問題提起
「今回の事故は、あなたにも2割の過失があります」。保険会社からこう言われても、どうしてその割合なのか分からない。相手の方が明らかに悪いと思っていると、納得できないのは当然である。過失割合は、賠償額に直接はね返る大事な数字なので、言われるままに受け入れず、根拠を確かめたい。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
「今回の事故は、あなたにも2割の過失があります」。保険会社からこう言われても、どうしてその割合なのか分からない。相手の方が明らかに悪いと思っていると、納得できないのは当然である。過失割合は、賠償額に直接はね返る大事な数字なので、言われるままに受け入れず、根拠を確かめたい。
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。民法722条2項(e-Gov法令検索で原文確認)
① 被害者の過失。 被害者側に事故の発生や損害の拡大に関わる不注意があると、裁判所はそれを考慮して賠償額を減らすことができる。どの程度考慮するかは、裁判所が事情を総合して判断する。被害者本人だけでなく、被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられる関係にある人の過失も「被害者側の過失」として考慮されることがあると、最高裁は判断している(最判昭和42年6月27日・民集21巻6号1507頁。夫が運転する車に同乗していた妻の損害について夫の過失を考慮できるとしたものとして、最判昭和51年3月25日・民集30巻2号160頁)。ただし、家族や同居人であれば当然に含まれるわけではない。
② 示談と裁判の関係。 示談の段階では、当事者や保険会社の話し合いで割合を決めることになる。相手方の保険会社の提示だけで被害者が拘束されることはない。合意できなければ、紛争解決機関(ADR)や裁判所の手続で決めることになり、判決が確定すれば、被害者が同意していなくてもその内容で賠償額が決まる。
③ 基本の割合と修正要素。 実務では、事故の類型(交差点での直進車と右折車、追突など)ごとに基本の割合を置き、速度違反・合図の有無・夜間・幹線道路かどうか・歩行者が子どもや高齢者か、などの修正要素で割合を加減する考え方が使われている。
④ 自賠責保険は仕組みが違う。 自賠責保険はけがや死亡などの人身損害が対象で、物損は対象外である。また、相手方の運行供用者に賠償責任があることが前提になる。自賠責保険会社が支払基準に従って支払う場合は、通常の過失相殺ではなく、被害者に重大な過失がある場合に限って定められた割合で減らす仕組みによる。ただし、被害者が自賠責保険会社を相手に裁判を起こした場合、裁判所はこの支払基準に拘束されない(最判平成18年3月30日・民集60巻3号1242頁)。
1. 被害者は、保険会社に、提示した過失割合の根拠(どの事故類型に当てはめたか、どの修正要素を考えたか、何の資料に基づくか)を尋ねる。できれば書面で回答を求める。
2. 被害者は、自分の記憶と、事故の状況を示す資料(ドライブレコーダーの映像、現場写真、車の損傷の写真、目撃者の話)を集める。周辺の店舗などの防犯カメラの映像は短期間で上書きされることがあるので、早めに保存を頼む。
3. 人身事故であれば、被害者は警察の実況見分調書などの刑事記録の取寄せを検討する(記事「実況見分調書|警察の事故記録を取り寄せて事実を確かめる」参照)。
4. 被害者は、資料をもとに、自分の考える割合と根拠を相手方に伝えて話し合う。
5. 話し合いで決まらなければ、被害者は交通事故の紛争解決機関(ADR)への申立てや、裁判所の調停・訴訟を検討する。
実務の視点 自分の車にドライブレコーダーがあれば、事故の直後に映像を別の媒体に保存しておく。現場の写真は、信号や標識、見通し、道路の幅、停止線の位置が分かるように撮る。記憶は時間とともに薄れるので、事故の経過を早めにメモに残す。
① 提示は確定ではない。 保険会社の提示は相手方の立場からの見解であり、被害者が同意しなければ示談は成立しない。
② 「動いていれば過失あり」とは限らない。 自分の車が動いていたから必ず過失があるわけではない。事故の類型や具体的な状況によって判断される。
③ 自分の保険も確かめる。 自分に過失がつく場合でも、自分が入っている人身傷害保険や車両保険から、過失分を含めて支払を受けられる場合がある。どの順番で使うと有利かは事情によるので、使う前に確かめる。また、自分に賠償責任がない事故では、自分の賠償責任保険による示談交渉のサービスは通常使えないので、弁護士費用特約が使えるかも確かめる。仕事中・通勤中の事故では、労災保険の利用と、示談が労災の給付に与える影響も確かめる。
④ 物損の示談に注意。 示談は、過失割合を書かずに金額だけで成立することもある。物損を先に示談する場合、示談書の対象が物損に限られているか、過失割合について何を合意するのかを確かめる。合意の内容によっては、人身の損害についても同じ割合に拘束されることがあるので、物損だけの合意なのかを明記する。
⑤ 交渉を続けるだけでは時効は止まらない。 時効を止める方法には、相手方が支払う義務を認める(承認)、訴えを起こす、協議を行う旨を書面で合意する、などがあり、それぞれ効果や期間が違う。
議論のある点 どの事故類型に当てはめるか、修正要素があるか、事故の事実そのもの(信号の色、速度、合図の時期など)は、資料によって見方が分かれ、争いになりやすい。基準はあくまで目安で、個別の事情で結論が変わる。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・提示された過失割合の根拠が説明されない、説明に納得できない
・信号の色や一時停止の有無など、事故の事実について相手と言い分が違う
・けがが重く、割合の違いで賠償額が大きく変わる
・自分に過失がないのに、自分の保険会社が交渉できないと言われた
・自分の人身傷害保険や車両保険をどう使えばよいか分からない
・物損の示談を先に求められている、事故から時間がたって時効が心配だ
・仕事中・通勤中の事故で、労災保険との関係が分からない
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
映像や現場の状況は時間がたつと失われやすいので、事故の直後から資料を残し、割合に疑問をもった時点で、示談に同意する前に相談するとよい。
保険会社が示す過失割合は相手方の見解にすぎず、被害者が同意しなければ示談は成立しない。割合の根拠となった事故類型と修正要素を確かめ、映像・写真・刑事記録などの資料で事実を固めることが大切である。示談で割合が確定する前に、弁護士に相談するとよい。
出典
民法722条2項・724条・724条の2(e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)/最判昭和42年6月27日(昭和40年(オ)第1056号)民集21巻6号1507頁/最判昭和51年3月25日(昭和47年(オ)第457号)民集30巻2号160頁/最判平成18年3月30日(平成17年(受)第1628号)民集60巻3号1242頁