問題提起
相手方は「あなたが急に飛び出してきた」と言い、自分の記憶とまったく違う。言い分が食い違うとき、事故の後に警察が現場で記録した資料があれば、事実を確かめる手がかりになる。ただ、警察や検察が持っている記録は、誰でもいつでも見られるわけではない。
弁護士に相談する前に知っておきたい法律の要点を、分野ごとにスレッド形式でまとめています。
相手方は「あなたが急に飛び出してきた」と言い、自分の記憶とまったく違う。言い分が食い違うとき、事故の後に警察が現場で記録した資料があれば、事実を確かめる手がかりになる。ただ、警察や検察が持っている記録は、誰でもいつでも見られるわけではない。
訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。刑事訴訟法47条(e-Gov法令検索で原文確認)
何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。刑事訴訟法53条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条1項(e-Gov法令検索で原文確認)
刑事手続の段階|被害者が使える主な方法
捜査中|原則として開示されない(刑事訴訟法47条)
不起訴になった|被害者等が損害賠償の請求などのために必要とする場合、検察庁が、捜査や関係者のプライバシーへの影響などを考慮したうえで、実況見分調書・写真撮影報告書などの客観的な証拠の閲覧・謄写を認める運用がある。供述調書の開示は、より限られた場合にとどまる
起訴され公判中|第1回公判期日の後、事件の終結までの間に、被害者等や依頼を受けた弁護士が、刑事事件の係属する裁判所に閲覧・謄写を申し出る(犯罪被害者保護法3条)。裁判所は、理由が正当でない場合や相当でない場合を除いて認める
略式命令の請求がされた|通常は公開の公判が開かれないので、公判中の閲覧・謄写の制度とは区別して、記録の保管先と確定の状況を検察庁に確かめる
判決・略式命令が確定した後|被害者などが、記録を保管する検察庁に閲覧を請求する(刑事訴訟法53条・刑事確定訴訟記録法4条)。コピー(謄写)の可否や方法、手数料は保管検察庁に確かめる
民事の裁判を起こした後|被害者(原告)が民事の裁判所に文書送付嘱託を申し立て、裁判所が採用すれば、裁判所が記録を保管する検察庁などに送付を頼む(民事訴訟法226条)。送付されるかや範囲は、裁判所と保管先の判断による
公判中や確定後の制度で見られるのは、裁判所に提出された訴訟記録や保管記録で、捜査で作られた資料がすべて含まれるとは限らない。刑事確定訴訟記録法4条2項は、被告事件の終結から3年を経過したときなどは、保管検察官は保管記録を閲覧させないものとしつつ、訴訟関係人や閲覧について正当な理由があると認められる者からの請求はこの限りでないとしている。この3年は、事故の日からの申請期限でも、記録の保存期間でもない。記録には種類や処分の結果に応じた保存期間が別にあり、期間が過ぎると廃棄されることがあるので、早めに保管先に保存の状況を確かめる。不起訴記録は、閲覧と写しの取得(謄写)とで扱いが違うことがある。なお、同条は電磁的記録の閲覧を加えるなどの改正が予定されている(令和7年法律第39号による改正・2027年3月31日施行予定。改正後は項の番号がずれる)。
加害者が少年で、事件が家庭裁判所の少年保護事件として扱われる場合は、記録の閲覧・謄写の制度、窓口、申出ができる時期が異なる。また、双方に過失が問題となる事故で、自分も被疑者・被告人の立場にある場合は、使える制度が違う。
1. 被害者は、刑事手続がどの段階にあるか(捜査中か、起訴されたか、略式命令か、不起訴か)を、事故を扱った警察署や担当の検察庁に問い合わせて確かめる。
2. 被害者は、段階に応じて、検察庁や裁判所に閲覧・謄写の申請をする。本人確認書類や被害者であることを示す資料(交通事故証明書など)が必要になる。弁護士に依頼すれば代理で申請できる。
3. コピーや閲覧には手数料や費用がかかることがあるので、必要な部分を選んで申請する。
4. 民事の裁判を起こしている場合は、必要な記録を特定して文書送付嘱託を申し立てる。
実務の視点 不起訴の処分が出るまで時間がかかることがある。処分の結果は、被害者が検察庁に申し出れば知らせてもらえる仕組みがある(被害者等通知制度)。けがや症状がある場合は、まず受診して診断書を取り、警察にも申告する。物件事故として処理されたままでも人身の損害を請求できなくなるわけではないが、記録の種類が変わる。
① 調書の記載がそのまま真実とは限らない。 実況見分調書の位置関係は、立ち会った当事者の指示説明に基づいて書かれることが多い。相手方の説明だけで作られている場合もあるので、他の資料と照らし合わせて読む。
② 物件事故では簡単な記録にとどまることが多い。 通常の物件事故の処理では、人身事故の捜査と同じ実況見分調書は作られず、「物件事故報告書」などの簡単な記録になることが多い。取り寄せ方も違う(弁護士会照会などによる)。まず警察に記録の種類を確かめる。
③ 弁護士会照会との違い。 弁護士が弁護士会を通じて照会する方法(弁護士法23条の2)もあるが、刑事記録そのものの閲覧・謄写の手続がある場合は、そちらによるのが通常である。
④ 待つ間にもすべきことがある。 処分が出るまでは開示されないのが原則なので、その間は、ドライブレコーダーの映像や現場写真など自分で集められる資料を確保し、周辺の防犯カメラの映像は早めに保存を頼む。時効が近い場合は、記録の取寄せを待たずに時効への対応をとる。
議論のある点 不起訴記録の開示の範囲(供述調書がどこまで開示されるか)や、閲覧を認めるかどうかの判断は、法令の文言だけでなく検察庁の運用に左右され、事案によって扱いが分かれる。また、調書の記載をどこまで信用できるかは、他の証拠との突き合わせで判断される。一般論だけで判断せず、弁護士に相談してほしい。
・事故の状況について相手方と言い分が大きく食い違っている
・過失割合を争いたいが、手元に客観的な資料がない
・刑事手続がどの段階にあるか分からない、略式命令になった
・加害者が少年で、家庭裁判所の手続になった
・自分も過失を問われ、刑事手続の対象になっている
・事故から時間がたち、時効が心配だ
具体的な事案は、法律事務所、弁護士会の法律相談センターや法テラス等にご相談ください。
過失割合に争いがあると分かった時点で相談し、刑事手続の段階に応じて記録を取り寄せる時期を見極めるとよい。映像など自分で持っている資料は、事故の直後から保存しておく。
実況見分調書は、事故の状況をめぐる争いで重要な資料になる。取り寄せ方は、捜査中・不起訴・公判中・確定後・民事の裁判の後で違い、法律の規定と検察庁の運用によって決まる。記載は当事者の説明に基づくこともあるので、他の資料と合わせて読み、時効にも注意しながら早めに弁護士に相談するとよい。
出典
刑事訴訟法47条・53条1項/刑事確定訴訟記録法4条(令和7年法律第39号による改正後の版も確認)/犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条1項/民事訴訟法226条(いずれも e-Gov 法令検索で原文確認・2026-10-19)