問題提起
痛みやしびれが残っているのに、後遺障害の認定結果は「非該当」。あるいは、思っていたより低い等級だった。認定された等級は、後遺障害の慰謝料や逸失利益の額を大きく左右するので、納得できなければ争う道を考えたい。ただ、やみくもに申し立てても結果は変わりにくい。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
痛みやしびれが残っているのに、後遺障害の認定結果は「非該当」。あるいは、思っていたより低い等級だった。認定された等級は、後遺障害の慰謝料や逸失利益の額を大きく左右するので、納得できなければ争う道を考えたい。ただ、やみくもに申し立てても結果は変わりにくい。
国土交通大臣及び内閣総理大臣は、保険金等又は共済金等の支払に係る紛争(以下「紛争」という。)の公正かつ適確な解決による被害者の保護を図ることを目的とする一般社団法人又は一般財団法人であつて、次条第一項に規定する業務(以下「紛争処理業務」という。)に関し次に掲げる基準に適合すると認められるものを、その申請により、紛争処理業務を行う者として指定することができる。自動車損害賠償保障法23条の5第1項柱書。以下「自賠法」(e-Gov法令検索で原文確認)
指定紛争処理機関は、次に掲げる業務を行うものとする。
一 紛争の当事者である保険会社、組合、被保険者、被共済者又は被害者からの申請により、当該紛争の調停(以下「紛争処理」という。)を行うこと。自賠法23条の6第1項1号(e-Gov法令検索で原文確認)
方法|主な特徴
保険会社への異議申立て|被害者が、認定の結果を通知した保険会社(被害者請求なら自賠責保険会社、事前認定なら任意保険会社)に申し立て、損害保険料率算出機構で再び調査される。回数の制限はないとされる
指定紛争処理機関への申請|被害者などの申請により、機構が自賠責保険・共済の支払に関する紛争について調停を行う。書面で審査され、申請の手数料はかからない(資料をそろえる費用や弁護士費用は別)。機構の取扱いでは、同じ事案で申請できるのは1回とされている
裁判|被害者が、加害者などへの損害賠償請求や、自賠責保険会社への支払請求の裁判の中で、後遺障害の有無・程度を争う。裁判所は自賠責保険の認定に拘束されず、証拠に基づいて独自に判断する。ただし、自賠責保険の認定は重視されることが多く、異なる判断を得るには十分な医学的立証が要る。自賠責保険会社への請求では、損害賠償額の元本は支払の限度額までである(保険会社自身の支払の遅れによる遅延損害金は別に問題になる)
(指定紛争処理機関には、同じ紛争が訴訟や調停に係属している場合などに申請を受け付けない扱いがあるので、裁判の前に手続の選び方を確かめる。)
1. 被害者は、認定の結果の通知と、その理由を読む。どの症状が、なぜ認められなかったのか(画像の所見がない、症状の一貫性が認められない、など)を確かめる。
2. 被害者は、理由に反論する材料を検討する。主治医の意見書、追加の検査(MRIなど)の結果、神経学的検査の結果、カルテの記載、日常生活の状況を示す資料などがある。追加の検査が必要かは、医学的な必要性を主治医と相談して決める。
3. 被害者は、保険会社に異議申立書と資料を出す。事前認定で認定を受けた場合でも、被害者請求の形で自賠責保険会社に直接、異議申立てをすることができる。
4. 結果になお不服があれば、被害者は、指定紛争処理機関への申請や、裁判を検討する。
5. どの段階でも、被害者は、自賠責保険への請求権と加害者への請求権の時効を確かめ、必要なら時効を止める手続(相手方の承認を得る、訴えを起こすなど)をとる。異議申立書で支払を求めることが催告に当たれば、6か月間は時効の完成が猶予されることがあるが(民法150条)、繰り返して延ばすことはできず、加害者への請求権には当然には及ばない。2020年4月1日施行の改正の経過措置として、施行の際に改正前の3年の時効がすでに完成していた場合には5年は適用されず(平成29年法律第44号附則35条2項)、施行の際に改正前の20年の期間がすでに経過していた場合は改正前の規定による(同条1項)。自賠責保険についても、古い事故では、改正前の、より短い期間が適用される場合がある。
実務の視点 認定の理由は短く書かれていることが多いが、どの資料のどの点が足りなかったかを読み解くことが出発点になる。主治医に意見書を頼むときは、認定の理由を見せたうえで、何に答えてほしいかを具体的に伝えると、的を射た意見書になりやすい。
① 同じ資料で同じ主張を繰り返しても結果は変わりにくい。 回数に制限がなくても、認定の理由に応える材料がなければ結論は変わりにくい。
② 紛争処理機関への申請は1回限りの扱い。 先に異議申立てで資料を出し尽くしてから申請する方が有効なことが多い。保険会社は機構の調停の結果に従う扱いだが、被害者は結果に不服があれば裁判で争える。
③ 裁判所は自賠責の認定や支払基準に縛られない。 裁判所は、自賠責保険の個別の等級認定に拘束されず、証拠に基づいて判断する。また、最高裁は、被害者が自賠責保険会社に直接支払を求める訴訟でも、裁判所は自賠法16条の3の支払基準に拘束されないとした(最判平成18年3月30日・民集60巻3号1242頁)。
④ 労災の認定と結果が違うこともある。 同じ事故でも、労災保険と自賠責保険で等級の判断が分かれることがあり、一方の認定が他方を当然に拘束するものではない。労災の手続で作られた医学的な資料が、自賠責保険の異議申立てに役立つことがある。
⑤ 示談をすると追加の請求が制限されることがある。 等級を争えることと、加害者に追加の賠償を請求できることは別の問題である。示談書の清算条項や裁判上の和解によって、後に等級が変わっても追加の請求ができなくなることがある。後遺障害を争う予定があるときは、示談の前に相談する。一方、示談の時に予想できなかった後遺障害などは、示談の内容や経緯によっては追加の請求ができる場合もあるので、示談した後でも相談してほしい。
議論のある点 神経症状の等級では、一般に、障害の存在を画像などの他覚的な所見で医学的に証明できるか(12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」)、証明まではできなくても症状の続いていることを医学的に説明できるか(14級9号「局部に神経症状を残すもの」)が区別の目安とされるが、どちらに当たるかは、画像の所見、神経学的検査、症状の一貫性、事故の大きさなどで判断が分かれる。どの手続をどの順で使うかも、資料の状況と見込みで変わる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・認定の結果が「非該当」だった、思っていたより低い等級だった
・認定の理由が読んでも分からない
・主治医にどんな意見書を頼めばよいか分からない
・異議申立てで結論が変わらなかった
・示談書への署名を求められているが、後遺障害を争いたい
・事故や症状固定から長い時間がたち、時効が心配だ
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
認定の結果の通知を受けたら、異議申立てをする前に相談するのがよい。出す資料の選び方や、手続の順番で結果が変わることがある。
後遺障害の認定結果に不服があれば、異議申立て、指定紛争処理機関への申請、裁判の道がある。結論を変えるには、認定の理由に具体的に応える資料と主張が大切である。手続中も時効は当然には止まらないので、自賠責保険と加害者への請求の期間をそれぞれ管理し、早めに弁護士に相談するとよい。
出典
自動車損害賠償保障法16条の3・19条・23条の5・23条の6/自動車損害賠償保障法施行令別表第二/民法150条・724条・724条の2/平成29年法律第44号附則35条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/最判平成18年3月30日(平成17年(受)第1628号)民集60巻3号1242頁