問題提起
自転車で走っていて、歩道で歩行者とぶつかってしまった。相手は転んでけがをし、入院した。自転車には自動車のような強制保険がない。自分はどこまで責任を負うのか、子どもが起こした事故なら親はどうなるのか。自転車の事故でも、責任は重くなりうる。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
自転車で走っていて、歩道で歩行者とぶつかってしまった。相手は転んでけがをし、入院した。自転車には自動車のような強制保険がない。自分はどこまで責任を負うのか、子どもが起こした事故なら親はどうなるのか。自転車の事故でも、責任は重くなりうる。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。民法709条(e-Gov法令検索で原文確認)
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。民法712条(e-Gov法令検索で原文確認)
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。民法714条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
① 自転車には自賠法が適用されない。 自賠法の「自動車」は、道路運送車両法の自動車と原動機付自転車をいう(自賠法2条1項)。自転車は道路交通法上の軽車両で(道路交通法2条1項11号)、自賠法の運行供用者責任(3条)や自賠責保険の対象にならない。被害者は民法709条に基づき、加害者の過失などを主張・立証して賠償を求めることになる。なお、ペダルが付いていても、いわゆるモペットやフル電動の自転車などは原動機付自転車などに当たり、自賠責保険への加入や免許が必要になる場合がある。
② 過失。 前をよく見ていなかった、速度を出しすぎた、スマートフォンを見ながら運転した、などの不注意があれば過失が認められやすい。普通自転車が歩道を通行できる場合でも、原則として歩道の中央から車道寄りの部分を徐行し、歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止しなければならない(道路交通法63条の4第2項)。
③ 加害者が子どもの場合。 責任能力がなければ子ども本人は賠償責任を負わず、親権者などの法定の監督義務者が責任を負う。ただし、監督義務者は、監督義務を怠らなかったこと、または怠らなくても損害が生じたことを証明すれば責任を免れる(民法714条1項ただし書)。責任能力の有無は、小学生か中学生かで一律に決まるものではなく、年齢、発達の状況、行為の性質などから判断される。子どもに責任能力があれば子ども本人が賠償責任を負い、親の監督の怠りと事故との間に因果関係があれば、親も709条で責任を負うことがある。
④ 裁判例。 11歳の子が運転する自転車が歩行者と衝突した事故で、唯一の親権者である親に対し、民法714条1項に基づき、被害者への約3,520万円と、被害者に人身傷害保険金を支払った保険会社への約6,000万円の支払を命じた例がある(神戸地判平成25年7月4日・判時2197号84頁)。
⑤ 仕事中の事故。 配達など仕事として自転車を運転していた場合は、雇い主が使用者責任(民法715条)を負うことがある。
⑥ 刑事責任。 不注意で人にけがをさせれば過失傷害罪(刑法209条。告訴がなければ起訴されない)、人を死亡させれば過失致死罪(刑法210条)、重大な過失があれば重過失致死傷罪(刑法211条後段)に問われることがある。仕事として運転していた場合は業務上過失致死傷罪(同条前段)が問題になる。14歳未満の子どもの行為は罰せられない(刑法41条)。
1. 自転車を運転していた人は、その場で自転車を止め、けが人を救護し、警察に届け出る。自転車も道路交通法上の車両で、事故のときの救護・報告の義務がある(道路交通法72条1項)。
2. 相手の連絡先を確かめ、自分の連絡先を伝える。目撃者がいれば連絡先を聞く。
3. 自分や家族が入っている保険(自転車保険、自動車保険・火災保険・傷害保険の個人賠償責任特約、クレジットカード付帯の保険など)を確かめ、保険会社に速やかに連絡する。
4. 保険会社や弁護士と相談しながら、治療費の支払や示談の話し合いを進める。その場で賠償額を約束したり、念書を書いたりしない。
実務の視点 個人賠償責任保険は、自動車保険や火災保険の特約として、家族も対象になっていることが多い。ただし、「家族」の範囲、支払の限度額、示談交渉のサービスの有無、仕事中の事故を対象外とする条項などは約款で決まるので確かめる。多くの自治体は、条例で自転車の利用者に損害賠償責任保険等への加入を義務づけたり、努力義務としたりしている。住んでいる地域だけでなく、自転車を使う地域の条例も確かめる。
① 自転車でも賠償額は自動車と同じ考え方で計算される。 けがの程度が同じなら、治療費・休業損害・慰謝料・後遺障害の損害の考え方は自動車の事故と大きく変わらない。
② 歩道は歩行者優先。 自転車が歩道を通れる場合でも、徐行や一時停止の義務があり、事故になれば自転車側の過失が大きく見られやすい。
③ 被害者側の過失。 被害者にも過失が認められれば、その内容・程度を考慮して賠償額が減らされることがある(民法722条2項)。ただし、歩行者が急に現れたというだけで、当然に歩行者の過失が認められるわけではない。
④ 保険がないと自分で払うことになる。 自賠責保険のような最低限の保険はないので、保険に入っていなければ、賠償金は加害者が自分の財産から払うことになる。
議論のある点 子どもの責任能力の有無、親の監督義務の内容と、監督を怠らなかったといえるか、責任能力のある子の事故で親が709条の責任を負うか、自転車と歩行者の過失割合は、事故の状況や子どもの年齢・発達の状況などで判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・相手のけがが重い、後遺障害が残りそうだ
・保険に入っていない、保険の対象になるか分からない
・子どもが起こした事故で、親として責任を問われている
・仕事中(配達など)の事故だった
・相手から高額の請求を受けた、念書を求められている
・警察から事情を聴かれている、刑事手続が心配だ
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
事故の直後、相手と賠償の約束をする前に、まず保険会社に連絡し、必要に応じて弁護士に相談するとよい。刑事手続で警察から呼出しを受けた場合や、訴状などの裁判所の書類が届いた場合も早めに相談する。
自転車には自賠責保険がなく、運転していた人は民法709条で賠償責任を負うことがある。責任能力のない子どもの事故では、親が監督義務者として原則として責任を負い(子どもに責任能力があれば、親の責任は親自身の過失などから判断される)、高額の賠償を命じた裁判例もある。家族の保険を含めて補償を確かめ、相手との約束の前に保険会社や弁護士に相談するとよい。
出典
民法709条・712条・714条・715条・722条2項・724条・724条の2/自動車損害賠償保障法2条1項・3条/道路交通法2条1項11号・63条の4・72条1項/刑法41条・209条・210条・211条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/神戸地判平成25年7月4日(平成23年(ワ)第2572号)判時2197号84頁