問題提起
交通事故の被害にあい、相手方の保険会社と話がかみ合わない。弁護士に頼みたいが、費用が心配で踏み出せない。こうしたとき、自分や家族が入っている自動車保険などに「弁護士費用特約」が付いていれば、弁護士に頼む費用の負担を抑えられる場合がある。特に、自分に過失がない事故(いわゆる「もらい事故」)では、被害者自身の損害賠償請求について、自分の賠償責任保険による示談交渉のサービスは通常使えないので、この特約が役に立つことが多い。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
交通事故の被害にあい、相手方の保険会社と話がかみ合わない。弁護士に頼みたいが、費用が心配で踏み出せない。こうしたとき、自分や家族が入っている自動車保険などに「弁護士費用特約」が付いていれば、弁護士に頼む費用の負担を抑えられる場合がある。特に、自分に過失がない事故(いわゆる「もらい事故」)では、被害者自身の損害賠償請求について、自分の賠償責任保険による示談交渉のサービスは通常使えないので、この特約が役に立つことが多い。
弁護士費用特約の中身を直接定めた法律の条文はない。特約は、保険会社と保険契約者の間の契約(保険契約)の一部で、内容は約款で決まる。保険法は、損害保険契約の「被保険者」の意味と、保険金を請求する権利の時効を次のように定めている。
四 被保険者 次のイからハまでに掲げる保険契約の区分に応じ、当該イからハまでに定める者をいう。
イ 損害保険契約 損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者保険法2条4号イ(e-Gov法令検索で原文確認)
保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第六十三条又は第九十二条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。保険法95条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
① 事故の時点で特約が付いていること。 事故が起きた時点で有効な保険契約に特約が付いていたかを確かめる。事故の後に特約を付けても、すでに起きた事故には通常使えない。自動車保険のほか、火災保険や傷害保険などに付いていることもあり、自動車事故だけを対象にするものと、日常生活の事故まで対象にするものがある。
② 被保険者に当たること。 約款によって違うが、記名被保険者(契約の中心となる人)のほか、その配偶者、同居の親族、別居の未婚の子、契約車両に乗っていた人などを被保険者とする商品が多い。「配偶者」「未婚」などの意味も約款が定めているので、約款の定義で確かめる。家族以外の人の車に乗っていて被害にあった場合でも、その車の保険の特約が使えることがある。
③ 対象となる事故・費用であること。 被保険者が被害にあい、相手方に損害賠償を請求する場面が対象である。人身事故だけでなく物損事故でも使える商品が多い。一方、多くの約款は、被保険者に事故の全部の責任がある場合、相手方から賠償を求められたときに身を守るための費用(自分の損害を回復するための費用ではないもの)、刑事事件の弁護費用を対象外としている。故意や飲酒運転など約款が定める免責事由に当たる場合、一定の親族に対する請求、業務に関係する事故などに制限を設ける商品もある。
④ 保険会社の同意。 多くの約款は、保険会社の同意を得て支出した弁護士費用を支払の対象としている。被保険者は、弁護士に依頼する前に保険会社に特約を使うことを伝え、対象となる費用と金額を確かめる。ただし、保険会社の説明や社内の基準だけで支払う義務の範囲が最終的に決まるわけではなく、約款の内容と費用の必要性・相当性によって判断される。
区分|多くの商品の限度額(被保険者1人・1事故あたり)
弁護士費用(着手金・報酬金・実費など)|300万円
法律相談料|10万円
限度額は商品ごとに違い、これより低いものもある。複数の保険の特約が使える場合でも、実際にかかった費用を超えて保険金を受け取ることはできず、限度額を単純に足し合わせられるとも限らない。
1. 被害にあった人が、自分と家族の保険証券・約款、事故の時に乗っていた車の保険を確かめ、特約が付いているか、自分が被保険者に当たるかを調べる。分からなければ保険会社や代理店に問い合わせる。
2. 被害にあった人が保険会社に、事故の被害について弁護士に相談・依頼したいので特約を使いたいと伝える。
3. 被害にあった人が弁護士を選ぶ。自分で探した弁護士に頼むこともでき、心当たりがなければ保険会社を通じて弁護士の紹介を受けられる場合もある。
4. 被保険者は、依頼する予定の弁護士から費用の見積りを受け、有料の相談や正式な依頼で費用が生じる前に、保険会社に見込みを伝えて約款で必要な同意を得る(弁護士が代わりに連絡することも多い)。
5. 弁護士費用は、保険会社から弁護士へ直接支払われる扱いが多い。
実務の視点 特約を使うかどうかは、相談の段階で弁護士に伝えておくとよい。保険会社への連絡や費用の確認を弁護士が代わりに進めることが多い。保険証券の写しを手元に用意しておくと話が早い。
① 相手方の保険ではなく、自分側の保険を使う。 相手方の保険会社に弁護士費用を出してもらう仕組みではない。また、特約は弁護士費用を補償するもので、相手方から賠償金を回収できることまで保証するものではない。
② 弁護士は自分で選べることが多い。 保険会社の紹介を受けなければならないわけではない。ただし、依頼の前に保険会社に連絡し、費用について確認を取っておく。
③ 少額の物損でも使えることがある。 損害額が小さく弁護士費用の方が高くなりそうな事故でも、特約で弁護士費用がまかなわれれば依頼できる。
④ 保険料(等級)への影響。 一般的な自動車保険では、弁護士費用特約だけを使った場合は、翌年以降の等級に影響しない扱い(いわゆるノーカウント事故)とする商品が多い。ただし、同じ事故で車両保険など他の補償を使えば別に扱われる。自分の契約で確かめる。
⑤ 示談に同意する前に相談する。 示談は、示談書に署名する前でも、口頭やメールで金額や条件に同意すれば成立することがある。示談が成立すると、示談で解決した範囲の追加の請求は原則として難しくなる。なお、示談が成立しても、それまでにかかった弁護士費用について保険金を請求できなくなるとは限らない。
議論のある点 被保険者に当たるかどうかは、まず約款の定義で確かめるが、「同居」かどうかなど事実の認定や条項の意味が争われることがある。また、保険会社が同意できるとする弁護士費用の範囲と、実際の依頼の費用とがずれる場合、どこまで保険金が支払われるかは、約款の内容と費用の必要性・相当性によって判断が分かれうる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・相手方の保険会社の示す賠償額や過失割合に納得できない
・自分に過失がない事故で、自分の保険会社に示談の交渉を頼めない
・相手方が任意保険に入っていない、連絡が取れない、責任を認めない
・家族の保険に特約が付いているが、自分が使えるか分からない
・保険会社から特約の利用を断られた、費用の一部しか払えないと言われた
・示談に同意した後で、後遺症が出てきた、示談の内容に疑問がある
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
特約の有無は、事故の直後、相手方との話し合いを始める前に確かめておくのがよい。示談に同意する前であれば、特約を使って弁護士に相談できる。事故や費用の発生から時間がたっている場合は、保険金請求の時効にも注意する。
弁護士費用特約は、交通事故の被害について弁護士に頼む費用を、被保険者が自分側の保険でまかなえる仕組みである。内容は約款で決まり、多くは弁護士費用300万円・相談料10万円が限度で、依頼の前に保険会社への連絡と確認が要る。事故の時点の保険証券と約款を確かめ、示談に同意する前に弁護士に相談するとよい。
出典
保険法2条4号イ・95条1項(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)