問題提起
むちうちで半年通院したが、首の痛みとしびれが残っている。医師からは「そろそろ症状固定」と言われた。後遺症が残ったときは、後遺障害の等級の認定を受けるかどうかで賠償額が大きく変わる。認定を受けるまでの手続を整理する。通院の期間だけで症状固定や等級が決まるわけではない。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
むちうちで半年通院したが、首の痛みとしびれが残っている。医師からは「そろそろ症状固定」と言われた。後遺症が残ったときは、後遺障害の等級の認定を受けるかどうかで賠償額が大きく変わる。認定を受けるまでの手続を整理する。通院の期間だけで症状固定や等級が決まるわけではない。
自賠責保険の保険金額は政令で定められ、後遺障害は等級ごとに定められている。
法第十三条第一項の保険金額は、死亡した者又は傷害を受けた者一人につき、次の各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める金額とする。……二 介護を要する後遺障害(傷害が治つたとき身体に存する障害をいう。以下同じ。)をもたらす傷害を受けた者……三 傷害を受けた者(前号に掲げる者を除く。)……ヘ 別表第二に定める等級に該当する後遺障害が存する場合(ロからホまでに掲げる場合を除く。)における当該後遺障害による損害 当該後遺障害の該当する等級に応ずる同表に定める金額自動車損害賠償保障法施行令2条1項(一部省略)(e-Gov法令検索で原文確認)
後遺障害は、介護を要するもの(別表第一・1級と2級)と、それ以外(別表第二・1級から14級)に分けられ、等級ごとに保険金額が定められている。この金額は自賠責から支払われる額の上限で、等級が付けば必ずその全額が支払われるわけではなく、加害者に請求できる賠償額の上限でもない。後遺障害が複数ある場合や、もともと障害があった部位の場合は、別の計算の決まりがある(同条1項3号ロ〜ホ・2項)。
①症状固定。治療を続けても医学的にそれ以上の改善が見込めない状態。症状固定の時点で残っている症状が、後遺障害として評価される。主治医の医学的判断が重要だが、賠償上の症状固定の時期に争いがあれば、最終的には裁判所が治療の経過などから判断する。保険会社による治療費の支払の打切りが、そのまま症状固定を意味するわけではない。
②後遺障害診断書。主治医に作成してもらう。自覚症状、検査結果(画像・神経学的検査など)、症状の経過、日常生活や仕事への支障を、具体的に書いてもらうことが重要になる。
③申請の方法。以下は、相手方の自動車の自賠責保険に請求できる事故の通常の手続である。
・事前認定:相手の任意保険会社が一括して対応している場合に、その保険会社が資料を集めて申請する。手間は少ないが、提出資料の内容を被害者が把握しにくい。被害者の側から資料の追加を求めることはできる。
・被害者請求:被害者が自賠責保険会社に直接請求する(自賠法16条1項)。必要な資料を自分でそろえる手間はあるが、提出内容を把握でき、意見書や追加の検査結果などを補える。認定され、既払金などを差し引いても支払われる分があれば、示談の前でも自賠責から支払を受けられる。
相手が分からない(ひき逃げ)、相手の車が自賠責保険に入っていない、自分だけの事故、といった場合は、政府保障事業や自分の保険など別の制度を検討する。
④調査と支払の判断。通常の自賠責保険では、損害保険料率算出機構(その調査事務所)が調査し、その結果を踏まえて保険会社が支払を判断する。支払は、国が定めた支払基準に従って行われる(自賠法16条の3)。ただし、この支払基準は、自賠責保険会社に支払を求める訴訟で裁判所を拘束するものではない(最高裁平成18年3月30日判決)。
実務の視点 通院中から、症状を医師に具体的に伝え、カルテに残るようにする。通院は医師の指示と症状に応じて続け、やむを得ず間隔が空くときは、その事情を医師に伝えて記録に残す。認定のためだけに不要な通院や検査を増やす必要はない。むちうちのように画像に映りにくい症状は、事故の状況、通院の経過、症状の一貫性が重視されるので、通院記録と症状のメモを残しておく。
①症状固定 → ②後遺障害診断書の作成 → ③事前認定または被害者請求で申請 → ④調査・判断 → ⑤結果の連絡。被害者請求に対して保険会社が支払を行ったときは、支払った金額、後遺障害の該当する等級、その等級に該当すると判断した理由などを書いた書面を交付しなければならず(自賠法16条の4第2項)、支払わないこととしたときは、その理由を書いた書面を交付しなければならない(同条3項)。交付された書面の内容について、さらに説明を求める仕組みもある(同条4項・国土交通省令等による)。事前認定の場合は、相手の任意保険会社に認定の結果と理由の書面を確かめる → ⑥(不服があれば)異議申立て、指定紛争処理機関への調停の申請(自賠法23条の5・23条の6)、または訴訟。
異議申立て:認定の理由を読み、足りなかった資料(医師の意見書、追加の画像検査など)を補ったり、既存の資料の評価や基準の当てはめを争ったりして、改めて判断を求める。紛争処理:国が指定した紛争処理機関に、自賠責保険の支払についての紛争の調停を申請できる。加害者との損害賠償全体を扱う手続ではなく、対象となる事案や再度の申請には制限があるので、申請前に機関の案内を確かめる。訴訟:これらの手続を経なくても訴訟は起こせる。訴訟は自賠責の判断を取り消す手続ではなく、裁判所は、損害賠償の請求について、証拠に基づいて後遺障害の有無・程度と損害額を判断する。
①等級の影響。等級は、後遺障害慰謝料や将来の収入の減少分(逸失利益)を算定するときの重要な資料になる。ただし、逸失利益は等級だけで自動的に決まるのではなく、障害が仕事や家事に与える影響、基礎収入、影響が続く期間などで判断される。いま収入が減っていなくても認められることがある。
②非該当でも諦めない。自賠責で非該当になると、自賠責から後遺障害分は支払われないが、加害者への請求が法律上当然に否定されるわけではない。理由を読み、資料を補えば、異議申立てで結論が変わることもある。
③症状固定を急がされたら。保険会社が症状固定を決めるわけではない。治療の必要があるのに治療費の支払を打ち切ると言われたら、主治医に相談し、健康保険の利用や治療費の請求について相談する。
④自賠責の結果と裁判。裁判所は自賠責の認定に拘束されないが、実際には自賠責の認定が重視されることが多く、異なる判断を求めるには十分な医学的な証拠が必要になる。
議論のある点 次の点は、医学的な資料と事情によって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
①むちうちの等級。むちうちなどの神経症状では、別表第二の12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)と14級9号(局部に神経症状を残すもの)への該当が問題になることが多い。実務上、症状が医学的に「証明」できるか、「説明」できるかという区別が使われると説明されているが、画像所見の有無だけで機械的に決まるものではなく、事故の状況、診療の経過、検査所見などを総合して判断される。
②事前認定と被害者請求のどちらを選ぶか。けがの内容、所見の有無、保険会社の対応によって適した方法が変わる。
③症状固定の時期。治療の効果の評価が医師と保険会社で分かれることがある。
・症状が残っており、症状固定を告げられた(告げられそう)
・治療が必要なのに、治療費の支払を打ち切ると言われた
・事故と症状の因果関係や、もともとの病気・加齢を理由に争われている
・後遺障害診断書の書き方を医師に相談したい
・非該当や予想より低い等級の結果が出た
・高次脳機能障害(事故後に記憶・性格・行動が変わったなど)、神経症状など、資料のそろえ方が難しいけが
・症状が残っているのに、等級の結果が出る前の示談や「今後請求しない」という合意を求められた
・相手が分からない、無保険、または責任を否定している
・事故から時間がたち、時効が心配
後遺障害診断書を作ってもらう前(症状固定の前後)の相談は特に役立つ。ただし、治療費の打切りや示談の要求、因果関係の争いがあれば、症状固定を待たずに相談する。次の期間に注意する。
・加害者への損害賠償請求(不法行為に基づく請求):被害者(またはその法定代理人)が損害と加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害した場合は5年)、不法行為の時から20年を経過すると時効で消滅しうる(民法724条・724条の2)。物の損害(車の修理費など)は3年。後遺障害の損害は、遅くとも症状固定の診断を受けた時から進むとした判例がある(最高裁平成16年12月24日判決。事前認定で非該当となり、その後の異議申立てで等級が認定された事案)。等級認定や異議申立ての結果が出る時まで遅れるわけではない。
・古い事故:2020年4月1日の時点で改正前の3年の時効が完成していた場合は5年の規定は適用されず、同日の時点で改正前の20年の期間が過ぎていた場合はなお改正前の規定による(平成29年法律第44号附則35条)。
・自賠責保険への被害者請求:被害者(またはその法定代理人)が損害と保有者を知った時から3年で時効にかかる(自賠法19条)。後遺障害の分は、実務上、症状固定日を基準に数える扱いが多いとされるが、認定結果の通知日から数えればよいとは限らないので、具体的な起算日は個別に確かめる。古い事故では、改正前の、より短い期間が問題になるほか、起算点についても改正前の規定と経過措置の確認が必要になる。
・手続中も時効への対応が必要:申請・異議申立て・交渉をしているだけで、手続が終わるまで当然に時効の完成が猶予されたり更新されたりするわけではない。相手の債務の承認(民法152条)、協議を行う旨の書面での合意(同151条)、訴えの提起などの方法がある。保険会社の支払や内払が債務の承認に当たり、時効が更新されることもあるが、どの請求権に及ぶかは個別に確認する。催告(請求の通知)をすると、その時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予されるが、その猶予中に再び催告しても猶予は延びない(同150条)。加害者への請求と自賠責への請求は、別々に期限を管理する。
後遺症が残ったら、症状固定の後に後遺障害診断書を作ってもらい、事前認定か被害者請求で等級の認定を申請する。被害者請求では支払・不支払の際に法定の書面が交付され(事前認定では任意保険会社に結果と理由を確かめる)、不服があれば資料を補って異議申立てや紛争処理、訴訟ができる。等級は賠償額を大きく左右し、時効は認定の結果を待たずに進むので、早めに相談することが大切である。
出典
民法150条・151条・152条・724条・724条の2/自動車損害賠償保障法3条・16条1項・16条の3・16条の4・19条・23条の5・23条の6、同法施行令2条・別表第一・第二/平成29年法律第44号附則35条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-18〜19)/最高裁平成16年12月24日判決(集民215号1109頁)/最高裁平成18年3月30日判決(民集60巻3号1242頁)