問題提起
青信号で交差点に入ったのに、相手の保険会社から「あなたにも2割の過失がある」と言われた。過失割合は、受け取る賠償額を直接左右する。過失割合がどう決まるのか、納得できないときにどうすればよいかを整理する。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
青信号で交差点に入ったのに、相手の保険会社から「あなたにも2割の過失がある」と言われた。過失割合は、受け取る賠償額を直接左右する。過失割合がどう決まるのか、納得できないときにどうすればよいかを整理する。
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。民法722条2項(e-Gov法令検索で原文確認)
条文は「できる」と定めており、減らすかどうか・どの程度減らすかは裁判所が判断する。例えば認定された損害が1,000万円で、20%の過失相殺をすれば、過失相殺後の額は800万円になる。実際に受け取る額には、既に支払われた額などの調整が加わる。過失割合が1割違うだけで、受け取る額が大きく変わる。
①事故の類型。四輪車同士、四輪車と歩行者、自転車、単車など当事者の組み合わせと、交差点(信号の有無)、追突、進路変更、駐車場内など事故の態様で分類する。
②基本の過失割合。類型ごとに、特別な事情がない場合の割合が示された基準がある。裁判所の実務家がまとめた基準(いわゆる別冊判例タイムズの基準など)が、保険会社との交渉や裁判で広く目安として使われている。
③修正要素。速度違反、合図をしなかったこと、見通しの悪さ、幹線道路かどうか、歩行者が子どもや高齢者か、夜間か、など当事者の行動や属性によって、基本の割合を加減する。どの事情が修正要素になるか、どれだけ修正するかは類型ごとに異なり、基本の割合にすでに織り込まれている事情を重ねて評価することはしない。
④証拠による事実認定。どの類型に当たるか、修正要素があるかは、証拠で認められた事実によって決まる。信号の色や速度について双方の言い分が食い違うことは多い。
実務の視点 事故直後から証拠を残す。ドライブレコーダーの映像は上書きされる前に保存し、複製を作る。事故現場、車の損傷、ブレーキ痕の写真、目撃者の連絡先も記録する。警察が作成した実況見分調書などの刑事記録は、事件の段階(捜査中か、起訴されたか、不起訴か)によって取り寄せの方法や範囲が異なるので、早めに確認する。
①保険会社に、過失割合の根拠(どの類型・どの修正要素を使ったか、その前提となる事実)を書面で出してもらう → ②自分の側の証拠(映像・写真・記録)を整理し、反論する → ③まとまらなければ、交通事故紛争の相談・あっせん機関の利用や、訴訟を検討する。訴訟では、裁判所が証拠をもとに過失割合を判断する。期限が近いときは、交渉の順番にこだわらず時効への対応を優先する。
①停止中か走行中かだけでは決まらない。適法に信号待ちで停止していた車が通常の追突をされた場合は、原則として追突された側に過失はないとされる。走行中であっても、相手の赤信号無視などによって過失がないとされることはある。反対に、停止中でも、危険な駐停車などが事故の原因になっていれば過失が認められることがある。
②被害者側の過失。被害者本人が幼児の場合、722条2項の「被害者の過失」には、被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられる関係にある者(親など)の過失も含まれる(最高裁昭和42年6月27日判決)。夫が運転する車に同乗していた妻が、夫と第三者の双方の過失による事故でけがをした場合、婚姻関係がすでに破綻しているなどの特段の事情がない限り、夫の過失を被害者側の過失として考慮できる(最高裁昭和51年3月25日判決)。保育所の職員など、子の世話を任されていただけの人は、通常、被害者と一体とはいえず、その人の過失が当然に差し引かれるわけではないと説明されている。
③子ども本人の過失。子ども本人の過失を考慮するには、その子に、物事の是非を判断できる程度の能力(事理を弁識する能力)が必要と説明されている。これは、加害者として賠償責任を負うための能力とは別のものである。
④自分の保険の確認。裁判の過失相殺で減らされた自分の過失分は、相手から受け取れない。ただし、自分の自動車保険の人身傷害保険や車両保険で補える場合がある。補償の範囲は契約内容で決まるので、約款を確かめる。
⑤自賠責保険の扱い。自賠責保険は人身損害が対象で、車の修理費などの物損は対象外である。支払は、国が定めた支払基準に従って行われ(自賠法16条の3)、被害者の過失は、通常の過失相殺のように割合どおり減らすのではなく、原則として被害者の過失が7割以上の場合に限って一定の減額をする扱いとされている(減額の方法は傷害・後遺障害・死亡で異なる)。ただし、相手側の保有者に損害賠償責任(自賠法3条)があることが前提で、相手側に責任がない場合にまで減額して支払われるわけではない。なお、この支払基準は、自賠法16条1項に基づいて自賠責保険会社に支払を求める訴訟で裁判所を拘束しない(最高裁平成18年3月30日判決)。保険金額の上限はこれとは別に適用される。
⑥自分は無過失と考えるとき。自分に賠償責任がないと、自分の保険会社に示談交渉を代行してもらえないことがある。弁護士費用特約が使えるかを確かめる。
議論のある点 次の点は、証拠と事情によって判断が分かれる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
①基準の類型に収まらない事故。駐車場内の複雑な動きや、複数の類型にまたがる事故などは、近い類型を参考にしつつ個別に判断される。自転車同士の事故にも参考となる基準はあるが、具体的な態様によっては個別の検討が要る。
②修正要素の有無。「著しい前方不注視」「速度違反」などの修正要素があったかどうかは、証拠の評価によって分かれる。
③被害者側の過失の範囲。親以外の親族などの過失をどこまで被害者側として考慮するかは、具体的な関係によって判断が分かれる。
・保険会社が示す過失割合に納得できない
・示談書や免責証書への署名、過失割合への同意を求められている
・信号の色や速度について相手と言い分が食い違っている
・ドライブレコーダーの映像や目撃者がいる(またはいない)
・自分は無過失だと考えているが、自分の保険会社が示談交渉を代行できない
・子どもや高齢者が被害に遭った
・後遺障害が残り、過失割合の違いで賠償額が大きく変わる
・時効が近い、または起算点が分からない
証拠(映像・現場の状況)は時間とともに失われる。事故の直後に映像を保存し、早めに相談するのが望ましい。示談が成立すると、合意した過失割合を後から争うのは難しくなるので、同意の前に相談する。次の期間に注意する。
・加害者への損害賠償請求(不法行為に基づく請求):被害者(またはその法定代理人)が損害と加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害した場合は5年)、不法行為の時から20年を経過すると時効で消滅しうる(民法724条・724条の2)。物の損害(車の修理費など)は3年。けがの損害は、通常、事故の時から時効が進みうる。後遺障害の損害は、遅くとも症状固定の診断を受けた時から進むとした判例がある(最高裁平成16年12月24日判決)。
・古い事故:2020年4月1日の時点で改正前の3年の時効が完成していた場合は5年の規定は適用されず、同日の時点で改正前の20年の期間が過ぎていた場合はなお改正前の規定による(平成29年法律第44号附則35条)。
・自賠責保険への被害者請求:被害者(またはその法定代理人)が損害と保有者を知った時から3年で時効にかかる(自賠法19条)。古い事故では、改正前の、より短い期間が問題になるほか、起算点についても改正前の規定と経過措置の確認が必要になる。
・交渉しているだけでは、当然には時効は止まらない:相手の債務の承認(民法152条)、協議を行う旨の書面での合意(同151条)、訴えの提起などの方法がある。保険会社の支払や内払が債務の承認に当たり、時効が更新されることもあるが、どの請求権に及ぶかは個別に確認する。催告(請求の通知)をすると、その時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予されるが、その猶予中に再び催告しても猶予は延びない(同150条)。加害者への請求と自賠責への請求は、別々に期限を管理する。
過失割合は、事故の類型ごとの基本の割合に、速度や合図などの修正要素を加減して、証拠で認められた事実をもとに決まる。基準は目安であり、裁判所を縛るものではない。停止中か走行中かだけでは決まらない。映像や記録を早く残し、保険会社に根拠を書面で求め、同意の前に相談することが、納得のいく解決の第一歩である。
出典
民法150条・151条・152条・722条2項・724条・724条の2/自動車損害賠償保障法16条の3・19条/平成29年法律第44号附則35条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-18〜19)/最高裁昭和42年6月27日判決(民集21巻6号1507頁)/最高裁昭和51年3月25日判決(民集30巻2号160頁)/最高裁平成16年12月24日判決(集民215号1109頁)/最高裁平成18年3月30日判決(民集60巻3号1242頁)