてもらう前に相談するのがよい。
症状固定は、治療を続けてもそれ以上よくならず症状が安定した状態で、賠償では傷害部分と後遺障害部分の区切りになる。時期は主治医の判断が重視されるが、最終的には示談や裁判の中で判断される。後遺障害の部分の時効は損害と加害者を知った時から進み、症状固定の診断の時が基準とされることがあるので、申請と時効の管理を早めに進めるとよい。
出典
民法147条・151条・152条・724条・724条の2/平成29年法律第44号附則35条/自動車損害賠償保障法19条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/最判平成16年12月24日(平成14年(受)第1355号)集民215号1109頁